活動報告

第24回女全交in愛知 プレ学習会(3)6月22日

ダイバーシティ&インクルージョン(人を生かす経営)の実現に向けた課題

中村 奈津子氏  NPO法人参画プラネット

中村 奈津子氏

第24回女性経営者全国交流会を愛知で設営するにあたり、ジェンダー平等(男女共同参画)についての理解を深め、多様な人が活躍できる企業づくりを実現するための手がかりを掴もうと、NPO法人参画プラネットの中村奈津子氏を招いて全3回のプレ学習会を行いました。今号では第3回の「ダイバーシティ&インクルージョン(人を生かす経営)の実現に向けた課題」について、報告の概要を紹介します。

なぜ、ダイバーシティ&インクルージョンか

「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包摂性)」が日本の企業経営に求められるようになった要因は、大きく2つあります。

第1は、少子高齢化社会と労働力人口の減少です。労働参加率を引き上げなければ必要な労働力を確保できない中で、多様な社員が働ける環境づくりが不可避となっています。第2は、グローバル化をはじめとする市場環境・労働環境の変化です。これは3つの側面があります。

1つ目は、企業の国際化における異文化経営の必要性です。日本でも1980年代から学校教育や様々な場で異文化理解、異文化教育が盛んに言われるようになりました。自分たちとは異なる文化的背景を持った人たちと共にビジネスをする、あるいはその人たちに対してサービスを提供していかなければならない状況があります。

2つ目は、「VUCA(ブーカ)時代」です。VUCAとは企業環境の変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の4つの英単語の頭文字を取ったものです。変化のスピードがとても速く、あらゆるものを取り巻く環境が複雑になり、想定を超えた事象が生じるなど将来の予測が立ちにくい状況を言います。私たちはその状況の中で変化を先取りし、自ら変化し続ける柔軟な組織づくりをすることが求められています。

3つ目は、消費者、株主、取引先等のステークホルダーが多様化する中で、新たなサービスや関わりを生み出すイノベーションと創造性が求められていることです。総じて言えば、ダイバーシティ&インクルージョンは、企業経営への時代の要請と言えます。

ダイバーシティ(多様性)とは

ダイバーシティとは、組織の中に「多様な属性」を持つ人がいる状態のことを指します。多様な属性とは、性別や年齢、国籍、障がいの有無などの「表面的な属性」と、宗教や考え方、職業観等の個人の価値観や経験、生き方等までをも含む「内面的な属性」とがあります。

従来のダイバーシティ経営は、「表面的な属性」ごとに対して働きやすい環境を整備することで進められてきましたが、現在では内面的な属性への対応も求められています。

経済産業省は、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義します。ここで言う「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性をも含みます。そして「能力」という言葉には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含まれています。

また「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、「組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営」を意味しています。

ダイバーシティ経営の推進

ダイバーシティ経営を推進するために、経済産業省は表彰制度や行動ガイドラインを策定しています。とりわけ2017年に策定された「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン(以下、ダイバーシティ2.0)」や、これに基づいた支援ツールなどは、各社で取り組みを進める上で有効です。

ダイバーシティ2.0が策定された背景には、「ダイバーシティ経営の必要性は企業に浸透してきたものの、形式的・表面的な対応も懸念されていたことから、持続的に経営上の成果を生み出せるダイバーシティへと、ステージアップが急務であった」ことがあります。

つまり、表面的な属性ごとに単に制度を整えるだけで、経営上の成果につながらないケースが見受けられたということです。

例えば、社員のワークライフバランス実現のため、出産や育児を支援する制度を設けていても、利用するのはほぼ女性ばかりで、実態が女性のための制度となっている、といったケースが挙げられます。これは、出産や育児を支援する社内制度が、経営上どのような狙いを持ったものなのかが、しっかりと社員に伝わっていないことが原因だと考えられます。

