活動報告

労務労働委員会&経営指針推進本部共催 全会員学習会(7月6日)

“試練”は学ぶためにある
「生きるとは?」「人間とは?」

社員と熱く深く人生を語り合えていますか

籔 修弥氏  (株)ミル総本社(京都同友会)

唯一人の人間としてどう生きるか

7月に労務労働委員会と経営指針推進本部の共催で『経営理念とは何か』を考える全会員学習会を開催しました。報告者の籔修弥氏からは、コロナ禍においても経営の基本スタンスは2つ、人を生かす経営、理念の浸透と共有化が育ち合いの原点、企業実践を通じ地域や次世代を創る、など多岐にわたるご報告をいただきました。

その中で、『経営姿勢』の前に『自己姿勢』を深く考えること。経営者の役割の前に、社員と同じただ1人の人間として共感される自身のあり方、生き方、“信頼に足る人間性を磨く”ことが出発点だと繰り返し強調されました。「人としての生きる道」を基礎として、人としての強烈な使命感から生まれた「経営理念」であってこそ、初めて社員から「人としての共感」を得ることが可能になると語られました。

経営者である前に、ただ1人の人間として“人生”や“人間”や“世の中”を社員と熱く深く語り合うこと、これが企業づくりと経営指針実践の根源になるという点に焦点を絞り、以下に内容を紹介いたします。

全社一丸で取り組む

コロナ禍でも「経営の基本スタンスは2つ」です。1つ目は、「経営の根幹(経営理念の確立が5割と個性が育つ環境づくりが3割)は何も変えない」こと。2つ目が、コロナ対策には「徹底して全社一丸で取り組む(2割)」ことです。

この2割の具体的な戦略や戦術も重要ですがハウツーであり、多くの事例を真似る。学ぶは真似るを自社に応用することで、失敗も覚悟で試行錯誤をたくさん重ねることです。

しかし、それを「徹底して全社一丸で取り組む」ことが、実は非常に難しい課題なのです。

これは1番目の、真に社員から共感を得る「経営理念」の確立と「個性が育つ環境づくり」の成熟度により、真似はできません。「自ら学び築かなければならない」ものなのです。

好不況時・基本スタンスは2つ

なぜ経営指針を実践できないか

経営指針や経営理念が立派に成文化されていても会社が伸び悩む、経営指針が実践できない、という課題が多くあります。

結論から申し上げると、それは経営者自身が、自分が見えていないのに、さも経営が見えている、人を見えているようにやっているからです。物事が全く見えていないのにわかった気になってやっているのが原因です。これは私自身が苦い経験を経て辿り着いた境地となります。

組合ができ「労使見解」を学ぶ

当社は1977年に設立し、社歴は43年になり、従業員70名、年商は25億2000万円、グループ会社には研究所もあります。私が1人で自宅の4畳半から会社を興しました。そして商工会議所の経営戦略勉強会などにも参加しながら10年で社員15名までになりました。しかし、その時に労働組合が結成され、一気に社員は4名、家族や友人だけの「パパママ商店」になってしまったのです。

この出来事がきっかけとなり、1987年に同友会へ入会しました。貸し倉庫の一角を事務所として借り、「来年には潰れる」と言われながらも、経営のバイブル『労使見解』を学び続け、以来なんとか黒字経営を続けられるようになりました。経営者が勉強する場は他にも多々ありますが、こんなに根本的に学ぶ会はありません。同友会は中小企業に不可欠の会だと思います。

社員のことが全く見えていない

組合ができたことは、社員を全く見ていなかったことの証左です。

朝会社に行くと、社員が前に立ちはだかり「組合をつくりました」「昇給・ボーナスは団体交渉でお願いします」と告げられました。当時はたかだか15名、全部見えているつもりで経営をしていました。しかし私は、何も見えておらず、わかっていなかったのです。

経営の基本スタンス2つを貫く!

同じ1人の人間として信頼される「経営理念」の確立を

入会直後から労使見解を学び、経営姿勢、経営理念の確立に取り組んだものの、会社は良くなりません。私の学び方がおかしいのではないかと思い悩みました。さまざまな学びや議論を重ねる中、「社員との共育的信頼関係がつくれていない」ことを指摘されました。

社員との信頼関係の出発点は「経営姿勢の確立」です。しかし、そこに「自分自身の生き方や人間としてのブレない価値観や判断基準」「自己姿勢」の魂が入っていませんでした。経営を上手くやっていくための「姿勢」や「経営理念」に留まっており、社員の真底の心情や人生、生活との切り結びができていなかったのです。

経営者はどうしても日々の諸事や難題に追われ「木を見て森を見ず」、末梢的な世事に思考が支配されてしまいがちです。本来の自分自身さえ見失っている場合がほとんどなのです。

後ほど話しますが、樹木でも土壌が大切です。土壌の資質を変えるがごとく、本来の広く高い視覚からの志に気づき、ブレない本質的な人生観や価値観を確立することが重要となります。根本的な正しい自己姿勢を確立した上で、その価値観で経営を見て、その経営姿勢が経営理念に乗り移って、初めて本物の「経営理念」が明文化できるのです。

