フランスにおけるテレワーク浸透の経過と現状
五十畑 浩平氏 名城大学准教授
先月号から始まった連載の第2回は、フランスでどのようにテレワークが広がっていったのかについてです。五十畑准教授の問題提起を紹介します。
(図表類は五十畑氏の報告資料より転載)
【図1】習慣的にテレワークを行う従業員の割合(2018年)
10年で大きく広がる
フランスは日本と同様に、仕事は出勤して行うものという風土が根強く、テレワークは浸透していませんでした。しかし、この10年間で大きく浸透が進み、急速にテレワーク先進国になりつつあります。現在の日本におけるテレワークの状況は、10年前のフランスと重なります。
同国のテレワーク推進のきっかけは、2009年の新型インフルエンザの蔓延でした。この時に、緊急時の危機対策の1つとして期間限定のテレワーク制度が認められたことが、本格導入への第一歩と言われています。
また、16年には大気汚染問題が発生しました。外出を必要最小限にとどめるために大幅な交通規制が敷かれたことによって、自動車通勤の社員に影響が生じ、企業がテレワークを認めざるを得なくなったという背景もありました。
17年には労働者が勤務時間外や休日に、上司や同僚、取引先との仕事上のメール対応を拒否できる、通称「つながらない権利」が認められます。そして18年の労働法典改正では、テレワークが従業員の権利として位置づけられたことも、浸透につながっています。
在宅勤務は週2日が最適
【グラフ1】月間のテレワークと生産性の推移
※労働日30 日間に対するテレワーク生産性推移
現在のフランスでは、週に1~2日のテレワークが標準になっています。18年には、フランスの労働者の29%が週に1~2回テレワークを行い、8割が満足しているとの調査結果が出ています。週2日程度が最も効率が上がり、生産性が向上することも、統計調査で明らかになっています。(グラフ1参照)
同調査では、テレワークが週1日未満の場合、テレワーク態勢の準備に手を取られるだけで、ストレス低減や意欲向上、ワークライフバランスなどのテレワークによるメリットを引き出すに至らず、また逆に週3日以上では、企業との関係が希薄になることで社員は孤立化し、生産性はピークよりも落ちていくことが分かっています。
自宅での仕事には限界があり、職場に出勤して行う仕事の意味があらためて着目されています。
可能性を高める「コワーキングスペース」
【図2】テレワークの場所
※自宅が9割だが、2割はカフェなど「第3の場所」を活用
またフランスでは「コワーキングスペース」という機能的なレンタルオフィスが普及・拡大しています。自宅では狭かったり、必要な機器がないなど仕事がしにくい場合でも、ここではカフェのように安価で気軽に利用して仕事をすることができます。テレワーク実施者のうち2割程度の人がコワーキングスペースを活用しているとのことです。(図2参照)
コワーキングスペースは、企業と自治体が共同して住宅街に展開したり、国鉄が駅の空きスペースを活用したりするなどの例があります。また大手企業では、オフィス内にスペースを設け、デスクシェアに取り組んでいる例もあります。
こうした事例を参考に、例えば同友会でも会員が連携して、地域単位で共有できるコワーキングスペースを設置・拡充するなど、自宅以外でもできるテレワーク環境の整備を進められるのではないでしょうか。