活動報告

10年後の社会・働き方を見据えた企業づくり(7)
日本の「パートタイム」を考える

五十畑 浩平氏  名城大学准教授

雇用形態についての日本と欧州の違い(欧州が本来)

協働共生委員会では各社の10年ビジョンを考える一助として、名城大学の五十畑浩平准教授からこれからの働き方に関する問題提起をいただき、学びを深めています。今回は雇用形態と格差是正について考えます。(画像は五十畑氏の資料より抜粋)

「パートタイム」本来の意味とズレ

日本では外国の単語が本来の意味とは異なって普及する例が多いですが、「パート(タイム)」にも同様のことが言えます。しかも、その意味のズレが政策上、致命的となっている可能性があります。

パートタイムとは本来、単に所定の労働時間が短く、フルタイムではないだけの意味なのですが、日本では「非正規労働」の意味が加わって使われており、労働者の「身分」すら表すようにまでなってしまっています。

一方、欧州では「フル」「パート」とは別で「正規(無期限)」「非正規(有期)」の概念があり、組み合わせて4種の雇用形態があります。本来であればこの4種で考えるべきなのですが、日本では先に述べたように「パート=非正規」が雇用の実態に当てはめられてしまっていて、それがほとんど問題視されてきませんでした。

日本と欧州のパートタイムの実情

日本ではパートタイム労働者の8~9割が非正規雇用です。またフルタイムの非正規雇用の人も「パートさん」と呼ばれてきました。「正規」の「パート」はほんのわずかな例外でしかなく、無かったことにされてきました。

一方、例えばフランスを見てみますと、正規雇用を原則とする労働政策が伝統的に取られてきたこともあり、フルタイム・パートタイムともに8割以上が正規雇用となっています。

パートタイムの多くが非正規の日本と正規のフランス

パートタイムに関わる法改正による格差是正は

フルタイムとパートタイムの大きな格差を是正すべく、パートタイムに関わる法改正が2007年と2014年に行われました。

07年の改正では、「正規」のフルタイムとパートタイムの格差を是正しようという内容でした。しかし前述通り、そもそも「正規のパート」は極めて数が少なく、インパクトのある改正とはなりませんでした。14年の改正では、「正規のフルタイム」と「非正規のパートタイム」の格差是正が行われ、一定の効果を生みました。

しかし、個人的な意見としては、是正することの順番が違うと思います。日本の場合、パートタイムが軒並み非正規であることが問題の本質であって、まずはパートタイムを非正規から正規に上げる政策があった上で、フルタイムとの格差是正を行うのが、本来の均等・均衡待遇であると考えます。

正規のパートタイムが将来の働き方のカギに?

現在はグローバリゼーションがもたらしたリスクと不確実性の高まりに堪える形で広がった不安定雇用を端緒として、正規・非正規の二極化問題は深刻なものとなっています。

非正規労働が増えた分、正規労働者は長時間労働化が進み、家庭と仕事の両立がますます難しくなっています。一方、非正規労働者は低賃金や不安定な雇用であるため、生活や将来設計の見通しが立てづらくなり、結果として、特に女性で結婚や出産を見送る・あきらめる人が増え、少子化を深刻化させる原因にもなっています。

こうした現状を打開するためには、パートタイムの正規化がカギとなってくるのではないでしょうか。これは、正規であってももう少し短く働きたいというニーズと、パートだが安定して働きたいというニーズがあり、その双方をくみ取れる策になりうると考えます。

パートタイムが正規になった上で、フルタイムとの均等処遇がなされれば、フルタイムとパートタイムを柔軟に使い分ける働き方も可能になってくるのではないでしょうか。そして、それが多様な人材の多様な働き方を支える受け皿となり、10年後には一般的な働き方になる可能性もあると考えます。

「正規のパートタイム」は元来の意味通り「パートタイム」と呼べばよいだけの話で、現在の日本ではこれが屋上屋を架すように、「短時間正社員」という制度にされています。「パートタイム」という言葉に関する最初のボタンの掛け違いから、どんどん問題の本質が見えづらくなっているのが現状です。

皆さんはこうした動きに惑わされず、「正規・非正規」と「フル・パート」の4形態の考え方を念頭に、これからの時代の「パートタイム」のあり方を考えていただきたいと思います。