労使見解が導き出す 次世代への展望
パネリスト
青木 義彦氏 (株)サンテック
吉田 幸隆氏 エバー(株)
コーディネーター
磯村 太郎氏 サン樹脂(株)


人を生かす経営推進部門主催の労使見解学習会が開催され、68名が参加しました。青木義彦氏と吉田幸隆氏を報告者に迎え、磯村太郎氏による司会進行で行われたパネル討論の概要を紹介します。
経営者の責任とは
【青木】
当社は機械や電化製品に組み込む制御ソフトを作っています。人を採用しても辞めてしまう状況が続き、社員との関係に悩み、同友会に入会しました。『労使見解』に書かれている内容は全部当たり前のことだと感じましたが、今振り返ると、全くわかっていなかったと思います。
私は「社長」と呼ばれることに抵抗があり、社員には名前で呼んでもらっていましたが、ある日、社員から「社長」と呼びたいと言われました。社長を社長と呼ばなければ、自分も部下に「○○さん」としか呼ばれないという理由でした。それを聞き、「組織統制」の重要性に気付きました。全員フラットで経営するのがよい経営だと思っていましたが、仕事上では役職の上下関係があり、指示をしたり、教えたり教えられたりする中で、組織が成り立つということを理解しました。
【吉田】
当社は自動車関係のプレス部品を作っています。社員数は120名で、多国籍の社員が働いています。
私は同友会で、支部長、労務労働委員長を経て、2017年から人を生かす経営推進部門に携わるようになりました。労務労働委員会では「人の話を聞く」ことの重要性を学びました。それまでは全く人の話を聞かず、突っ走るタイプの人間だったのです。
『労使見解』に向き合うきっかけは、2008年のリーマンショック、2011年の当社の品質問題でした。リーマンショックは世界中に影響が及び、膝を折られた感じがしましたが、同友会の仲間と励まし合うことができました。そこから立ち直っていった矢先に、当社の個別的な問題でお客様に迷惑をかけ、会社の存続が危ぶまれる事態に陥りました。立っていられないほどの精神状態の時でも、私の横には日常業務をこなし、品質問題の解決に向けて奔走する社員たちがいました。本当にその存在がありがたく、心の支えとなり、真のパートナーだと思えた瞬間でした。
そして同年3月の東日本大震災では、東北で被災した同友会の仲間たちがなんとしても事業を継続しようと使命感に燃えていました。ふと自分に目を向けると、危機的状況ではあっても会社はあり、社員もいる。会社さえあれば、立ってさえいれば、誰かのために仕事ができる、そう思いながら自分自身の使命にも気付くことができました。

社員と向き合う
【青木】
同友会理念を実践するためには経営指針が必要だと考え、毎年更新をして20年以上になります。残念ながら目指している会社にはまだ程遠いですが、「苦しいから楽しい」という言葉があるように、社員と悩みながら会社の方向性を考えてきた過程が懐かしく思い出されます。会社が変わり始めたことに気付いたのは、指針書を作成し始めて7年目からでした。
会社を法人化して何年か経った頃、障害を持つ社員を雇用しました。専門学校を卒業したばかりの彼は、初日から遅刻を繰り返しました。社員からは反対されましたが私は「習慣がつけば変わる」と信じて、毎朝彼を起こしてから出勤していました。彼にはさまざまな仕事に挑戦することを望んでいましたが、彼の居場所や担当する仕事が無くなったことを機に、あっけなく退職してしまいました。
私自身が最初の1週間で見切りをつけていれば、彼の20年間を無駄にすることはなかったのではないかと後悔しました。『労使見解』に書かれている「社員と向き合う」ということを本当の意味でできていたのか、自分自身が問われた出来事でした。
人を生かす経営の総合実践とは
【吉田】
人を生かす経営推進部門長の時に、各委員会の連携を模索しました。経営指針をプラットフォーム(土台)として、各委員会の理念を統合していくことを考えたのです。同友会では、人を生かす経営の「総合実践」という言葉をよく聞きます。どの企業にも共通するのは経営指針書であり、その指針書に取り組むべき課題として、各委員会の本質が入っていることが会社を良くしていく近道だと思いました。それには各委員会がどんな理念を持ち、何を会員企業に実現してもらいたいのかを明確にする必要があります。そこを各委員長と話しながら固めていきました。
例えば、共同求人委員会なら、単に人手を求めるのではなく計画採用の意義や、自社だけの採用から視野を広げて「地域に若者を残す」という気概。障害者自立応援委員会なら、全ての人の幸せの実現を謳うことで、障害ゆえに権利を行使できない面を支え、自立心や向上心を育てる関わりの中で、経営者自身が人間尊重の精神を深めること。そうしたものを委員会理念に位置付けることができました。
「人間尊重の経営で生き残れるか?」
【青木】
「人間尊重経営なんてやったら会社が潰れる。もっと利潤追求で走らないとダメじゃないか」という話も聞きます。自分でも、利益がない時には利益を追うことに目が向きますし、大抵の経営者は同じだと思います。企業経営である以上、利益、利潤がなくては成立しません。これはもう否定のしようがない事実です。その上で、何のために利益を上げ、利益を何にどう使うかです。それは、社会において、会社や社員がどんな存在でありたいかを問うことだと思います。
心が揺らいだ時にこそ、人間尊重経営が試されるのではないでしょうか。10年を待たず経営危機が訪れます。当社でも、最初にITバブルの崩壊、次にリーマンショック、そして新型コロナのパンデミックに襲われました。自分1人であれば、いつでも諦めることはできるでしょう。それでも、歯を食いしばって社員と共に「決して諦めない」という覚悟を持ち続けることが、人間尊重経営の根っこではないかと思います。
【吉田】
人を生かす経営推進部門長だった時に、ある会員から「『人を生かす』って、吉田さんにとって何ですか」という問いかけがありました。週末にメールで質問いただき、翌週には回答が欲しいということで、その時に自分の考えをまとめました。
私は、「人を生かす経営」と「人が生きる経営」とは違うと考えています。「人を生かす」というのは、経営者としての宣言だと捉えています。人が生きる状態をつくるために、人を生かす。経営者には、仕事を通して目の前の社員それぞれのまだ見ぬ能力を引き出し、「人を生かす」という使命があるからです。
『労使見解』を読み深めていくと、人には、持って生まれた命を全うしたいという思いと、自分の能力を開花させたいという欲求があることに思い至ります。そして、人間は1人では生きていけない生き物なので、連携しながら、あてにし、あてにされるという関係を築き、互いの存在を認めていくのだと思います。私もそんな会社にしたいという想いを強く持ちました。

