活動報告

第22回あいち経営フォーラム特集

昨年11月26日に名古屋国際会議場にて第22回あいち経営フォーラムが開催されました。本稿では川中英章氏による基調報告の概要を紹介し、各分科会紹介、当日の様子を写真で伝えるフォーラムハイライトを掲載します。

〈基調報告〉人間尊重経営で豊かな企業風土と地域づくり

~地域課題に企業としてどう向き合うか

川中 英章氏
(株)EVENTOS代表取締役
(広島同友会理事、中同協共同求人委員長)

川中 英章氏

はじめに

わが社はバブル期の1988年にイベント会社として設立し、翌89年には仕出し会社としてパーティーに携わるようになりました。

しかし92年には、バブル崩壊とともに一気に仕事がなくなったため、私はワインソムリエの資格を取得し、個人消費者をターゲットに飲食業に進出。今では当たり前になっていますが、当時はソムリエが飲食店に勤めワインを紹介するという業態は珍しく、非常に流行りました。このたまたまが、「自分はセンスが良い」と勘違いすることになり、一気に店舗数を増やしていきました。

悪循環から離職者続出

2年で6店舗出店し、社員はすべて引き抜きで60名の規模となりました。しかし、この間入社した社員は大きなホテルができるまでの腰掛け入社であり、共に成長する風土など程遠い状況でした。

過度な設備投資によりキャッシュフローは悪化、次第に債務超過となり、給料さえ払いにくくなります。すると、大量の離職者が出て、60名だった社員が半年間で7名にまで減りました。

新卒採用を求め、同友会へ

店には時々、広島同友会の会員がお客様として来られていて、経営者としての勉強を勧められました。しかし、調子に乗っていた私は聞く耳を持っていませんでした。ただ、残ってくれた社員のためにも「勉強しないといけない」と心を改め、同友会へ2004年に入会しました。

心機一転頑張ろうと思う一方で、離職した社員が「EVENTOSは給料が支払えない会社だ」という噂を広島中に広め、中途採用ができなくなりました。そこで、わが社の悪い噂を知らない人はどこにいるのかと考えたところ、学生だと思いつき、同友会の共同求人活動に参加することを決意します。

初めての経営ビジョン

初めて内定を出した学生の自宅を訪問した際に、親御さんから「大学を卒業してまで働く価値のある仕事なのですか」と問われ、私は業界に対する否定的な考えと受け取り、とても腹が立ちました。

しかし、冷静に振り返ってみると、自分が親御さんにした説明が作業内容だけであったため、単なる作業に学力が必要なのかという誤解を与えてしまったことに気付きました。帰りの車内で悶々としながら考えていたところ、ふっとビジョンが湧きました。

「地域の同業他社の方々のサービス向上に革新的な刺激を与える会社になる」。飲食業に対する否定的なイメージに、「違う」と言える会社になりたいと思ったのです。

経営ビジョン

社員は「我関せず」

2008年に10年ビジョンを作り、「食の安心・安全」をキーワードに2018年までの目標を示しました。社員の前で発表すると、評判は良かったのですが、返ってきたのは「社長、いいじゃないですか。頑張ってくださいね」という言葉でした。つまり、社員が参加したいと思えるビジョンではなく、私の自己満足だったのです。結局、初めて入社した新卒社員6人には将来への希望を与えられず、全員が離職しました。

足りていなかったのはビジョンへの共感です。新入社員研修も、結局は作業の研修。わが社が何のために存在しているのかを誰も言えず、どのようにキャリアアップして、キャリアプランを築いていけるのかという「受け皿」づくりができていませんでした。そして環境整備よりも、決定的に不足していたのは私自身の真心でした。表面上は「入社してくれて嬉しい」と言いながら、本心では、早く稼げる子、即戦力を欲しがっていたのです。

同友会で素直に学ぶきっかけ

現在、広島同友会で代表理事をしている(株)タテイシ広美社の立石克昭会長が、新入社員研修の講演で次のようなことを話されました。

立石氏は24歳で看板屋として創業しましたが、来る注文はペンキ塗りの仕事ばかりだったそうです。仕事を手伝ってもらっていた奥さんがペンキで汚れる姿に立石氏が罪悪感を抱き謝罪すると、奥さんは「それでも、1つ仕事を成し遂げると幸せ」だとおっしゃったそうです。

この話を聞いた時、私の頭の中には「誇り」という言葉が思い浮かび、そこで初めて「同友会の目指すものを素直にやってみよう」と、意識が変わりました。その時に出合ったのが、「21世紀型企業づくり」です。

その中に書かれている社会的使命とは、中小企業家が誇りを持ち、「中小企業なくしては地域社会の存続はない。経済のないところでの生活はとても困難である」と認識することだと考えています。仕事がなければそこで生活することができない、ということを社員だけでなく、その家族まで伝えていくことが社会教育運動だと思います。

わが社が目的地になる

わが社は2008年に作成したビジョンで、農村活性化事業、食の生産現場に近づくことを始めました。広島市安佐南区で2年ほどボランティアをし、13年間耕作放棄されていた土地を貸してもらえることとなりました。

