活動報告

第19回あいち経営フォーラム 第6分科会(2019年11月19日)

変化を見定め、自社の将来を展望しよう
~情勢・社会の動きを経営に活かす

小川 康則氏 (株)北斗

「今こそ先を見据えた経営を」。今号より、昨年11月に開催されたあいち経営フォーラムから、分科会を取り上げ紹介していきます。今回は第6分科会の小川康則氏(北斗)の報告です。常に自社、業界、社会全体を冷静に見つめ、会社を変化させてきた小川氏。考え方が大きく変化する今だからこそ、各社の参考にしていただければと思います。
(図表、グラフ等は、小川氏の報告パワーポイントを一部加工し、転載)

報告する小川康則氏

中古車販売から建設へ

私が独立したのはバブル絶頂期の1987年です。当初は中古車のブローカーをしていましたが、あるお客さんから「独立したい」と相談を受けたことで、その方と一緒に建設会社を共同経営することになりました。しかし、なかなか上手くいかず、半年ほどでその関係を解消し、私は北斗営繕という屋根工事業を個人創業することで、建設業界で再スタートを切りました。

ある時、積水化学工業から指定工事店の誘いをいただきました。「工事力のある会社に、施工と営業をしてもらいたい」というのが理由だったようで、当社としてはチャンスでした。

同社の指定工事店になったことで、今につながる学びをいろいろと得られました。そのもっとも大きなものは、データに基づき経営をすることです。

企業経営とデータ活用

当時の営業方法は、ポスティングをし、それを見たお客様から積水化学工業に問合せがあり、当社が営業に出かける、という流れでした。そうしたなか、ポスティングに対する反応率が2000分の1を下回っては、営業効率を損なっているということを教えてもらいました。まさにデータの蓄積と分析による経営です。

データに基づく経営の大切さが分かったことで、当社では早くからパソコンを導入しました。最初に導入したものは本体価格が1台あたり120万円で、ソフトウェアは1本30万円ほどと非常に高価なものだったことを覚えています。決して小さくない投資でしたが、早い段階から顧客情報や経営に関わる情報のデータ化と蓄積に取り組めたことは、今の経営でも大いに役立っています。

本業に新しい仕事を追加する

商売が軌道に乗り始めたなかで、新しい事務所を持とうと思い不動産を購入しました。敷地が広く、広い道路にも面した場所でしたので、ホームセンターのようにカーポートをつくり、ついでにエクステリアのショールームも兼ねようと思いついたことで、1996年に一宮展示場をオープンさせ、エクステリアや外構工事業に本格的に参入しました。

ネクタイを締めた職人たち

仕事を変えるのですから、社員の仕事も当然、劇的に変化します。当社の場合は、それまで屋根に登っていた職人に、外構工事で地面に穴を掘らせることになります。まったく経験のない仕事に、なおかつ職人集団が取り組むわけですから、仕事の付加価値は上がりません。どうしたものかと考えるなかで思いついたのが「自分たちで営業する」ということでした。

ある日、職人ばかりの社員を集めて、「全員ネクタイをしろ」「営業に出るぞ」と話しました。社員はみんな本当に嫌がりましたし、パソコンも満足に使えない状態でした。しかし、付加価値を上げないことには会社としての将来も危ういので、とにかくやり続けました。

それが力になり、創業以来勤めている2人は今やそれぞれが1億円以上を売り上げるまでになっています。このうちの1人が現在の社長です。人間、やれば変わるものだと感心しています。諦めなければ“負け”は無いのです。

現状をシビアに見る

仕事を広げていくなかで、上手くいかないことに直面していた時、同友会に入会しました。会活動に参加するうちに役を頂き、地区会長になる時に、「地区会長なら経営指針書ぐらい作らなければいけないな」と思い、半年ほどかけて1人で成文化しました。

この頃から、私が経営指針の作成、あるいはその前提となる情勢を分析する時に大切にしているのは、「現状をシビアに見る」ことです。言いかえれば、どのような変化が自社にどう影響してくるのかを突き詰めることで徹底的に自社を知り、経営上のリスクを見積もっていくことが大事だということです。

地区などでも「あなたの経営課題は何ですか」と問いかけて、「課題は特にありません」と回答されることがありますがこれは大問題です。このような時は、「課題がない(気づいていない)こと自体が課題」だと伝えるようにしています。

わが社の経営方針

三つの真価

  1. 常に顧客側の立場から業務を改善(深化)し、最大限の努力をし続け、求められる社会人、選ばれる会社を目指します。
  2. 雇用や教育システムの確立、業務の効率化など社内インフラの革新(進化)を推進し、やりがいの有る会社、皆が、活き活きと働ける会社を目指します。
  3. 時代の変化を察知し、顧客目線に立った新しい収益基盤を絶えず模索・挑戦(新化)し、お客様に期待され、継続し続ける会社を目指します。
わが社の経営方針

