活動報告

第21回あいち経営フォーラム特集「基調講演」

昨年11月22日に名古屋国際会議場にて第21回あいち経営フォーラムが開催されました。高橋正志氏による基調講演の概要を掲載します。
分科会速報と、現地の様子を写真でお伝えするフォーラムハイライトはこちら >>

「人間尊重の経営」の実践こそ組織のイノベーション
~ビジョンの実現から幸せな社会づくりへ

高橋 正志氏
(株)マスカット薬局代表取締役
(岡山同友会代表理事/中同協障害者問題委員長)

高橋正志氏

薬剤師から経営者へ

私は薬学部を卒業し、病院薬剤師として10年ほど勤めましたが、ある難病の患者さんとの出会いがきっかけで、経営者の道を選びました。

銀行から借り入れをし、薬局は開設できましたが、悩みは次々と出てきます。店舗も社員数も増え利益は上がっていましたが、不満を言い辞めていく社員が続出しました。仕事がきつい、残業が多い、人が育たない、患者や医療機関からのクレームが増える、もう自分では解決できないところまできていました。

藁にもすがる思いで、経営指針を作成するために同友会へ入会しました。「何のために会社を経営していますか」「誰のために経営していますか」「強み・弱みはなんですか」。こう質問されても、自分のことばで明確に説明できない今の自分を理解できました。

自分に何が足らず、社員はどこに不満を持って辞めたのかを振り返る絶好の機会となりました。経営指針成文化で気付いたのは、いかに自分が裸の王様であったかということです。同時に、社員に対して申し訳なかったという罪の意識まで出てきました。

障害者委員会が転機に

もう1つの転機は、岡山でも障害者問題委員会を立ち上げるので、委員長になって欲しいと頼まれて引き受けたことです。まだ入会したばかりで辞退しようと思いましたが、できないからこそ勉強になると背中を押されました。障害者問題委員会に携わり、特に、人間尊重経営の原点を勉強させてもらいました。

人間尊重の「尊重」とは何か。辞書を引くと、「人の命は、誰たりとも犯すことができない、最重要課題である」とありました。人間尊重の経営とは、会社の利益や成長を優先するのではなく、人の命・人の権利を優先して経営しましょうということです。

新しい価値を創る

わが社は2009年より、経営指針発表会ではなく、イノベーション発表会をしています。イノベーションとは、企業が生き残っていくために企業の既存の価値を破壊し、新しい価値を創っていく創造的破壊が、その本質です。

現状維持を望む社員が多い中、14年かけて新しい薬局づくりをしてきました。環境に恵まれている今だからこそ将来のために準備すべきであり、厳しくなってからの改革では手遅れになってしまう、と自分を奮い立たせました。

自社を取り巻く外部環境の変化では、世界に類を見ない少子高齢化で社会保障の財源が危機的状況に陥ったことにより薬局や医療機関などが淘汰されています。そのような中、自社がどのように舵を切るのかが問われています。

第2創業のつもりで

会社創立10周年と兼ねた第1回イノベーション発表会では、理念目的の発表と決意表明をしました。いろいろな問題があると知りながら見ないようにしていたことをまず謝罪し、社員との信頼関係を再構築するため、ゼロから始めるという決意のもと、第2創業のつもりで進めていきました。

全社員にアンケートをし、10年後の未来像を考え、5つの方針を作り、目標管理の発表会が定着しました。毎年更新していく中で様々な外部評価にも取り組み、2020年には10年ビジョンを発表しました。目指す姿は、「命ある企業」です。人間の血の通った組織を目指すことを確認しました。会社の目的は、地域の一人ひとりの生命と健康を守り、幸せな社会を創造することです。

「学習型薬局」について示した図

「学習型薬局」へ

社員教育で重要視したことは、一人ひとりがダイヤモンドの原石であり、原石を磨き光り輝かせるのは自分自身に他ならないという考え方です。

自社が目指している「学習型薬局」というものを、マスカットの木をもとに分かりやすく表現しています(図を参照)。会社としては、「自ら学び、自ら考え、自ら実行する」ことをモットーに、様々な教育支援をしていきます。社員一人ひとりがマスカットの実であり、個性豊かな社員がどんどん成長しています。

蒔かぬ種は生えません。しかし、良い種を蒔いても、何もしなければ花も咲かなければ実もなりません。学ぶ場、学びたいと思える環境を整えることが経営者の責任だと感じています。

【文責:事務局・下脇】