活動報告

第23回女性経営者全国交流会 from 新潟(11月16日・オンライン開催)

第3分科会 同友会らしい「永続企業」をめざして

佐野 和子氏  (有)佐野花火店

佐野 和子氏

昨年11月16日にオンラインで開催された第23回女性経営者全国交流会で、第3分科会は佐野花火店の佐野和子氏が報告しました。以下に報告概要を紹介します。

徳川家康公と花火

終戦直後に祖父が創業した当社は、バブル期に父が法人化しました。私は3代目です。女性社長ということで、愛知県の「あいち女性輝きカンパニー」「ファミリー・フレンドリー企業」、岡崎市の「男女共同参画推進事業所」の表彰等をいただきました。

当社が所属する「日本煙火協会」には全国で350事業所が所属しており、うち26名(7.4%)が女性社長です。愛知県の事業所は29社と全国最多ですが、徳川家康公が天下統一後、「平和な世の中を綺麗な花火で象徴したい」と、戦国時代に武器として使っていた火薬を故郷である三河に貯蔵保管の許可を出したことで、三河にたくさん花火屋があるそうです。

花火屋のなかでは、打ち揚げ花火を製造し消費している花火師のいる会社が300社近く、その他にSFマークの付いた玩具花火の製造業者が特にこの三河地方に多く、その玩具花火を日本全国に卸売している販売業者があります。当社は、卸売・直販小売・打ち揚げの3部門があり、売上げの85%が卸、14%が小売です。

経営理念は、感謝と笑顔

経営理念は、「感謝と笑顔」と掲げています。私は小さい頃から店を継ぐよう言われていたので、「自分の存在を認めてほしい」と思い、「お互いを尊重し合います」ということを特に強く思いながら、創業者である祖父と母、佐野家に養子に来てくれた父の3人の考え方を合わせて作りました。

同友会の岡崎地区では、周りは私よりも先輩の男性ばかりで甘えていましたが、女性部に西三河支部の代表として参加することになり、そこで私より若い女性経営者と出会ったことで、私も「経営者として会社をきちんとしよう」と、組織づくりに取り組みました。

しかし、私が急ぎすぎたのか社員を急かしすぎたのか、男性店長が辞めてしまい、そのせいで女性社員もほとんど辞めてしまいました。同友会で学んだからと自分勝手に動いたことを反省し、残ってくれた社員に聞きましたら、「私には辞める理由がありません。ここは働きやすい会社ですから」と言ってくれました。その時、「この社員が定年になるまでに良い会社にしよう、この社員が辞めない会社にしよう」と思いました。

会社の強みは、女性の力

歴史ある業界なので100年続く企業も多いなか、当社の社歴はまだまだ浅く、販売業者のなかでは一番売上げが少ない。そんな当社の強みは何なのか考えたとき、同友会での女性経営者との学びがヒントになりました。業界で女性活躍の考え方を取り入れているところはない。なぜなら、愛知29社の業界内で女性社長は私だけです。そして内職やパート社員として業界を支えているのは女性で、そのなかには学歴もあり能力も高い人がとても多いことに気付き、彼女たちに活躍してもらおうと思いました。

女性の意見を取り入れたデザインのパッケージは目立つので最初はよく売れますが、他社も真似をするのですぐに価格競争になって売上げが落ちてしまいます。そこで、同じ市場で競争してはいけないと、「花火十二単」という高級花火を作りました。この「十二単」という字を書いてくれたのも女性社員です。袋詰めのセット商品は小売店では数百円で販売されますが、「花火十二単」は1セット1万円です。東京の会員制の料亭がお中元として使ってくださったり、リピーターが毎年購入してくださったりと、競合しないルートで販売できます。

低価格のセット商品(左)と大人向けの高級花火「花火十二単」

社員が生き生き働く会社

そんななか、2030年ビジョンを作りました。私が「こんな会社にしたい」といくつか挙げたなかから、社員が決めた3つを2030年ビジョンに掲げました。

1つ目は「佐野ブランドの確立」です。「花火十二単」やセット商品を自社で作ることは自社のブランドを販売することになり、利益率も上がります。そして、業界の内外に当社を知ってもらい、メーカーに花火を作ってもらうことで「あてにし、あてにされる」会社になり、そのことで自社のブランドがもっと強くなる、と考えています。