ダイバーシティ経営を成果に結びつけていくには、大きく4段階あります。

第1は、経営理念・方針・戦略の明確化です。第2が経営者、現場管理職の取り組みと人事管理制度の整備、第3が取り組みの振り返りと改善、第4が多様な人材が活躍できる組織風土です。そして、この4つ目が大きなカギとなります。

インクルージョン(包摂性)とは

ダイバーシティ経営診断シートの手引きより
中村奈津子氏講演資料より抜粋

本日の2つ目のテーマ「インクルージョン(包摂性)」です。これはダイバーシティが実現した環境の中で、各自が心理的安全性を感じながら、個々の力を発揮できる組織風土をつくり出している状態を意味します。

経済産業省の「改訂版ダイバーシティ経営診断シートの手引き」では、「職場メンバーの一員として認められることと、その人の持つ独自の価値が組織に認められていること」と定義されています。つまり、ダイバーシティとインクルージョンとは、別々に成立するものではなく、一体的に考えることが大切だと言えます。

組織風土をつくるためのポイント

ダイバーシティ&インクルージョン実現へ向けた組織風土をつくるためのポイントは、(1)ハラスメントのない職場づくり、(2)職場の心理的安全性を高める(効果的なチームづくり)、(3)組織の外部のステークホルダーとのコミュニケーション、連携・協働による課題解決の3つです。

中でも最も重要なのは、ハラスメントのない職場づくりです。職員の安全が守られる状態でハラスメントの相談ができる窓口の確保と、アンコンシャスバイアスは誰にでもあるという認識のもとで、多様な属性を持つ人たちの声を受け入れる姿勢がそれぞれの現場に求められます。

職場の心理的安全性

2つ目の職場の心理的安全性を高める効果的なチームづくりについては、グーグルの研究が次のような事実を明らかにしています。

それは、チームメンバーが自分の仕事について、意義があり、良い変化を生むものだと思っている状態につなげるためには、心理的安全性がもっとも重要な条件であるということです。

心理的安全性とは、チームメンバーが、リスクをとることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる状況を指します。アンコンシャスバイアスを減らすこと、リーダーの心理的柔軟性が高いと心理的安全性が醸成されることが分かっています。

リーダーの心理的柔軟性とは、職員たちの発言を歓迎したり、発言内容を評価する前に発言に対しての感謝を述べたり、相談されたら積極的に手を差し伸べたりする等、こうした行動がチームの心理的安全性につながります。

日本の現状

増え続ける共働き世帯
中村奈津子氏講演資料より抜粋

改めて日本の現状を見ていくと、1996年に専業主婦世帯と共働き世帯とが逆転して以降、その差は拡大し続けています。出産後に働き続ける女性も着実に増加しているということを意味しますが、他方で女性の非正規率は6割に上る等、一旦結婚や出産などで正規職を退職した後に、改めて働きたいと思っても、正規職に就くのが難しい現状があります。

また、ひとり親家庭はおよそ30年間で母子世帯は約1.5倍、父子世帯は約1.1倍と増加し、そうした家庭の貧困は深刻な社会課題です。そして、女性が出産・育児を通して働き続ける選択をする時に、パートナーである男性が主体的に育児に関わることは必須条件のはずですが、男性の育児休業取得率は非常に低水準で推移しています。

今後は後期高齢者の増加に伴い要介護者も増えていくことを踏まえると、介護や看護を理由に退職する人の増加が大きく懸念されています。

「人を生かす経営」への新たな視点

人を生かす経営への新たな視点として、ジェンダー平等、ダイバーシティ&インクルージョンは、社会背景や様々な変化の下で、将来を見据えた時に企業の成長・発展、そして持続可能な企業づくりにおいて、必要不可欠な要素ではないかと思います。

また、2017年に経団連は「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」の提言書を公表しました。経済界として初めてLGBT(性的マイノリティ)に焦点を当て、適切な理解・知識の共有と、その認識・受容に向けた取り組みを推進すべく提言が行われたことは、大きな進歩です。

ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現、そして人を生かす経営の実践において、今後考えていくべき大切な要素の1つであると思います。

【文責:事務局・服部】