活動報告

第62回定時総会 基調報告(前編)4月25日

地域の未来を拓く、自立的で質の高い高付加価値企業

~ナニワ中小企業の覚悟と生き様

堂上 勝己氏
梅南鋼材(株)代表取締役
大阪同友会会長、中同協副会長

中小企業家としての覚悟と生き様を語る堂上氏

4月25日、第62回定時総会が開催されました。総会議事に引き続いて行われた基調報告に、大阪同友会会長の堂上勝己氏(梅南鋼材代表取締役)をお招きし、「地域の未来を拓く、自立的で質の高い高付加価値企業~ナニワ中小企業の覚悟と生き様」をテーマに報告いただき、参加者に大きな感動が広がりました。今号より前・後編で堂上氏の報告概要をご紹介します。

会社概要

梅南鋼材は、私の父が1956年4月に大阪市西成区の「梅南」地域で創業した会社で、市内5カ所で工場を稼働しています。私は1980年に就任した3代目の代表取締役になります。

現在の主たる事業は「鋼材の加工販売」で、大阪府内350社の産業機械関連会社に自社製品を販売しています。また、会社規模は社員が52名(平均年齢30.9歳)で、その3割は女性社員です。同業他社と比較すると、「社員の年齢が若い」、「女性社員が多い」、「IT化が進んでいる」、「最新鋭の機械を導入している」という点が弊社の特長となっています。

「経営理念」に込めた想い

弊社の経営理念は、「Mission(使命)」・「Value(価値)」・「Mind(意識)」の3要素で構成しています。

「Mission(使命)」には、「私たちは、モノづくりのシンカ(進化・深化)を通して、社会の発展に貢献します」を掲げ、日進月歩のモノづくり業界のなかで社員と共にモノづくり技術の進化・深化に取り組んでいます。

また「Value(価値)」には、「私たちは、感動あふれる価値を創造し、顧客満足を追求します」を掲げ、「満足」以上の「感動」を創る会社として在り続けるための努力を日夜行っています。

そして「Mind(意識)」には、「私たちは、夢の実現に向け、情熱と誠意をもって成長します」を掲げています。

この経営理念には、お客様とのミスマッチをなくし、トータルコストを下げることで、価格競争や品質保持を武器にした「大阪のモノづくりを再び元気にしたい」という想いを込めています。

経営理念

2代目の兄が急逝し28歳で社長に

2代目の代表取締役は私の兄でした。しかし、1980年に急逝したことで急遽、私が28歳の若さで代表取締役となりました。

それまで私は建築設計事務所に勤めており、主に製鉄会社の工場の設計・監理を担当していました。お客様が金属製品を作る会社でしたので、私は仕事のなかで金属製品に関する知識(金属の種類、強度等)を身に着け、その分野に関して自信を持っていました。

しかし、代表取締役になってみると、金属のことには詳しくても、「どうしたらモノが売れるか」ということは全くわかりませんでした。当時の弊社は10名未満の会社規模でしたが、新しく代表取締役になった私が「モノの売り方が分からない」、「決算書が読めない」という状態で、社員はとても不安だったと思います。

このような状態ではまともな会社経営ができるはずもないと思い、私はすぐに会社経営の勉強を始めました。

同友会でショックを受ける

それから8年後の1988年に、知人の経営者から「良い会があるから来ないか」と誘われました。それが、大阪府中小企業家同友会の例会でした。

参加してまず驚いたことは、私よりも年齢の高い経営者が一生懸命に会社経営の勉強をしている姿でした。そして、初対面の私の会社経営の悩みに対して、親身にアドバイスをしてくれる経営者がたくさんいたことです。私はすぐに入会を決心し、入会直後からあらゆる例会に参加してきました。

そのなかで分かったことは、私が代表取締役になってから8年間、いろいろなセミナーで勉強してきたことは、同友会ですべて学べるということでした。これは私にとって大きなショックで、かなりの遠まわりをしてきてしまったと思いました。

