活動報告

第24回女全交in愛知 プレ学習会(1)4月20日

ジェンダー平等(男女共同参画)がもたらす企業変革

中村 奈津子氏  NPO法人参画プラネット

中村奈津子氏

第24回女性経営者全国交流会を愛知で設営するにあたり、ジェンダー平等(男女共同参画)についての理解を深め、多様な人が活躍できる企業づくりを実現するための手がかりを掴もうと、NPO法人参画プラネットの中村奈津子氏を招いてプレ学習会を4月から全3回開催します。今号では初回の「ジェンダー平等がもたらす企業変革」について、報告の概要を紹介します。

「ジェンダー」「男女共同参画」の登場

今回のテーマとなっている「ジェンダー」や「男女共同参画」の発端は、一般に女性運動(フェミニズム)と呼ばれる女性参政権獲得や、女性の不平等の是正を目指した運動にあります。こうした社会運動に伴い、アカデミズムの領域で女性学が誕生・発展するなかで、日本では「ジェンダー」という言葉が1980年代以降、知られた言葉となっていきます。

他方、「男女共同参画」という言葉は政策領域の言葉です。1975年の国際婦人年を契機に、1987年に初めて政策上の用語として登場し、男女共同参画推進基本法へ結実したことで法令用語ともなっています。

「ジェンダー」とは何か?

「ジェンダー」とは、おおむね次のように表現されます。

「人は生まれてきたときに、一般に、男の子、女の子と区別をされています。このような生物学的な性別(Sex)に対し、社会的・文化的につくられた性差を『ジェンダー(Gender)』といいます。いわゆる男らしさ、女らしさがこれにあたります」(こうち男女共同参画センター啓発誌『ぐーちょきぱー』Vol.3《2010年改訂版》に中村奈津子氏が一部加筆)。

また、アカデミズムの領域では、米国の歴史学者ジョーン・スコットが「肉体の差異に意味を与える知」と定義しています。研究の領域では、この「知」に基づく男女の権力関係や不平等に着目して分析が行われています。

「ジェンダー平等」とは?

次に「ジェンダー平等」です。これは、「ジェンダー(社会的・文化的につくられた性差)に基づく偏見や不平等・不公正をなくすこと」を意味します。具体的には、次のようなものです。

(1)「女子に教育は必要ない」や「男は理論的、女は感情的」、あるいは「男は主要業務で女は補助的業務」などといった、性別にひもづいた偏見や差別をなくすこと。

(2)「男は仕事、女は家事・育児・介護・地域活動」など、性別による固定的な役割分担を見直すこと。

(3)性別による固定的な役割分担を前提にした差別的な取り扱い、制度、慣習・法律を改めること。

このような「ジェンダー平等」の状況を表現したものに、世界経済フォーラムの公表する「ジェンダーギャップ指数」があります。「経済的参加」「教育」「医療へのアクセス」「政治参加」の4つの指標をもとに国別に点数をランキング化したものですが、これによると、日本は2019年度は153カ国中121位、2020年度は156カ国中120位です。先進国でありながらも、世界的にはジェンダー平等が進んでいない国の1つといえます。

もうひとつ、最近よく目にするのが国連で合意された「持続可能な開発目標(SDGs)」です。「誰1人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標ですが、このなかのゴール5に「ジェンダー平等を実現しよう」があります。ここでは、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」ことが目標として位置づけられています。

「男女共同参画」で目指す社会と5本の柱

男女共同参画社会実現のための5本の柱
(出所)中村奈津子氏講演資料より抜粋

本日のもう1つのテーマとして「男女共同参画」が挙げられています。男女共同参画は、その基本法である「男女共同参画社会基本法」を英訳すると“Basic Act for Gender Equality”となるように、先ほどの「ジェンダー平等」とほぼ同義です。

1999年に公布・施行された同法では男女共同参画により目指す社会像を次のように示しています。

「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意志によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」(男女共同参画社会基本法 第2条)

こうした社会実現に向けては、(1)男女の人権の尊重、(2)社会における制度または慣行についての配慮、(3)政策等の立案および決定への共同参画、(4)家庭生活における活動と仕事や勉学など他の活動の両立、(5)国際的協調、が相互につながりを持つ5本の柱として明示されています。同時にこの5本柱は、21世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置づけられています。

日本の取り組みはどこまで進んだか?

