活動報告

名古屋第4支部合同例会「新市場を創造する」(1月26日)

社会問題とSDGsの視点から

後藤 裕一氏 (株)大醐

SDGsの視点を絡めて企業経営を語る

社会課題から新市場創造のヒントをつかむ

新型コロナウイルスの感染拡大により、事業環境や日常生活が一変しました。人々の価値観が変わる中、新市場やビジネスモデルに挑戦することが、私たち経営者が取り組むべきことといえます。

他方で、人間の生存を脅かすまで大きくなってきた様々な社会課題を「SDGs」として整理し、2030年までの全世界共通の目標として、人間一人ひとりの暮らしや生き方の本質的変革が求められています。私たちも「社会性」の視点で事業を見直し、SDGsを事業と結び付けて取り組んでいくことが重要となってきています。

そもそも「社会の公器」である企業が新市場を考える際、SDGsはチャンスの宝庫です。名古屋第4支部合同例会では、社会性から考える新市場創造の取り組みを大醐の後藤裕一氏にお話しいただき、50名が参加しました。

市場創造の視点の変化

父が創業した婦人服アパレル会社に入社した後藤氏は、業界の市場縮小に連動するように年々売上げが減る中、「かわいい洋服を作れば売れる」と1人で東京事務所を開設。がむしゃらに頑張ったことで一時は売上げが上がったものの、結果として撤退します。売上げと社員が減る中で、「次の事業は失敗できない」と自ら同友会に入会しました。

後藤氏は、さっそく指針講座で1枚の経営指針書を作成。その時「かっこ悪いものをかっこ良く」という方針を作りました。また、婦人服事業から撤退し紳士下着(ボクサーパンツ)に集中。これが起死回生の大ヒットとなり、当時珍しかった「ボクサーパンツをギフトにする」という文化は3年で日本に定着しました。

後藤氏は、市場創造の視点を「企業」から「顧客」に変更したことで、顧客から選ばれるようになりました。しかし、さらに企業を成長させるためには、さらに大きな「社会」の視点に立って社会課題を解決する商品づくりが必要なのではと考えました。

方針に「社会性」の視点を

後藤氏は、アパレルの生産拠点が安価な海外生産にとって代わられ、毎年日本の工場が倒産・廃業していく姿を目にしてきており、それが自社にとっての社会課題だと感じていました。

そこで、経営方針を「かっこ悪いものをかっこ良くすることで日本の物づくりを未来へ伝える」に変更し、商品づくりに反映させました。たとえば、あまり使われなくなった浴衣の反物を作る機械を使って麻のストールを作るなど、生産工場と何度も相談をしながら、年間を通して売れる商品をデザイン、マーケティングするようにしました。

この方針を展示会でPRしたところ、大きな変化がありました。今まで敵対関係にあった企業から共感が得られ、同じ方針に向かって協力してくれるようになったのです。また、社員からも、次第に仕事に対するやりがいや誇りを感じるようになりました。

この方針を打ち出したことは、何があっても日本の物づくりを守っていくという「覚悟」と「勇気」の表れです。共感者が増えたことで売上げが伸び、採用活動でも良い人材が集まってくれるようになってきました。後藤氏は、「それまで逆流の中を泳いでいたところ、見えない何かが川上からロープで引っ張ってくれるような感覚」だったといいます。

会社の目的は社会をより良くすること

後藤氏はこれまで、企業の「利益」と「社会性」は両立できないと思っていました。しかし、ある時、企業の目的を「経済性⇒独自性⇒社会性」から、「社会性⇒独自性⇒経済性」の順番で考えるようになり、企業の目的は社会をより良くすることということが腹に落ちたといいます。後藤氏は、同友会や地域学習会で日頃からSDGsと自社を照らし合わせて何ができるかを考えています。

商品やサービスを提供し、納税や雇用をし、儲かったら寄付をしたり、ボランティアをしたりすることではなく、社会の大きなサイクルの中で、自社はどんな企業と関わり、どんな材料を使い、人々にどんな影響を与えるのかを見直し、本業を通して社会に良いことをすることがポイントです。

「経営者の資質を高める」とは、「視(視点)考(考える時間軸)の幅を広げること」と後藤氏はいいます。経営者の熱い思いで、持続可能な社会を創っていきましょう。