景況調査

第20号-1998年11月
底打ち感はないものの、景気下降圧力は弱まる

【概況】
【業況判断】業況判断改善するも、依然厳しい
【売上高】【経常利益】経常利益改善示すも、売上高最悪を更新
【在庫】「減少」超過に転じ、「過剰感」やや弱まる
【価格変動】【取引条件】価格の低下続く
【資金繰り】「窮屈感」和らぐも、見通しには厳しさ
【施設稼働率】【設備過不足】施設稼働率の「低下」超過幅の縮小続く
【雇用】「過剰」超過幅縮小
【経営上の力点など】引き続き「民間需要の停滞」がトップ
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(1998年11月)第20号(PDF:617KB)


【概況】

 依然として厳しい状況が続いていますが、今回調査では景気の下降圧力が若干弱まってきたことを感じさせる結果となりました。「業況判断」DIは前回の△58から△56へ2ポイントの改善を示し、1997年2月以来7期続いてきたマイナス幅の拡大に歯止めがかかった形になっています。これは、業況が「悪い」と回答した企業の割合が前回と同様の63%にとどまったのに対し、「よい」と答えた企業が2%増加して7%になったことによるものです。また、業況が前年同期に比して「好転」したと回答した企業の割合から「悪化」した企業の割合を差し引いたDI値も、前回の△66から△62へ4ポイント改善を示しました。

 しかし、こうした数値をもって、急速に悪化の一途をたどってきた景気が「底打ち」段階に入ったものと判断するのは時期尚早であるといわざるをえません。前年同期に比して業況が「悪化」したと答えた企業が依然として71%もあるという事実は軽視できませんし、来年2月を前年同期比「悪化」と予測する企業も62%にのぼっています。また今回調査で「売り上げ」が前年同期と比べて減少したと回答した企業が54%もあり、「増加」から「減少」を差し引いたDI値も、前回調査比4ポイント悪化して△33となっています。「景況分析会議」での情報収集や個別企業へのヒヤリング調査でも、残念ながら「底打ち」を実感させる事実を聴取することはできませんでした。

 経企庁が「幾分の改善を示す動き」として取りあげている「スーパーの消費税還元セール」の好調さも、消費需要回復の兆候というよりも、需要低迷を背景にした一種の価格破壊現象ととらえるべきであり、今後むしろ「値下げ要請」などの形で中小企業の経営を圧迫するのではないかと懸念されています。

 「貸し渋り対応特別保証制度」などの効果もあって資金繰り不安に一服感が見られたり、他社の倒産や撤退が残存企業の仕事増につながりつつあるなど、若干の変化が確認できることも事実ですが、今しばらくは、「一層の業況悪化」の可能性をも考慮しつつ、激しいサバイバル競争を生き抜く覚悟が必要だと思われます。

[調査要項]

 1.調査時  1998年11月30日~12月3日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 641社より、176社の回答をえた(回収率27.5%)
       (建設業29社、製造業62社、流通・商業37社、サービス業48社)
 5.平均従業員 23.3人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
業況判断改善するも、依然厳しい

 調査開始以来最悪の結果を更新していた「今月の状況」DIは、その「悪い」超過幅拡大に歯止めがかかり、前回調査比2ポイント改善の△56となった。業種別では、とくに製造業で14ポイント(△65→△51)と大幅に改善したのが目立つ。製造業では「悪い」と答えた企業が前回調査の70%から57%にまで低下した。また、サービス業でも1ポイント(△61→△60)と小幅ながら改善した。一方、流通業は10ポイント悪化して△58となり、建設業では14ポイント悪化して△62となった。とくに建設業では「悪い」と答えた企業が7割にまで達している。前年同月比DIは△66→△62と4ポイント改善した。しかし、「悪化」と答えた企業の割合が建設業で前回の83%から68%へと低下したものの、依然として4業種とも7割前後の企業が「悪化」と回答しており、業況の厳しさが窺える。また、次期見通しにおいても62%の企業が「悪い」と見通しており、先行きに対する懸念はなお根強い。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
経常利益改善示すも、売上高最悪を更新

