活動報告

人間尊重経営を学ぶ学習会(第2回)9月20日

なぜ障害者問題に取り組んだのか
~愛知同友会の歴史に学ぶ

第22回障害者問題全国交流会が愛知で開催されるにあたり、「人間尊重経営を学ぶ」実行委員会主催で全県学習会を行いました。第2回学習会では、みらい経営研究所の浅海正義氏と、ゆたか福祉会の鈴木清覚氏にお話しいただきました。以下にそれぞれの概要を紹介します。

浅海 正義氏 みらい経営研究所

浅海 正義氏

生活と労働の権利を保障する

私は、1928年3月生まれの95歳です。菊水化学工業(株)発足と同時に入社し、1993年に定年退職しました。2年後の95年に社会福祉法人「ゆたか福祉会」に非常勤の副理事長として就任し、2006年から6年間顧問を務めました。

1962年7月に名古屋(現・愛知)中小企業家同友会が設立し、同8月に同友会に入会しました。しかし、社内健診で結核が見つかり、約1年半入院しました。

1968年3月、片山工業というジャズドラムメーカーの一角に名古屋グッドウィル工場という授産施設がつくられました。しかし、その後、わずか10カ月で片山工業が倒産。相談を受けた同友会は、障害のある人たちの生活と労働の権利を保障する場をつくろうと運動を起こし、多くの人の協力を得て「ゆたか共同作業所」が誕生しました。

その後、1972年に社会福祉法人ゆたか福祉会として認可され、今井保氏(創立会員、故人)が理事長に就任。愛知同友会の会員も増加し、社会福祉法人などの関係者も会員に加入され、ゆたか福祉会も多数の事業所を抱えるように発展します。同友会が支え、ゆたかが支えられる関係から、ゆたかの役職員も同友会の会員となり、対等・平等の立場でより発展させられるようになりました。

ザイルで結びあって

同友会の先輩経営者たちが同友会の原点を語った言葉、――「どうしたら生き残れるか」「経営者は孤独だ」……。酒を酌み交わし悩みを語り合う中から、「ザイルが必要なんだ」と誰かが言った。高く険しい山に登るには、パーティーを組んで、ザイルで身体を結びあって登るのだ――まさに的確な表現だと思います。

我々が目指す人間尊重の経営とは、雇用の維持だけではありません。多種多様な人との関わりの中で同時に学び、経営を維持し発展させていく責任があるのです。

鈴木 清覚氏 (福)ゆたか福祉会

鈴木 清覚氏

社会の無理解に真っ向から立ち向かう

ゆたか福祉会の原点は、中小企業の皆さんの協力によってスタートしました。

1969年の親会社倒産を機に、名古屋中小企業家同友会の常任理事でゆたか共同作業所設立準備会代表であった今井保氏や遠山昌夫氏(名誉会員)が職員や家族の切実な願いを聞き、運動として発展させていくことを決意。初代事務局長の仲野正氏(故人)が趣意書を書き、会員企業を訪ね、出資金を原資に新たな作業所が完成しました。

ゆたか福祉会の理事長を務めた今井氏は、「このゆたか共同作業所は10数名の子と親たちだけのものではなく、広く心身障害者のための希望に満ちた作業所へ発展させるべきであり、その必要性、有益性を立証する実践の場であり、また社会一般の無理解を啓蒙する1つのセンターでありたい」と語っています。すべての障害者の労働権保障をめざす共同作業所づくり運動は、社会の無理解に真正面から対峙する運動だったのです。

人権モデルの考え方

2006年、障害者の権利に関する条約が国連で採択されました。それまでの「障害の個人責任論」に結びつく「医学モデル」の考え方から、障害は、社会との関係で困難が生じる、社会によってつくりだされたものであり、障害を個人の問題とせず社会を変革し、障壁を除去していくことを課題とする「社会モデル」が提起されたのです。そして現在は、障害(機能・構造・形態)を基礎に社会や環境、人々の態度との相互関係で障害を考える「人権モデル」に変化しています。

最新の整理は、2001年5月にWHO総会で採択されたICF(国際生活機能分類)です。ICFは「健康の構成要素に関する分類」であり、生活機能上の問題は誰にでも起こりうるので、特定の人々のためのものではなく「全ての人に関する分類」であると言われています。

社会課題として考える

厚生労働省の資料によれば日本の障害者の総数は約1160万人であり、人口の約9%を占めています。そのうち身体障害者は436万人、知的障害者は109万人、精神障害者は614万人と増加傾向にあります。

視野を広げて世界的レベルで見てみると、ASEANの地域では、インドネシアで9%、ベトナム8%、G7ではイギリス27%、アメリカ14%、WHOは世界人口の障害者比率は15%としています。つまり、障害者問題は決してマイノリティな特殊な問題ではなく、非常に大きな社会的・国民的課題として考えなければいけないと問題提起がされているのです。

誰もが安心して暮らせる社会へ

障害者差別解消法により、「合理的配慮」などが求められていますが、この「合理的配慮」の原語は「Reasonable Accommodation」です。これを日本語の「合理的配慮」とするかどうかでは様々な議論もあります。

とりわけ「配慮」は日本語では「心くばり」「心づかい」など観念的で恩恵的な意味のあることから、もっと権利条約に相応しく翻訳すべきだとして「正当な条件整備」(中村尚子氏・全障研副委員長)や「必要な調整」(丸山一郎氏)と翻訳する意見もあります。障害、障壁を取り除き、誰もが生きやすい環境を整備していくということが非常に重要な概念です。

これからも全ての人々がかけがえのない存在であることを認め合い、その尊厳を大切にし、誰もが安心して暮らせる地域社会の実現をめざして取り組みを続けていきます。

【文責:事務局 伊藤】