ネガティブとポジティブの視点

情勢を見る時、業界や社会で起こっていることが、自社にはどのように影響を与えるものなのかを「ネガティブ」な視点で考えるようにしています。当然、経営指針を作る時にもその視点が貫かれます。つまり、自社が影響を受ける可能性のある問題をどう回避するのか、あるいはどのように突破するのか、という視点に立つことになります。そうしなければ、常に変化する社会や経済の状況に対処することは難しいと思います。

一方、先の展望であるビジョンにはワクワク感が大切です。将来に明るさを感じることができなければ、社員は希望を持てませんし、日々の仕事にも前向きに取り組んではくれないでしょう。当然、ついて来てもくれません。きっと経営者も同じだと思います。私もビジョンは、できる限り「ポジティブ」な視点で、明るく提示するように心がけています。

現実はシビアに、展望はポジティブに見る

方針・計画がない経営者?

同友会の経営指針は「理念・方針・計画」の3つで構成されるものです。ところが「理念はあるが、方針・計画はない」という方がいたのです。私は正直、驚きました。

そもそも私たちは経営者です。どのようにして売上と利益を伸ばし、それをどう分配するのか、あるいはどう蓄積し、会社を発展させるために投資していくのかを考える立場です。そうだとすれば、たとえ理念はなくとも、方針・計画は緻密なものでないとしても作っていて当たり前だと考えています。私自身も、同友会入会前から経営方針・経営計画は作っていましたし、むしろ入会して学んだのが経営理念でした。

自社は何屋か

経営指針を作った当時、私も同友会でよく言われる「自社は何屋か」を考えました。新しいことをするのが好きな性格ですから、あまりに建設業に片寄った理念だといろいろなことにチャレンジできないと思ったので、当時のメインだった建設を中心に置きながら、その周辺に派生する新しい仕事を取り込んでいく発想で「生活提案業」と自社の事業を定義付けました。

これがあったからこそ、今の4つの事業(建設業、不動産業、介護事業、美容業)に展開してくることができたと考えています。そしてこの4つの事業への展開を支えたのが、情勢の分析です。

人口減少が自社に与えるもの

当社は介護事業も行っています。その一環でナーシングホームを作る際に人口予測を検討しました。簡単に言うと、生産年齢人口(15歳~64歳)は減少し、高齢者は増加するということです。

介護事業からすると、それだけ顧客となり得る年齢層の人口が増えるということになり、チャンスでもあります。ところが、当社の建設業や不動産業の面から見ると、家を建てる年齢層の人口が減っていくことになり、これは事業上の危機的要因となります。

事実、新築着工戸数は1990年の167万戸をピークに減少しており、2015年には年間90万戸前後です。これが、2030年度には54万戸まで減少すると予測されています(野村総合研究所の2016年予測【グラフ1】参照)。

また、世帯構成にも注意が必要です。現在の日本の世帯構造は、30%超が単身世帯です。さらに世帯数そのものも減少しているため、住宅の建築戸数が減少するのは必然です。こうした状況を引き起こしている最大の要因は人口減少です。

【グラフ1】新設住宅着工戸数の実績と予測結果
新築着工戸数は1990年の167万戸をピークにその後は減少し続け、2030年度には54万戸まで落ち込むと予測されている(野村総合研究所2016年発表)

日本とアメリカの住宅事情

新築住宅の着工戸数が減少するのであれば、既存住宅のリフォームに重点をシフトすることがしばしば言われます。ところが、現実は思うほど単純ではありません。

住宅市場で新築と中古がそれぞれどの程度のシェアを占めているのかを国際比較したデータがあります。これによれば、日本では全住宅流通(中古流通と新築着工)に占める中古住宅の流通シェアは、わずか13・5%ほどしかありません。対して、アメリカでは中古が流通量の90%超を占め、日本とは真逆の状況です。

極めて小さいリフォーム市場

両国の住宅資産額の違いから考えてみたところ、アメリカの場合、中古住宅に手を入れ資産価値を高める動きが取られ、他方で日本の場合は、中古住宅に手を入れることは少ない状況です。つまりアメリカでは、中古住宅に手を入れることで資産価値が高まるため、中古住宅のリフォームにお金をかけるが、住宅に支払われている累計金額はアメリカと同じように右肩上がりであっても、日本ではそのほとんどは中古住宅でなく、新築住宅に向かっているということです。