 売上高DI(前年同月比)は前回比6ポイント悪化の△44となり、3期連続で調査開始以来最悪の結果を更新した。業種別でみると、7割を超える企業が「減少」と回答していた建設業が△63→△39と改善した以外は、3業種で軒並み悪化した。サービス業が19ポイント悪化(△21→△40)したのをはじめ、流通業は10ポイント(△26→△36)、製造業は8ポイント(△45→△53)悪化した。次期見通しでも、全業種で5割を超える企業が売上高の「減少」を見通しており、75%の企業が「減少」を見通した建設業を中心に、先行きに対する見方は深刻である。
 経常利益DI(前年同月比)は5ポイント改善し、最悪更新に歯止めがかかった。「悪化」した企業が6割を超えた流通業で悪化(△28→△41)が見られたほかは、3業種でそれぞれ改善が見られた。しかし、見通しは依然として厳しく、次期見通しDIは△23と大幅な赤字見通し超過であった。とりわけ、建設業で6割強の企業が「赤字」を見通しているのが目立つ。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
「減少」超過に転じ、「過剰感」やや弱まる

 前回4と「過剰」超過に転じた在庫DI(前年同月比)は、今回△11と再び「減少」超過に転じた。これは在庫が「減少」したと答えた企業が6%増加したのに加え、「増加」したとする企業が前回比10%減少したためである。業種別では製造業(6→△9)、流通業(2→△22)ともに「減少」超過に転じた。また、「在庫過剰感」を示すDIも18と、前回に比べ3ポイント「過剰感」が弱まった。次期見通しにおいては7と、先行き在庫過剰を見通す企業が不足を見通す企業を上回っている。

【価格変動】【取引条件】
価格の低下続く

 価格の低下傾向に歯止めがかからない。価格変動DI(前年同月比)は7期連続で「低下」超過幅が拡大し、全業種で7ポイント悪化の△64となった。業種別では、建設業で△74→△72と「低下」超過幅が縮小したが、その他3業種は押し並べて悪化を示した。△53→△72と19ポイント悪化した流通業をはじめとして、サービス業(△47→△57)、製造業(△58→△61)もそれぞれ悪化した。また、取引条件DI(前年同月比)も△32→△35と3ポイントの悪化を示した。次期見通しでも先行き価格低下・取引条件悪化を見通す企業が多い。

【資金繰り】
「窮屈感」和らぐも、見通しには厳しさ

 資金繰りDIは△42→△28と14ポイントの大幅な改善を示した。これは「余裕」と答える企業が前回に比べ5%増加したのに加え、「窮屈」とする企業が9%減少したためである。業種別では、流通業(△33→△35)を除く3業種で「窮屈」超過幅が縮小した。建設業が△60→△33と27ポイントの大幅な改善を示したのをはじめ、製造業(△42→△22)、サービス業(△40→△27)でもそれぞれ改善を示した。しかし、次期見通しにおいては5割を超える企業が「窮屈」になると見通しており、依然として資金繰りに対する懸念は払拭されていない。

【施設稼働率】【設備過不足】
施設稼働率の「低下」超過幅の縮小続く

 施設稼働率DI(前年同月比)は△27→△18と9ポイント「低下」超過幅が縮小した。業種別では、製造業(△36→△25)・流通業(△12→△4)ともに「低下」超過幅が縮小した。次期見通しにおいては△23と、先行き稼動率が「低下」すると見通す企業が「上昇」とする企業を大幅に上回った。設備過不足DIは1と横ばいであった。これは「過剰」「不足」とする企業がともに1%減少し、「適正」と答える企業が2%増加したためである。業種別ではサービス業で「不足」超過幅が縮小する一方、流通業で「過剰」超過幅が縮小し、建設業では「不足」超過幅が拡大した。製造業は横ばいであった。

【雇用】
「過剰」超過幅縮小

 全業種でみた雇用動向は11→5と、6ポイント「過剰」超過幅が縮小した。流通業で5→13と「過剰」超過幅が拡大した以外は、建設業(7→△5)・サービス業(7→△16)が「不足」超過に転じ、製造業(19→16)も「過剰」超過幅が縮小した。しかし、次期見通しにおいては雇用が「過剰」になると答えた企業が,「不足」を見通す企業を上回っており、依然として雇用過剰感がぬぐえない状況が続いている。

【経営上の力点など】
引き続き「民間需要の停滞」がトップ

 「経営上の問題点」の項目では、引き続き「民間需要の停滞」が第1位であった。業種別では、サービス業が前回比23ポイント増加し、7割強がこれを問題点としてあげているのが目立つ。第2位は前回に引き続き「販売先の値下げ要請」であった。「経営上の力点」では、「新規受注(顧客)の確保」「付加価値の増大」が高い比重を占めている。