活動報告

第60回定時総会 基調報告(1) 4月22日

同友会らしい「人を生かす経営」で、未来を切り拓く
~コロナ禍だからこそ、同友会運動と企業経営は不離一体

加藤 明彦氏
エイベックス(株)代表取締役会長
愛知同友会相談役(前会長)・中同協副会長

自身の同友会での学びを語る加藤相談役

4月22日に行われた愛知同友会第60回定時総会での加藤明彦相談役(前会長)の基調報告を、今号から3回に分けて掲載します。(編集部)

一つひとつの言葉へのこだわり、同友会の言葉には意味がある

「記念講演」ではなくなぜ「基調報告」なのか

本日の総会で会長を退任させていただき、相談役となりました。本報告では、私が28年前に同友会に入会してから何を、どう学んできたのかについて、お話ししたいと思います。

まずお伝えしたいのは、同友会では一つひとつの言葉にこだわりが、そしてその言葉には意味があるということです。

例えば今回、私の報告が「記念講演」ではなく、「基調報告」になっています。なぜでしょうか。この理由として、会員はお互いに教え・教えられる関係にあり、報告者は自ら学び・実践したことを発表する、問題提起役を務めるということなのです。

「人材」という言葉の意味とは

また、同友会では「人財」ではなく、「人材」という言葉にこだわっています。

世間では人財という表現を使うことがあります。間違いではありませんが、同友会では、木偏に才能の「才」の組み合わせである「材」の字を使います。

育った環境により原木は1本ごとに癖(個性)がありますが、人間も同様です。そのような個性を生かしていく意味で、同友会では「人材」の言葉を使っています。適所適材と言ってもよいかと思います。

労使関係の「労使」

さらに、「労資関係」ではなく、「労使関係」という言葉を同友会は使っています。中小企業においては、資本家と労働者の関係ではなく、使用者と労働者の関係性で成り立っています。互いの立場は異なりますが、共に人格においては対等・平等であり、協力して企業発展をめざすという意味合いなのです。

『中小企業における労使の関係についての見解』(労使見解)に見受けられるように、同友会が最初に使って以来、広く一般的に「労使」という言葉が使われるようになっています。

「共育」(ともにそだつ)

最後に、なぜ「教育」と言わず、「共育」と言っているのかわかるでしょうか。「ともいく」とは言わないでください。正しい読み方は「きょういく」であり、「ともにそだつ」です。

これは、社員が勉強して成長していく以上に、経営者自らも成長していかなければならないという意味合いです。社員が育つ、そのことで経営者は刺激を受け、自らもっと勉強しないといけないと思います。鋤柄修前中同協会長は「1万時間勉強せよ(毎月6冊、20年間読書を続けろ)」と言っているように、経営者としての器を広げるためには、血の滲むような努力が必要なのです。

言葉には歴史がある

このように、一つひとつの言葉には、同友会が歴史的に議論を積み重ねてきた考え方が反映されているのです。言葉の意味を正確に理解するためには、同友会の歴史を学ばなければなりません。

この機会に皆さんには「同友会用語」が持つ一つひとつの意味を知っていただきたいと思います。

主体的に考え、自主的に行動を

いささか前置きが長くなりましたが、「同友会での学びから、分かったこと」をお話しします。一言で言うと、「何事も主体的に考え、自主的に行動できるような人間に育てられてきた」ということです。

例えば、理事会において、「では、何をしたらいいんですか」「誰がやるんですか」などという質問が出されますが、やるのはそれぞれの理事、全員なのです。主体者意識が大切といえます。

これは企業でも同じです。率先して「主体的に考え、自主的に行動する」のは、経営者であるべきです。企業風土を創るのは、まさに経営者の生き様なのです。私は、同友会会員の意義は「経営者として自ら学び、自ら伝えていく力」を持つことにあると考えています。

トップダウンも時には必要

会社の発展には、ボトムアップをするためのトップダウンが重要です。しかしトップダウンだけの経営だと、持っている能力を自主的に発揮する社員が育たず、イエスマンばかりになってしまいます。

ただ、リーマン・ショックや今回の新型コロナウイルス感染拡大等、企業にとって危急の判断を求められる場合、思いきった企業の舵取りが必要です。そのような時には、トップダウンも必要になります。

これらの意味するところは後に詳しくお話ししますが、私の28年の同友会人生を振り返ってみると、経営者として、人間としての生き様を自分自身に気付かせてもらえました。同友会に感謝、感謝です。