こうした違いの背景にあるのは、国民気質といった感覚的なものから、政策的な要因までさまざまだと思います。しかしデータから「事実」として分かるのは、「日本のリフォーム市場は極めて小さい」ということです。同時に、新築着工戸数が人口減少を背景に減少するということは、住宅に関わる市場自体が将来的に縮小していくことを明示していると言えるでしょう。こうした意味で、人口減少問題は非常に大きな経営上のリスク要因となっています。

データから情勢を読み解く

人手不足の原因とは

この他にも、データからはさまざまなものが見えてきます。たとえば労働生産性の問題です。中小企業白書から労働生産性の大企業と中小企業の違いを見てみると、グラフ開始年の1972年は大企業も中小企業もさほど差がなかったのが、現在では2倍近くの格差があります。こうした状況を知ったので、私は建設業の労働生産性も調べてみました。

分かったことは、建設業の現場で働く人たちの収入が非常に不安定だということです。売上高1億円以下の企業では、年間の1人あたり付加価値は619万円です。ここから、1カ月の労働日を22日とし、12カ月で計算すると、1日の1人あたりの付加価値は2万3000円です。同じように、売上高30億円以上の企業を見ると、年間の1人あたり付加価値が1828万円、1日の1人あたり付加価値は6万9000円です。ここには3倍もの格差があることが分かります。

このような状況ですから、中小企業の建設業で働きたいと思う人はきっと少ないでしょう。事実、国勢調査を見てみると、1995年には663万人いた建設業の就業者は、2010年には447万人と200万人以上減少してしまっています。これだけ減っているわけですから、建設業の人手不足が深刻化している現状は、ある意味当然と言えます。

高齢化が進む建設業界

このように、企業規模で3倍の格差がある業界です。また、若い人にとって魅力を感じづらい職種となっています。2013年時点で建設業の就業者数を年齢別に見てみると、55歳以上の年齢層が34・3%です。全産業の平均は、55歳以上は28・6%であることを考えると、建設業で働く人の高齢化は際立っています。他方、29歳以下の若い年齢層では、建設業で働く人は、わずか10・2%です。これも全産業平均で29歳以下の人が16・6%を占めていることを考えると、建設業の担い手不足の問題は極めて深刻なことが分かります。(【グラフ2】参照)

当社の場合、今の事業の柱はエクステリアや外構工事の分野です。しかし、現状はこの分野で売上を伸ばすことは至難の業であることを示しています。また、人間は必ず年を取るので、業界の大きな部分を支えている55歳以上の年齢層の職人は、あと数年で現場からいなくなってしまいます。業界を次の時代につないでいく上で、企業規模間の労働生産性の格差を縮小させ、若い人たちが将来に希望を持つことができる賃金や労働環境整備が極めて大きな課題と言えます。

【グラフ2】建設業就業者の高齢化の動向
建設業の就業者数は、全産業に比べて、55歳以上の高齢者が増加する一方、29歳以下の若年者の減少により、高齢化が著しく進行(次世代への技能継承が大きな課題)

製品ライフサイクルから事業を見る

製品がたどる「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の各段階からなるライフサイクルで建設業を見ると、「新築外構事業」は「衰退期」、「リフォーム・不動産事業」は「成熟期」にあたります。建設業界の先行きが厳しいなか、企業を維持・発展させていくには新しい手を打つ必要があることがわかります。

当社では、創業時からの顧客データを5000件余り保有しています。お付き合いした顧客の方の幸せな暮らしを守るために蓄積してきたデータです。これにより、以前お付き合いした顧客の方が高齢になり、介護施設への入所や、亡くなられたことで自宅が取り壊されて更地となり、不動産が市場へ流通するなど変化していることが分かりました。また、ここ最近のリフォームや改修工事の背景に、高齢化による介護問題があることに気づきました。ケアマネージャーの指示のもとで行われる工事には、補助金が交付されるというのも大きな理由です。こうした状況ですから、介護に関わればリフォームや改修工事のニーズ、あるいは不動産情報をより川上で掴め、現在の当社の事業との相乗効果も期待できます。

そして何より「介護事業」は「成長期」の分野です。人口推計でも、高齢者がもっとも多くなるのは2040年頃とされていますので、当面の事業の柱となる可能性を持っています。これらが介護事業に参入した理由です。

“住む”をキーワードに

当社が介護事業に参入する時から考えていたのは、柱である“住む”を、介護分野で活かすことのできるサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)でした。調査資料を見ても、サ高住の運営法人には、医療法人を抜いて建設業や不動産業が多いようです。また、建設費を安価に抑えられることもメリットです。

ただし成長産業ですので、競争は激烈です。他社との差別化を図らなければ、淘汰されていくことになります。当社の場合、専門家も交えての検討に1年を要しました。運良く看護師資格を持っている方とのご縁があったことも、追い風でした。この中で行き着いたのが「看取り」です。

