活動報告

第54回定時総会 第3分科会(後編)(4月24日)

中小企業の仕事づくりが持続可能な地域をつくる

~ エネルギー・シフトで地域再生 ~

大槻 眞一氏  龍谷大学エクステンションセンター(REC)顧問・阪南大学名誉教授
菊田 哲氏   岩手県中小企業家同友会事務局長

様々な具体的事例を織り交ぜた報告

様々な具体的事例を織り交ぜた報告

《岩手県中小企業家同友会事務局長 菊田 哲氏》

「一社もつぶさない、つぶさせない」

東日本大震災前から、岩手県は人口減少が激しい地域でした。例えば、二戸市という人口3万人程度の地域では、以前は年間600名程度の出生数があったのが、現在では200名前後にまで低下しています。そのうえ、18~22歳の間に、およそ半数が地域外に出てしまう状況です。地域に十分な仕事がないため、若い人たちは外に出るしかないのが実情です。

震災当時、陸前高田市や大船渡市といった沿岸部に、会員企業は80社ほどありました。しかし震災3日目、現地に足を踏み入れましたが、全く形を無くしてしまった街の姿を目の前に、呆然としたことを覚えています。

その中でも、内陸部の盛岡市では「岩手の企業を一社もつぶさない、つぶさせない」をスローガンに掲げ、少子高齢化と人口減少のさなかに起こった未曾有の大震災に立ち向かおうと、仕事をつくり、雇用を生み、地域を守るために何ができるのかを考える活動を展開してきました。しかし、いくら考えても前進する足掛かりを掴むことができません。そんな最中の2013年、中同協のドイツ・オーストリア視察に参加する機会を得られたのです。

新しい生き方を創造する

震災以後、何もなくなってしまった街を前に、先も見えず、ただ頭を悩ます日々が日常でした。そんな私たちにとって、視察で訪れたヨーロッパの風景は衝撃的でした。

ドイツのフライブルクを訪問したときのことです。人口30万人ほどの都市にも関わらず、平日の昼間から街には人があふれているのです。駅から2キロメートル圏内の中心市街地には車が立ち入らず、トラム(路面電車)と電気バスが市民の足として走っている、高齢者も障害者もみんなが豊かに暮らしているのです。その風景を見て、私たちは色のある世界を思い出すことができました。そして、復興に関する最も基本的なことも確認できました。本当に必要なのは、「失ったものを取り戻すのではなく、新しい生き方を創造する復興」です。

視察から帰国後、岩手同友会の同友会大学では、全17講座のうち、半分はエネルギーシフトをテーマに講師選定をするなど、岩手同友会でのエネルギーシフトに関する学習会は、のべ100時間を超えました。

広がる実践の輪

実践の輪も広がりつつあります。岩手同友会のエネルギーシフト研究会では、太陽熱温水器やヒートポンプの活用など石油系の燃料に依存しない熱供給の方法を模索したり、壁面や屋根裏、床下の断熱構造を研究し、真冬に無暖房でも暖かく過ごせる室内空間を実現するなど、企業間の知恵の交流でさまざまな工夫が実践されはじめています。

地域実践も広がっています。住田町では「森林・林業日本一の町づくり」を掲げ、地元産の木材をフルに生かした役場を建設、町営住宅も地元産材でつくるなど木材の地域内循環を試みています。また紫波町ではエネルギーステーションをスタートさせ、町役場への熱供給が始まっています。役場の周囲に57棟建設を予定している紫波型エコハウスでは、住宅性能の基準を定め、各家庭へのエネルギーステーションからの熱供給の仕組みも、既に整えられています。

それぞれの企業でもユニークな取り組みが進んでいます。岩手県は雪が多い地域ですので、冬になると道路に融雪剤が散布され、それによって自動車が早く腐食してしまうことが問題となっています。そこで葛巻町の前野モータースという会員企業では、自動車1台をすべて分解し、部品まで丁寧に防錆処理を施すことを行っています。エネルギーシフトというと、どうしてもエネルギーそのものに目が行きがちですが、地域特有の課題を解決するという視点から、こんなエネルギーシフトの実践もあるという好例です。

自分たちの生活をヴェンデ(大転換)させる

ヴェンデ(大転換)を呼びかける菊田氏

ヴェンデ(大転換)を呼びかける菊田氏

この間の岩手同友会での取り組みを通じて、日本は欧州の何倍も資源に恵まれていることを実感しました。これまでいかにエネルギーを無駄にしていたか、その無駄にしているエネルギーを徹底して生かすことを考え、実行していくことがエネルギーシフトの第一歩だということです。まさに徹底した省エネ、小エネは中小企業の仕事づくりにつながります。

そのためには、私たち自身が自分たちの普段の生活そのもの、生き方そのものを「ヴェンデ(大転換)」することが、実現へ近づく一歩です。

地域を見つめ、学習運動を起こし、エネルギー・シフトの実践のうろこを全国に無数につくりだすこと、そして社会全体のうねりにしていくことが決定的に重要です。更に、都市と地方、農山村がそれぞれに持つ持ち味を互いに生かし合う方法を考えること、人口減少、少子高齢化という根幹の課題を、自分たちの生き方を見直す契機とすることが求められます。

エネルギーシフトの取り組みは、岩手で確実に地域を変える力になりつつあります。できることを、できるところから、皆さんそれぞれのエネルギーシフトの運動を起こしていきましょう。

【文責 事務局・三宅】