耕作放棄地の開墾を進める際、長時間作業をするとなるとトイレが必要です。トイレを建設するには浄化槽を整備しなければならず、費用もそれなりにかかるので、思い切って「レストラン付き」トイレを建築しました。近所の方からは「誰も来ない場所なので、やめた方がいい」と言われましたが、上手くいかなければ町の集会所にでもしてもらおうというくらいの考えで、レストラン事業を始めることとなりました。

人通りのない地域でお客さんを呼ぶにはどうすればいいのか。それには、わが社が目的地となるしかありません。目的地となる努力の1つとして農業を始め、生産活動をお客様に楽しそうに「魅せる」ことから始めました。

わが社は2000人のパーティーがつくれる会社です。これまで当地域では、昼食を提供できないがために食育活動の受け入れができませんでした。それが、わが社が存在することによって小学校の食育活動ができる地域になり、こうした取り組みが次第に広まり、目的地としての知名度が上がっていきました。

人生を過ごす価値のある会社に

わが社の現在の10年ビジョン(2018~28)の大テーマは「地域になくてはならない会社に~社会ニーズを産業で解決できる会社に」で、同業他社の目標にされる会社を目指しています。

新型コロナウイルスのような感染症もあり、10年ビジョンを描くことは大変難しいですが、行き先も決めていないのに若い人を採用すること自体が罪だということを、まず認識しなければなりません。策定にあたっては、少し風呂敷を広げても良いと思います。年度方針や中期経営計画では到底達成できそうにないけれど、いつか必ずこれをやりたい、一緒にやろうと、強い覚悟を持って共通の目的を示すことが大切です。わが社はビジョン実現を通じ、「人生を過ごす価値のある会社」を目指しています。

10年ビジョン

地域未来牽引企業として

これまでの活動が認められ、経済産業省から「地域未来牽引企業」の特別枠として2020年に認定をいただきました。コロナ禍で色々と行政にも営業をかけていたところ、島根県江津市長の目に留まり、同市の有福温泉の再生事業を任されました。

当地域は昭和時代に大繁盛した温泉街で、以前は20軒ほどの宿屋がありました。しかし、コロナ禍もあって宿屋は3軒にまで減り、魚屋や土産物屋もなくなり、農協のキャッシュコーナーまで撤退しています。住人は400人から80人に激減、平均年齢は75歳、飲食店を出しても業者が食材を持ってきてくれないという始末です。

そこで私は、有福温泉再生事業の組合長として活動し、地域のビジョンを描き、奮闘しています。現在、宿屋は8軒まで増えましたが、料理人を新たに雇うことは難しいので、全宿屋の宿泊客の食事をわが社が賄うセントラルキッチンの仕組みで運営する役割をしています。

分散型 町ごとホテル概略

中小企業サミットでの出会い

また、この街で事業を検討してくれる若者を集めるビジネスプランコンテストを始め、優勝者には内装工事プレゼント、入賞者は経営指針勉強会に招待し、勉強会を修了した方にはもれなく島根同友会への入会を勧めています。

来年で第6回となる中同協主催の中小企業サミットでは、全国の会員企業が集まり、東京在住の学生に地方の企業へのインターンシップをお誘いしています。「日本全国で人間らしく生きることを体験しませんか」というインターンシップお誘いイベントです。

3年前、このイベントで出会った学生2人が島根の有福温泉まで来てくれました。当初は5日間の予定でしたが、結局、2人は休学までして、私と一緒に半年間生活しました。彼らは大学で地域について研究していましたが、その生活態度を見て「自分に都合の良いことだけやっていないか」と本気で説教することもありました。

そんな彼らは今年4月1日から有福温泉の住人になりました。地域の宿屋に就職し、地元の人たちは非常に喜んでくれています。その2人が、今年のビジネスプランコンテストの最終審査に残っています。インターンシップの経験を経て、本当にこの地域で生き続ける覚悟があるのかどうか、しっかりと見守っていこうと思います。

価値のある幸せな仕事づくり

私たち同友会会員が目指すのは、仕事にやりがいがあり、未来に希望が持てるふるさとづくりだと、私は考えています。愛知同友会が発表した「2022ビジョン:地域未来創造企業」を目指すには、ありたい姿を夢見る力が大切です。そのために一番必要なのが10年ビジョンです。

「人間らしく生きる」ことは、夢を見る力にあると思っています。誰もが夢を見ることができるような環境をつくることが、同友会会員の使命ではないでしょうか。ビジョンがあるからこそ使命感(ミッション)を抱き、そこから情熱(パッション)が湧く。情熱が湧くから行動(アクション)ができるのです。すべてはビジョンから始まります。これが、皆さんにぜひお伝えしたかったことです。

私たち1社1社が価値のある幸せな仕事づくりをしなければなりません。わが社もまだまだ課題はありますが、引き続き地域の未来のために何ができるか、社員を含む若者のこれからを見守っていきたいと思います。

【文責:事務局 橘】