経営者自身が表層的で物事が全く見えておらずブレブレな「経営理念」を作っても、それは単なる飾り物となります。それを聞いた社員は、「またか。関係ない」と思うのではないでしょうか。社員は食べて生活をするために、経営者が言うことに従っているに過ぎません。

自分がわかることで人をわかることができる

リーダーや経営者など、責任を背負う人には「根本哲学」が必要です。「修己治人」、これは「己を修めて、人を治める」。つまり、己を修めず自身を知らない人に人生はかけられない、と周りの人は思うのです。それまでの私は上から目線でした。政治家は批判もされますが、経営者の勘違いには誰も何も言ってくれません。気づかずに経営をし続けるのです。

まず自分を知り、自分がわかること。そして経営者自身が変わること。その上で、人を知り、初めて人がわかります。そしてようやく、世の中や物事の本質もわかるようになるのです。

自己姿勢と経営姿勢

本来の自分に気づくことで“主体者”に

自己変革には2通りあります。1つは、経営環境変化への対応として、従来の考え方・習慣を問い直し、判断力・実行能力を高め、経営者としてのリーダーシップを発揮するなど、企業変革支援プログラムに記載されている経営者としての姿勢、ハウツー的な変革です。

もう1つは自己を知り、自己姿勢を正すことです。環境や経験の積み重ねを経て、本来の自分が見えなくなってしまっていることが多くあります。本来の自分とは何かと気づくことができれば、使命とは何か、志は何かと、はっきりとわかった考え方・思考を持った人格者として、主体者になることができます。「私が変わる」というのは、自己を知り、自己姿勢を正していき、本来の自分に気づくことなのです。

経営姿勢の確立へ

根源・生命力が変わると経営指針の根幹が変わる

経営者が変われば、経営指針の根幹が変わります。根っこが丈夫になれば幹が育ち、枝葉が拡がり花が咲き、実がなって収穫できます。根っこの源にあるのが根源です。根源とは土壌です。本日は、自分の根源、土壌について、じっくりと考え始めるきっかけにしていただければと思います。

私は、自分の目がずっと外側ばかり向いており、自分の内側を見る眼鏡が瓦礫の山で傷ついて荒れて、固定観念で曇っていました。生きてきた経緯で無意識のうちに外からの影響を受け、コンクリートや無機質でカチコチな土壌の価値観や人生観に固まり、そのまま行動に出てしまっていたのです。

全部外から入って積み上がった価値観です。それをもう一度、自分の人生を学習し直してみる。固定観念によって曇った眼鏡で見るから、外側が歪んで、事実と社員が見えていませんでした。人を生かす経営も外側を見る眼鏡で、社員を見る目も外を向いています。インターネットで調べた情報も外向きです。

知識や情報は山ほどあります。しかし単なる物知りは、真底で役に立ちません。本質的に生かすには、根源である自分のあり方を探すことが重要です。仲間の客観的な支援も得ながら、もう一度、自分自身を学び直していくと、数多くの不純物が見えてきました。その不純物により歪んだ価値観や行動が生じていたことに気づいたのです。

主催司会者の長谷川氏(左上)と報告者の藪氏(その隣)、参加者188人でセッション、質疑応答

物に本末あり、事に終始あり(大円鏡智)

物事、すなわち物と事。物には根本的なことと末梢的なことがあります。事には始まりと終わりがあります。物事の本末、終始をしっかりと考えることで、何が大事か、本質的なことや根源がわかるようになります。仕事や日常のほとんどは目に見える末梢部分で、実は見えていない潜在意識の方が大きく、本質的で根源なのです。

「何のために生まれたのか? 自分の行き先はどこなのか? これまでどう生きてきたのか? 幸せとは何か? 等々」。同じ現象でも、幸せと感じる人もあれば不幸せと感じる人もいます。その人の価値観で変わるのです。

一般には、「顧客満足」が大事と思っている人は、そのことに一生懸命です。たとえば「人々の健康と幸せ創造応援企業」などの志が真に高まれば、熱意が使命に宿り、その価値観は言葉になり、その言葉は行動になり、その習慣が性格にもなるのです。持って生まれた性格から、学び得た価値観による行動で習慣が変われば、性格と運命も変わるのです。

同友会では、表層やハウツーでなく全体を見た本質、「大円鏡智」を問い学びたいものです。

何のために生まれてきたのか?