労使見解をどう捉え直すか
【青木】
グローバル化が進む中で、言語、文化、育ってきた背景が異なる人たちを採用しても、私たちがやるべきことは、昔も今も「一緒に目標に向かって会社を良くする」ことです。ただ、アプローチの仕方は変わってくると思います。50年前は社会全体が貧しく、収入を上げるためにみんなで一致団結してやろうという価値観がありました。しかし価値観が多様化する中で、それぞれの欲求や願いをどうやって満たしていくか、これは経営者の責任です。
労使関係も個別的になっています。社員たちが共通して思っていることに幅広く応えていくのか、少なく絞り込んでいくのか。やり方は経営者によって変わると思います。私は、広げるより狭め、「せめてこれだけは」と考えて、社員に向き合っています。
【吉田】
当社には、自主性を発揮してくれる社員が何人かいます。日々の仕事については任せて安心、結果も出してくれる。しかし、この混とんとした国際情勢とさまざまな判断に迫られた時に、社員が長期的な視野に立ち展望できるかと言われれば、まだ難しく、葛藤を抱いています。経営側の想いを伝えることが難しく、説明不足の状態が続いていますが、そんな中で社員に「次のステージに行きたい」と言われたら、エステムの鋤柄修さんのように「新たな世界で活躍してくれることを願って、拍手で送り出そう」というのは、なかなか難しい決断です。ただ、彼の将来を考え、社員と共に歩調を合わせながら、ゆっくりと議論を重ねている最中です。
次世代への展望
【青木】
視点をミクロ(個別的)からマクロ(全体的)に変え、自分の目で見て考えて、自分の主張がしっかりできる状態をつくりながら、世の中の流れにも意見する。私は、これからそういう時代が来ると考えています。そうでないと、中小企業と大企業の差を埋めることは永久にできません。我々の中から大企業にはない新しい価値をつくる企業が生まれてくるようにするには、視点を変えることが重要です。会社の周り、取引先の周り、地域で起きていることを企業活動に結び付けて考える、これが『労使見解』の第6、7、8章につながっていくと思います。
【吉田】
50年前、『労使見解』ができました。その10年以上前から議論が始まり、文章にまとめてきたという経緯があります。今の賃金の上昇もそうですが、当時もとてつもない上がり方をする中で、どうやって統制を取ったのか、社員に理解を求めてきたのか、また採用できない中で、1社で採れないならみんなで協力しようと考えてきました。採用するだけではなく、社員を戦力化していこう、そのためには社員教育が必要だという議論によって、社員教育委員会ができました。
以前、労務労働委員長の時に1泊研修の「人間尊重経営塾」を行いました。その際に私が「企業内における教育とは」という問題提起をしたところ、先輩方から「教育を企業内だけにとどめて語るな」と異口同音に批判を浴びました。その時に、自社に都合の良い人材を育てるための教育をしようとしていた自分を恥ずかしく思いました。
教育基本法には、教育の目的は「人格の完成を目指」すと記されています。個人の持つあらゆる能力を最大限に引き出し、調和の取れた形で発展させる状態のことをいい、先ほどの「人を生かす」経営と通ずるところがあります。私は次世代への展望として、フロントランナー企業、社会教育運動をする気概を持ち、中小企業家として、誇りを持てる経営環境づくりをしていきたいと思っています。
愛知同友会創立60周年を機に、これからの10年を展望する「22ビジョン」が作られました。実現に向けて、一歩でも近づけるように一緒に頑張っていきましょう。
【文責:事務局 下脇】









