活動報告

10年後の社会・働き方を見据えた企業づくり(4)

将来の職場を考える
~職場にしか果たせない役割

五十畑 浩平氏  名城大学准教授

名城大学の五十畑浩平准教授による問題提起を通じて、今後の社会や働き方について考える本連載。第4回のテーマは職場の果たす役割です。

職場の意義を問う

新型コロナウイルス対応で、各社ともテレワーク・在宅勤務への移行を余儀なくされ、今後の働き方を大きく見直す動きが生まれてきました。そうした中、一部では「オフィス不要論」まで聞かれるようになりました。

しかし、職場は依然として必要であり、なくなることはありません。実際、大規模なテレワークの経験を経た大手各社は揃って「オフィスにしか果たせない役割がある」と断言しています。

今後は「職場=リアル」と「テレワーク=ヴァーチャル」を組み合わせた働き方が主流になると見られていますが、職場はテレワークでは代替できない「学びの場」であり、そうした観点から考えると、時代や環境が今後どのように変化しても、職場そのものはなくなりません。

(出所)中原淳(2012)「経営学習論-人材育成を科学する」東京大学出版より作成

職場の持つ役割~「学び」と「支援」

では「職場」にしか果たせない役割を見ていきます。中原淳氏の『経営学習論』によれば、職場には次の4つの役割があることがわかります。

1つ目は「学習機会」です。OJTをはじめとして、実際の業務の中には学習につながる多種多様な機会が埋め込まれており、従業員は業務をすることを通じて自然に学習をしていきます。

2つ目は「支援の場」です。個人が独力では達成できなかったことが、身近にいる他者の支援によって、徐々にできるようになっていくということです。どのような他者からの支援を受けて能力向上を果たしているかを調査した中原氏の研究によれば、上司、先輩、同僚・同期を支援者と想定した場合、いずれの3者からも、仕事のあり方を客観的に振り返らせる「内省支援」を受けることが、能力向上に関係していることがわかりました。

このことから、単に上司からの直接的な指導のみならず、職場のメンバーの多様な支援が、個人の能力向上にとって重要になるといえます。さらに、上司からは精神的な安息を提供する「精神支援」を受けること、同僚・同期からは業務に関するアドバイスを行う「業務支援」を受けることが、能力の向上に資することがわかっています。

(出所)中原淳(2012)「経営学習論-人材育成を科学する」東京大学出版

職場で信頼関係が築かれ、成長できる

3つ目は、人のつながりをひとつの資本(資源)とみなす「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」です。これは、人々の協調行動が会社組織をはじめとしたコミュニティの効率性を高めるという考え方で、一般的には信頼関係、互酬性(助け合い)規範、ネットワークが当てはまります。

中原氏の一連の調査からは、社員同士が助け合う互酬性規範を職場で高めるようなマネジメントが、前述のような先輩や同期の支援を引き出すことが示唆されています。また、信頼関係が構築されている職場では、成功経験のみならず失敗談も安心して共有できるようになり、結果としてお互いの能力向上につながっています。

4つ目は「成長の場」です。中原氏の研究によれば、「革新的な職場が人を育てる」とあり、職場で新しいことをすることと人を育てることは、二律背反の関係にあるのではなく、むしろ相互に関連し合っています。新しいことへの挑戦は、発達の可能性(現状とのギャップ・伸びしろ)を掘り起こすとともに、先に述べたような他者からの支援の必要性を生じさせます。そして他者からの支援を受けながら取り組むことで、能力の向上につながっていきます。

(出所)中原淳(2012)「経営学習論-人材育成を科学する」東京大学出版

不可欠な「リアル」の場

これら4つの役割を果たすには、テレワークなどのヴァーチャルではおのずと限界に突き当たってしまい、職場というリアルで人同士が触れ合う場の存在が不可欠といえます。4つの役割を果たせる職場づくりをいかにして行っていくかが、現在そしてこれからの時代に問われているといえます。

これらの考え方を基礎に、各社にとっての職場の価値や意義を、改めて見つめ直すことが肝要です。