学習指導要領が描く「新たな教育」の姿
植田 健男氏 花園大学教授・名古屋大学名誉教授
共育委員会主催のオープン講座が行われ、植田健男氏(花園大学教授・名古屋大学名誉教授)に「本当の教育」についてお話しいただきました。その概要を紹介します。
社会と教育の関係
新旧の教育基本法は、「人格の完成」を教育の目的として規定しています。それは、子どもたちに生物としての「ヒト」から「人間」へ自立の援助を意味しています。
「人間」としての自立には、「学ぶこと」「生きること」「働くこと」の3つを繋げて考えることが必要不可欠ですが、特に「働くこと」については、残念ながら未だに「進学できないから、仕方なく就職するのだ」といった見方が残っています。
今までの教育は、「学力」と言いながらもっぱら「記憶力」を重視して、「学ぶこと」は覚える能力を身に付けさせることを意味していました。その背景には、1960年代からの国策としての産業構造の転換があり、工業化社会への転換に対応できる人材づくりを追求し、極めて単純な「能力」観に基づいて、「学力」による人材の選別が学校教育に求められたのです。
「学力」から「資質・能力」へ
現在、知識基盤社会型産業への産業構造の転換が目指され、2017・18年の学習指導要領の全面改訂で、今度は「資質・能力」を重視する教育へと大きく舵を切ろうとしています。
それに合わせ、地域や子どもの実態から各学校で教育課程をつくるよう求められています。教育課程とは、各学校によって作成され、そこでの教育活動、組織の運営を含む教育計画を指し、企業における経営指針と同等のものといえます。
1951年の学習指導要領には、教師だけではなく専門家や保護者、地域社会の協力を得て教育課程をつくることが必要とされていましたが、58年改訂により、単純な「学力」競争に学校教育を巻き込んでいく中で、全く言及されなくなりました。
ところが、ここに来て「資質・能力」を重視することになる中で、再び、教育課程づくりを見直す動きが出てきているのです。
そこには様々な問題が含まれていることも事実です。しかし、今こそ子どもに人間としての自立を保障する、人間尊重の教育の再生への期待を込めて、企業や地域の方々が協力し、「人間」を育てることに関わっていくことが大切です。同友会の人間尊重の考え方に自信を持ち、これからも広めていってください。