試練は人生の好機(竹の節目)

「災難・貧苦・病気・仕事不振・絶縁」という私の試練がありました。今考えると、すべてプラスです。1歳で父が他界、2歳に空襲で家が燃えすべてを失い貧苦を味わい、これ以上の災難はないと思いました。しかし、その縁で京都の大学まで行くことができました。

人生、何が起こるかわかりません。災難が無ければ京都へ行くこともありませんでした。病気をして初めて健康の大切さに気づき、この仕事を始めることになりました。災難や貧苦にもすべてに意味があるのです。試練や苦難はその人にとって必要なことなのです。

「経営理念検討シート」は生い立ちから転機などの自分史、そして価値観、人生観などを洗い出す内容です。

すべての事象の意味を考えながら自分自身を学び直し、不純物を客観化し、固定観念の山を切り崩し、本来の素直な心根や物事の両面を正しく生かす側から見直し変える、全部を良くする価値観で学習し直してみてください。すると、本質的な部分から物の見方が変わり、価値観や人生観、判断基準が変わって、自分の腹に落ちたもの、揺るぎない本来の新たな自分に生まれ変わって、「自己姿勢」に結びついていくのです。

奇跡的な生命の尊さ

生老病死、人生は本質的にみな同じです。では、なぜ生まれてきたのか、なぜ生きているのか、自分の行き先はどこなのか、これが重要で根源です。『人間尊重の経営』(赤石義博著)に「1つの命が生まれる確率は50兆分の1」とあります。「命が宿る」、選ばれた一個人の誕生は奇跡です。生まれた以上、すべての一人ひとりに役割と使命があるのです。

「此れ生ずれば彼生ず、此れ滅すれば彼滅す」は、「持ちつ持たれつ」「あてにしあてにされる」にも通ずる原理です。

人は生きることの素晴らしさを知った時、すべての生命の尊さを知ります。その一念の変革が、喜びの生き方へと人生を輝かせ、その時に熱意が生まれ、その熱意が使命に宿り、すべてを変えていきます。

自己姿勢(思い)がすべてをつくる

宿命、運命、使命、そして胆識を

宿命は決まっており、変えられません。しかし、価値観・人生観において肯定的に価値観を高めていくことで、先の使命に気づき、熱意を持った志が生まれると、思考や行動が変わり、運命や人生も変わっていきます。かけがえのない一生を中途半端にしてはいけません。使命を考え、思考を高め、志を高めれば、実現できる結果や人生も大きく変わるのです。

そして雑多な知識・見識の段階から、腹に落ちた判断姿勢を持った胆識ある人物として、信頼を築いていきましょう。

絶対評価による信頼関係と共育的発展(人を見る目を問う)

「評価制度」は最近の企業経営で関心の高いテーマになっています。しかし、何のために評価制度を導入したいのかは、本質的に熟考すべき問題です。

人を見る目は2つ、「相対評価」と「絶対評価」です。

根っこに絶対評価がなければ、信頼関係は築けず共育的発展は望めません。一人ひとりの存在と価値を認め、たとえ仕事ができなくても何らかの可能性「伸縮自在の袋」を信じ、縁があって自社に来た以上は何とか幸せにしていこうという本質的価値観に立ちます。3カ月や1年でどう変わったか、成長していく姿を評価し認めると、絶対的信頼に安心し、伸び伸びと成長していきます。

相対評価は、非常にマイナスな価値観です。あなたはダメ、あなたはいいよと、こういう人が会社内にいませんか? 人を比べる尺度は何ですか? それは自己中心的な私利私欲で、自分の利益を優先する価値観によるものなのです。

他生自生、利他、他の人を生かし幸せにして自分も生き切り幸せになる。この価値観に立てば、瑣末で末梢的なものには振り回されなくなるでしょう。

社会教育者としての貴重な役割

中小企業経営者は、ある意味で社会教育者であるべきです。まず、経営者自身が積極的な人生観・価値観に変わって、そして社員も大きく人として成長し、社会で幸せになっていく、家庭をつくり暮らしを守っていく。雇用の7割を担う中小企業の社員が良い人生を生きられれば、日本全体はもっと良くなるはずです。

「世の変化を超える業態変化」や「中小企業の構造問題(下請構造や取引関係等)」にも、経営ビジョンを打ち立て社員と共に乗り越えていくことに挑戦すべきでしょう。

人生で志すとはそういうことではないでしょうか?

志は難しいですが、流れに従い志を高める「従流志不変」「一渓ノ流水大海を目指す」。1滴の水が山木から落ち川を流れ大海へ行き、蒸発して雲になり雨が山に降るように、「思い、志の循環」が大切です。まず、経営者自身が変わって、志を持って、その思いや志を循環させ「経営理念」に明文化し、社員やお客さんや地域の人々も含めて循環することにより具現化されていきます。

そうした循環を繰り返すことにより、思いや志や経営理念がさらに深まりより高い次元へ上がり、多くの人々や地域社会をも巻き込んで、より良い社会にしていきたいと思います。

【文責:事務局・加藤】

籔 修弥氏 (株)ミル総本社 相談役

【会社概要】

設立:1977年
資本金:3000万円
事業内容:乳酸菌飲料・特定保健用食品・基礎化粧品製造販売

本社 京都市伏見区
URL https://mill.co.jp/about/

【同友会歴】

1987年京都同友会入会、2000年度より代表理事、04年度常任相談役を経て、2010年度から相談役を務める