活動報告

障害者自立応援委員会「障害者と共に働き理念を実践(前半)」11月10日

高瀬 喜照氏  (株)高瀬金型

高瀬 喜照氏

11月度の障害者自立応援委員会では、高瀬金型の高瀬喜照氏が報告しました。その会合を2回に分けて紹介します。前半となる今号は、高瀬氏の同友会への入会と経営者としての生き様の確立です。

同友会に入会して

入会のいきさつ

私は起業して39年になります。子どもの頃は、親父とお袋がやっていた熱間鍛造の仕事を手伝っていました。迷うことなく工業高校へ進学し、卒業後は鍛造を覚えるために近所の金型屋に6年間勤め、24歳で独立しました。生まれは1957年、中小企業家同友会が東京で設立された年と同じです。ある意味、運命的なものを感じています。同友会が経験してきた時代の感覚がよくわかり、それも同友会にはまっている理由の1つです。

同友会に入会するまでは、真っ暗な小屋のような工場で、黙々と鉄を削っている鍛冶屋の親父でした。まあ、今もずっと鍛冶屋の親父なんですけどね。

起業した当初は私と弟と社員の3人でやっていました。その頃、金型屋は本当に景気が悪く、やればやるほど損害が出るような状態でした。以前私が勤めていた会社も廃業し、行き先のない社員3人を引き受けることになったのです。一気に社員が倍に増え、これからどうしようかと思っていた時、知人の紹介で同友会に入会しました。

稲沢市にある高瀬金型の本社

人生のテーマが解け始める

「自分はどう生きるべきか」、漠然とした思いがずっとありました。時代の影響もあったかもしれません。その頃は、学校の先生にもいろいろな人がいて、日教組の先生が共産主義的な話をしたり、小学校で「人はパンのみにて生くる者に非ず」という話を聞いたりしました。

親父は、生後まもなく父親を亡くし、母子家庭でとても貧しい環境で育った人です。1964年に鍛造の仕事を始め、人から頼まれたものはきちんと仕上げ、威張ることなく、人を下に見ることもなく、真面目でとてもプライドを持っていました。

親父のことは大好きで、尊敬もしていました。今自分がやっていることも、親父から引き継いだものがたくさんあります。お袋も義理堅く、自分たちが食えなくても、「お客さんにはよいものを出して腹一杯食ってもらわないかん」、という人でした。

そういう中で「自分はどう生きるべきか」と、もやもやした思いを抱いていたのです。そんな時、同友会の「労使見解」や赤石義博さん(元中同協顧問)のお話を聞き、会社経営はそうやっていけばいいんだなと腹に落ちました。同友会に入って、人生のテーマが解け始めた気がしたのですね。それが、同友会にはまっている最大の理由です。

「99ビジョン」との出逢い

愛知同友会に入会した翌年度、「99ビジョン」が出されました。「自立型企業」と「地域密着」を目指そうというものです。みんなは「よくわからない」とか「うちの会社は地域とは関係ない」とか言っていました。そんなところから、「99ビジョン」はスタートしたのですね。

でも、「自立型企業」は、当たり前のことじゃないですか。企業は言われたことだけやっていればいいわけではない。プライドを持ち、親会社とも互いに対等であるという姿勢は当然のことです。

「地域密着」も、会社は地域にあり、企業は公器とも言われ、自分たちのお金儲けのためだけに存在するわけではありません。やはり、会社は地域の財産であるべきだと思います。

当時は景気も悪くなっていて、中小企業がどうあるべきかを示した「99ビジョン」に、深く共感したのを覚えています。

高瀬金型が目指す社風

入会して3年、同友会理念もあまりわかっていない頃に、地区例会で経営理念を書くことになりました。その時すっと書けたものが、次の2つです。

「私達は、技術力と共存共栄の精神で、豊かで明るい社会を支える企業を目指します」「私達は、互いが協力して個々の能力を100%生かし、ものづくり文化を支える企業を目指します」。

1つ目の思いは、ものづくりで人の役に立っていこうということ。2つ目は、互いに協力して、互いに認め合う、という意味です。得意なことは1人ずつ違います。その人の持っている能力を発揮し、人の役に立ち、自信を持って各々生きていく。それを互いに認め合っていくことが、人が生きる上ですごく大事だと思います。

親父もそうでした。儲けさせてくれるところだけに、尻尾を振っていくことはありませんでした。親父の生き方から、何が大切なのかを改めて教わってきたのです。

プラスチック用金型の製造工場

自主・民主・連帯の具体化

「自主・民主・連帯」は誰もが持つ価値観

同友会理念の1つである「自主・民主・連帯の精神」。最初の頃は、はっきりしたイメージが持てませんでした。そこで、10年ほど前に、赤石義博さんに支部例会で報告していただきました。その時、赤石さんのレジュメには、こう書いてあったのです。

経営の要といえる「全社一丸体制」実現の原動力と、人類が求めてきた最高の価値「生きる、暮らしを守る、人間らしく生きる」をめざすことは1つのものという糸口を掴んでくれたこと、同友会運動の歴史はそれを磨き上げる歴史であったとも言えるとありました。

「生きるは“民主”、暮らしを守るは“連帯”、人間らしく生きるは“自主”」、これを目指していくことが全社一丸体制の原動力ですよ、ということですね。同友会理念の中で、「自主・民主・連帯」が一番大事なもので、それが労使見解などにつながります。

「自主・民主・連帯」は人間の根本的な価値観であり、究極あらゆるものをそぎ落としていけば、誰もが持つ価値観だと思うのです。

自分らしく生きる

人間は生まれた以上は幸せに生きていく、そうあるべきです。それぞれが自分らしく生きることが一番大事なのです。そこに、経営者は関わっていかなければならない。なぜなら、人を採用し、育てていくのですから。

自社では16年ほど前から新卒採用を始めました。入社した社員は、みんな悩むのですよね。「自分は何のためにこの会社に入ったのか」、「本当に役に立っているのか、なぜここにいるのかもわからない」、そう話してくれた社員がいました。その中で、仕事を任され、やり遂げた充実感を得て、人の役に立っていると思える、そういう仲間との関係の中で徐々に成長していくと思うのです。

入社して5年、10年、15年と経つうちにそれぞれ成長し、人の世話ができるようにもなる。その姿から、こちらも教えられる。これが「自主・民主・連帯」の原点です。そういう会社にしたいし、そうあるべきだと思っています。

そのために、経営指針は重要です。指針発表会を始めて7年になりますが、つくる段階が非常に大切で、社員と一緒に、あーだこーだ、滑った転んだと言いながらやっています。若い社員が多く素人集団ですが、次の世代に頑張ってもらえるようにと思っています。

【文責:事務局 岩附】
(次号へ続く)