終末期の希望と現実のギャップ

終末期に関わる日本人の意識調査の結果を見ると、半数以上はできるだけ「自宅で過ごしたい」と回答しています。(【グラフ3】参照)しかし実際は、日本人の大多数(81%)は病院で亡くなっています。つまり日本人の終末期の過ごし方の希望と現実には、大きな違いがあるということです。

高齢化が今後進むなかで、2040年には年間死亡者数が160万人を超えピークを迎えると推定されています。これは2015年時点から比較して36万人の増加です。見方を変えると、現状のままではこれだけ多くの方が、希望と異なる終末期を過ごすことになるということでもあります。

【グラフ3】国民の意識(1) 終末期の療養場所について

【グラフ3】国民の意識(1) 終末期の療養場所について
一般国民において「自宅で最後まで療養したい」と回答した者の割合は約1割であった。自宅で療養して、必要になれば医療機関等を利用したいと回答した者の割合を合わせると、約6割の国民が「自宅で療養したい」と回答した。

人間の尊厳をどのように考えるか

さらに日本は、病気等のために看取られる本人の生活の質や尊厳が十分に守られない状況に達しても、生存時間を延ばすための医療が施される傾向が強い国です。医療体制の充実はありがたいことですが、それが看取られる本人の意向に沿っていないとすれば、大変残念なことです。

私は、今後はますます終末期から看取りケアまでの必要性は増すとともに、そのための施設と専門職へのニーズが高まっていくだろうと考えています。1人暮らしの高齢者も増え、子ども世帯との別世帯暮らしや、その子ども夫婦も共働きが一般的になるなかで、子育て世代にある子ども世帯の暮らしを守る意味でも、実質的には在宅での終末期や看取りケアは難しいと思います。そうした時、その受け皿となり、終末期を迎える本人の意向に沿う場所が社会から求められることになります。

今の仕事に安住しない

このような想定から、当社では建設事業には大きな伸びを期待せず、その他の分野で売上を拡大する方針を取っています。とはいえ、介護事業がいつまでも安泰とは考えていません。

日本の財政状況は、借金を返済するために、さらに借金を重ねている状況にあります。また、高齢化により社会保障費の拡大は止まらず、人口減少は進み、経済自体の停滞で支出も減少し、収入の飛躍的増加も期待できません。こうしたなか当社の付加価値を高め、利用者やその家族からも支持され続けることは、経営上、必要不可欠なものです。

自立できる企業に

当社ではこれまでから一歩進めて、小規模な家族葬を行えるスペースを併設した新しい施設を作りました。利用する本人やその家族の心の内にあるニーズに応えていくことが狙いです。

また、介護保険によって支えられている介護報酬は、国の財政状況の逼迫とともに、将来的に減少基調をたどると考えられます。既存事業の不動産や住宅関連事業と結び付ける(不動産の売却、介護リフォームなど)、あるいは介護事業、看取りの周辺に発生するニーズに基づく仕事(葬儀、遺言書作成、相続の各種手続きサポートなど)を付加することなどで、保険制度だけに頼らない経営を目指すことを今後のビジョンとして示しています。

10~20年後の会社・業界の展望を話し合う

なぜ新しいことができるのか

しばしば「なぜそんなに新しいことに取り組めるのか」と聞かれます。私自身の性格もあるかもしれませんが、何より思うのは、経営者の仕事はあくまで経営であるということです。

まだ一線で営業をしていた頃、地区の先輩から「経営者は経営で飯を食わないといかん」と言われました。今でも心に残っている言葉です。つまり、社員に任せることで、自発性を発揮させる「人を生かす経営」の実践で、企業として新しいことに挑戦していけるのです。

経営は経験の科学

私の経営観の基本は「経営は経験の科学である」という考え方です。「人を生かす経営」を精神的、あるいは道徳的と考える人が最近いるようですが、その見方は違うと思います。

当社の強みは「人を大切にすること」です。ただし、経営である以上、売上・利益がなければ成立しません。そこで、「売上・利益を上げ、社員に分配し、企業に蓄積し、次の事業に投資し、企業を維持・発展させる」というサイクルで、人を大切にすることを実践していくのが経営だと考えています。

これを実践するには、社会の状況を読み解き、どこにビジネスチャンスがあるのか、どこに付加価値を付けられるのかを経営者が指し示し、社員と経営者がそれぞれの役割のもとで具体化することが不可欠です。そして、これを実践する必要条件が、情勢を掴み、変化を見定めることです。そのための情報を発信し合い、議論し合う場が同友会だと思っています。

【文責 事務局・服部】

第19回あいち経営フォーラムの報告集はあいどる「事務局からのお知らせ」にアップされています。URLは下記。
https://www.douyukai.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/forum19th_reports.pdf