20数年の葛藤の末、同友会と出あう

1961年当時の加藤精機(木造の本社工場)

中小企業のおやじも勉強が必要

親父は職人気質の人で、学歴はいらないという考えの人でした。「俺は『なぜ、鉄で鉄が削れるのか』の理論は分からないので、高校へ行きたければ工業高校なら許す」と言われ、大学進学は諦めていたのです。当時は、私のような後継者もたくさんいたと思います。

しかし、当時の高校の担任の先生が、「これからの時代は中小企業のおやじでも経営の勉強が必要」と親父を説得してくれて、工業系の大学に進むことができました。

自信満々で入社して

さて当社は、先代である私の父が1949年に創業した会社です。私は2代目で、1969年(創立20周年)に大学を卒業して、すぐに入社しました。

工業高校で実技を学び、大学では、QC(品質管理)と現在のトヨタ生産システム(TPS)でも活用されている生産管理理論のIE(生産工学)を学び、それらを実際に会社でやってみようと、自信満々で入社をしました。

古参社員との軋轢

私がいきなり自社にその理論を持ち込んだものですから職場は混乱し、全員が自分より年上であった職人たちとの軋轢は相当なものでした。

古参社員との軋轢をなくそうと、朝礼や「飲みニケーション」など、いろいろ努力はしましたが、ダメでした。自分がやればやるほど、社員とのギャップが激しくなっていきました。

振り返ると、自分の思いを一方的に伝えていただけで、社員の気持ちを汲み取れなかったのですが、当時は押し付けている感覚さえもなかったのです。

雑然とした旧工場内

20数年、鳴かず飛ばず

そんな状況ですから、入社してから20数年間、社員数は20名から30名を行ったり来たり、鳴かず飛ばずの会社と自分でした。

社員が集まらない、定着もしない、言わなければやってくれない会社の風土を何とかしなければと思いながらも、惰性で日々が過ぎていきました。

とは言うもののこの間、皆さんのよく知っている経営者向きのセミナーや研修講座など、多くの勉強会に参加したのですが、もやもやは一向に晴れませんでした。

『もとはこちら』『結局は自分』

1992年、その頃に出あったのが、当時NHK教育テレビ「こころの時代」に出演していた平井謙次氏のお話です。『もとはこちら』『結局は自分』という2冊の本の紹介があり、「煎じ詰めたら、すべて自分次第だ」という考え方に触れて、目から鱗、靄が一気に晴れました。

そこで自分の気持ちを入れ替える意味で1.5代目を標榜し、当時の加藤精機から現在のエイベックスに社名変更し、また今まで建っていた工場をすべて壊し、ビル工場の新築も行いました。

今思えばこれらの出来事が、会社が大きく飛躍する土台となりました。それまでの1人で引っ張っていく「機関車型」をやめて、皆で走らせていく「電車型経営」をめざすようになりました。

また偶然、本屋で見つけたのが、「改正しましたか就業規則」という中小企業家同友会全国協議会が出版していた書籍で、そこで初めて同友会を知ったのです。

(続く)

【文責 専務理事・内輪】

加藤 明彦氏

愛知中小企業家同友会 相談役理事
中小企業家同友会全国協議会 副会長
エイベックス株式会社 代表取締役会長

【プロフィール】

1947年1月5日 愛知県名古屋市生まれ。
1969年 大阪工業大学卒業。
卒業と同時に加藤精機(現エイベックス株式会社)に入社し、1984年(37歳)同社代表取締役社長に就任、2010年(63歳)より代表取締役会長となり、今日に至る。

1993年同友会入会。地区会長、共同求人委員長、名古屋支部幹事長、支部長、副代表理事等を歴任、2011年度より代表理事、2016年度より会長、2021年度より相談役理事。

同友会で貪欲に学び、学んだことを素直に自社で実践。経済環境や競合会社という外的要因に左右されない「克ち進む経営」をあるべき姿として描き、自社の強みを追求する。

また社員の成長こそ企業の発展と位置づけ、社員の潜在能力が発揮される社風づくりにも熱心に取り組んでいる。

【エイベックス株式会社】

本社 名古屋市瑞穂区内浜町26番3号
創立 1949年
資本金 1000万円
年商 73億円〈2021年5月見込み〉
社員数 464名(うちパート社員224名)〈2021年5月現在〉
事業内容 自動車関連部品(A/Tバルブ、ブレーキ、ミッション、エンジン部品)
建設機械部品(高精度小物、精密切削/研削加工部品)
https://www.avex-inc.co.jp