現在の日本では、第5次計画となる「男女共同参画社会基本計画」(以下、第5次計画)が2020年12月に閣議決定され、取り組みも新たな段階に入りつつあります。この計画では、2030年度末までの基本認識とともに、2025年末までを見通した施策の基本的方向と具体的取り組みが定められています。

特に今回の計画で念頭に置かれているのは、新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済的社会的影響が女性に大きく偏って表れたことです。これは世界的にも共通し、現在の景気後退を、英語で女性を表す“she”と、景気後退を意味する“recession”とを掛けた“shecession(シーセッション)”という造語で表されています。

この背景にあるのは、政策・方針決定過程への参画に関するジェンダーギャップです。たとえば日本の経済分野では、管理職や役員へのパイプラインの構築が途上であると表現されます。パイプラインの構築とは、採用時の男女比率が、年次を追っても維持されていればパイプラインが「構築されている」とされ、逆に維持されていなければ「構築されていない」ということになります。

日本は他の先進国と比較しても、女性の管理職や役員の登用割合は大きく水をあけられていることからも明らかなように、パイプラインの構築はまだまだ途上にある状況です。また政治分野でも、日本は諸外国に比べて女性議員比率が著しく低くなっています。

このような政策・方針決定過程に対する限定的な女性の参画状況は、結果として社会全体に固定的な性別役割の分担意識を強く残すことになります。

企業にも問われるジェンダー平等

この第5次計画の第2分野は、「雇用分野、仕事と生活の調和」です。ここでは「ワーク・ライフ・バランス」と「女性を含めた、多様な人材の活躍促進」が現状を改善するキーワードです。ワーク・ライフ・バランスは「働きやすさ」、多様な人材の活躍は「働きがい」と言いかえても良いでしょう。

さらに近年ではセクシャルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントの禁止ならびに防止に関する法整備が進むなど、企業には各種ハラスメントへの対応能力が問われています。

また特に最近話題となるのが就職活動時のセクハラ、いわゆる「就活セクハラ」です。企業側は悪気なく行っていることもあるようですが、今の大学生の多くがジェンダー平等について学校教育で学んだ経験を持っているなかで、意識のズレが企業、学生の双方にマイナスを生むことになります。時代の変化を適切に捉えた対応が企業にも求められています。

ジェンダー平等(男女共同参画)を推進する企業メリット

どのように推進するか
(出所)中村奈津子氏講演資料より抜粋

第5次計画では、企業にかかわる具体的な数値目標も定められています。特に念頭に置いておきたいのは、(1)週労働時間60時間以上の雇用者の割合、(2)年次有給休暇取得率、(3)労働時間等の課題について労使が話し合いの機会を設けている割合、(4)民間企業における男性の育児休業取得率です。

こうした取り組みを進めることは、企業にとっても少なくないメリットがあるといえます。その主なものは5つあります。

1つ目は多様な人材の定着です。離職率が低下すること、社員の創造性や視点が多様化することになります。2つ目は優秀な人材の確保、3つ目が社員の満足度と意欲の向上、心身の健康保持増進、4つ目は労働生産性、経営競争力のアップ、そして5つ目が働き方の効率化により、残業代などの経営コストが削減されることです。

取り組みを進めるポイントは3つのステップです。まず、(1)ジェンダー視点を持った人事制度、労働環境、人材開発(教育訓練やキャリア開発)の現状把握を行うことです。次に、(2)労使の話し合いに基づく、自社の課題発見と整理を行い、その上で(3)目標の設定とPDCAサイクルによる継続した改善への取り組みを進めることです。

この3つのステップは、同友会の『人を生かす経営―中小企業における労使関係の見解』に収録されている(株)エステムの事例に通じます。社員の提案を汲み上げ、社員の声を集めながら企業の方向を経営者が決断していくという基本的サイクルを企業内に確立し、具体的に実行していくことが決定的に重要です。

今回を含めた3回のプレ学習会では、テーマとする「永続する企業づくり」を考える材料をお示しできれば幸いです。本日はありがとうございました。

【文責:事務局・池内】