販売先の多角化でリスク分散を図る

1991年のバブル崩壊以前、弊社の主たる事業は「鋼材の卸売」でした。しかしバブル崩壊で売り上げが大きく落ち込み、販売先からは手形(売掛金)が回収できませんでした。また、金融機関からは貸し渋りも経験しました。

このような会社存続の危機のなかで、これからの経営リスクをいかに回避するかを思案しました。まずはリスク分散のために「少数の顧客への依存体質を改める」ことを決断しました。そして、「販売先の多角化」に取り組み始めました。現在は大阪府内で350社まで販売先を増やすことができています。

自立型企業めざし事業を再構築

次に事業の再構築として、それまでの鋼材を単に販売する「鋼材の卸売」から、加工によって付加価値を高める「鋼材の加工販売」に切り替えることを決断しました。そのきっかけとなったのは、売り上げ確保のために営業をしていた時の出来事でした。

お客様の第1声が「おたくの鋼材はなんぼ?」で、「あなたの会社には価格以外は関心がない」と言われたように感じました。その時、弊社にしかできない付加価値の高い事業をしないと、いつまでも会社の存在意義を見出せないと思ったのです。

20年かけて事業構造を改革

弊社は2002年から約20年間かけて、主たる事業を「鋼材の販売」から「鋼材の加工販売」に転換しました。2002年時点の弊社の事業構造は、収益比率の高い順に、「鋼材の販売」(80%)、「鋼板の折り曲げ加工」(12%)、「鋼板の切断」(5%)、「商社機能」(3%)でした。

それが2021年時点では、収益比率の高い順に、「鋼板の切断」(56%)、「鋼板の折り曲げ加工」(24%)、新技術「ファブリギア(レーザー加工)」(10%)、「鋼材の販売」(8%)、「商社機能」(2%)となりました。

現在は「BtoC(会社と消費者間の取り引き)」に新事業として挑戦中で、キャンプ用品や家具金物等のOEM生産にも取り組んでいます。また、新しい付加価値を生み出すために、「溶接事業」にも挑戦し始めています。

2019年からは新型コロナウイルス感染症の大きな影響もありましたが、おかげさまで現在も過去最高の売り上げを更新しながら、社員と共に付加価値の高い事業を拡大し続けられています。

報告後、分散会で「地域の未来を拓く企業づくり」を討論

1個から受ける「プラモデル納品」

弊社が誇る事業のひとつに「プラモデル納品」と呼称しているものがあります。これは、図面や現物を見て、鋼材の調達から切断や曲げ加工、穴あけ加工、タップ加工まで、お客様に求められる前工程をすべて引き受け、受け取った時に最も後工程のしやすい状態にしてお客様にお届けする事業です。

なぜ「プラモデル納品」と呼称しているかと言いますと、「プラモデルの部品のように他部品とピタッと合う形状の製品を1個から引き受ける」からです。弊社はそれを「72時間の短納期」で対応しています。

経営者が目的を伝え続けること

この「プラモデル納品」は、競合他社に勝るモノづくりを追求して始めた事業ですが、当初は社員からの抵抗がありました。

当時のモノづくり業界のなかで、「72時間の短納期」は常識ではありませんでした。ですから、お客様が望む製品を確実に72時間以内に届ける責任というのは、社員にもかなりのプレッシャーとなりました。

しかし、私は諦めることなく、経営理念に基づいてこの新事業の必要性を社員に説明し続けたことで、少しずつ社員たちが何とかしてやろうと試行錯誤してくれるようになりました。その結果、72時間以内に資材調達から加工、納品までを実現する体制を社内につくることができました。

また、弊社には「新製品開発委員会」がありまして、そこでは、社員がどのようにしたら付加価値の高い事業を増やしていけるかなどの前向きな検討を行い、成果を出してくれています。

【文責:事務局 墨】

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