2つ目の「社会の一員として必要とされる会社になる」では、商工会議所や中高・大学等からの講師依頼を受けたりインターンシップ生を受け入れたりすることで、「佐野花火店にお願いすれば学生が学ぶことができる」「佐野花火店があって本当に助かる」と言ってもらえています。

3つ目の「社員が生き生き働く会社になる」は、私が特に強く言ったことです。社員自身が幸せになれる、社員同士が夢を語り合って生き生き働ける会社にしなければ、「佐野ブランドの確立」も「社会に必要とされる会社」もないと思っています。

オリンピックをイメージした表紙の2020年のカタログ

ビジョンで会社が変わる

3つのビジョンを掲げたことで、また少し動きました。それまで業者にデザインしてもらっていたカタログの表紙を、近年は社員がデザインした案から選んでいます。他にも、毎年出る新商品は実際に火を点けて見ますので、「その様子を動画にしてQRコードを付ければ、お客さんにも分かりやすい」と社員に頼みましたら、2つ返事で作ってくれました。

もう1つ、公式LINEスタンプの発売です。「当社のキャラクターを作り、そのLINEスタンプを作りたい」という私の思いを去年入った社員に話しましたら、「一生に一度、LINEスタンプを作ってみたかった」と一生懸命作ってくれました。これも小売り部門で販売しています。

公式LINEスタンプ購入者には店頭限定で花火をプレゼント

それでも理念は感謝と笑顔

当社は11月が決算で、12月上旬に指針発表会を開きます。去年の今頃、今年度の方針を決めました。

本当に恥ずかしい話ですが、売上げがここ3年間で下がっています。夏の売上げが大きいので、天候が悪いと売上げに影響してしまいます。だからこそ「花火以外の何か」を考えないといけない、天候に左右されない強靭な会社にしたいと思い、「向上心を持ち、何事にもチャレンジ~1人1人が変化する」という方針と同時に「新規開発チーム」をつくり、「会社を維持・発展させるためのチームということを念頭に、理念に沿って提案してください」とお願いしました。

この3月、新型コロナウイルスの感染拡大がありました。小売店への第1次納品は4月ですが「売れなくて全部返品されたらどうしよう」と心配になり、「感謝と笑顔」という経営理念が中途半端に思えて、理念の見直しを宣言しました。しかし、社員からは今の理念に賛同してくれる意見がたくさん出て、コロナに負けている自分を反省し、すぐに社員に謝りました。

その時、新規開発チームに選ばれた社員に『特別感』が生まれていることが分かりました。そこで、「働く意識の向上と幸せな人生を学ぶ『スキルアップチーム』」と「良い会社にするためにどうしていくか考える『コミュニケーションチーム』」の2つをつくり、正社員をリーダーにして、全社員がどこかのチームに入るようにしました。

冬の売上げアップのための「やきいも」事業

夢の実現に向けて

夢の実現に向けてビジョンを描いたからこそ、私も一歩ずつ進んでいこうと、創業100年を目指しています。私も時が来れば退き、次に承継していかなければいけません。

私には4人の子供がいます。長男は県立高校の先生をしています。末息子は同業の花火屋の後継者として切磋琢磨しています。次男は、悲しいかな、先日退職してしまいました。最後に、私にはもう1人、娘がいます。彼女は、3人いる兄弟の誰かが継ぐと思っていたと思いますが、誰もいなくなってしまったので、「私が継いで、男どもに『ほらね』って言ってやる」と言ってくれました。

企業経営を通じより良い社会を

この夏、コロナ禍で自重しているなか、マスコミの方が「花火やりましょう」と言ってくれました。すると、当社に向かう道路が渋滞してしまいました。そんななか、近所の皆さんは交通整理をしてくれたり、自分の借りている駐車場を空けてくれたりしていたそうです。それを後から知りましたが、誰からも苦情がきませんでした。近所の人たちにご迷惑をおかけしていたと思いますが、協力してくれたことに本当に感謝しています。また、このことは社員とも共有しています。

同友会運動とは「企業経営を通じて、より良い社会づくりをしていく」ことだと思っています。私の住んでいる岡崎市で中小企業が発展することで、岡崎市の発展につながると思います。私は、同友会運動を皆と一緒に進めていき、地域の皆さんに感謝しながら共に歩んでいきたい、と考えています。様々なことを学ぶなかで、同友会運動と会社経営が不離一体だ、ということがよく分かったような気がします。

最後に、当社の2030年ビジョンの映像を作りましたので、ご覧ください。

【文責:事務局 井上一馬】