活動報告

人を生かす経営推進部門 第4回「労使見解」を深める学習会(12月1日)概要

持続可能な企業と地域のために
~採用活動を通して企業変革

パネリスト

大野 正博氏 (有)中部製作所
五十嵐 寛氏 (有)イガラシ金型製作所

コーディネーター

鶴田 修一氏 (株)鶴田工業所

人を生かす経営推進部門は、昨年12月1日に第4回「労使見解」を深める学習会を開催し、49名が参加しました。

これから人口減少が進み、ますます地域づくりが重要になる中、若者が暮らし、育つことができる地域をつくるのは中小企業にしかできないことです。新しい仕事をつくり雇用を創出することが、地域経済の発展にもつながります。

今回は、共同求人への参加をきっかけに社内整備をし、地域との関わりを意識しながら採用活動を続けている大野正博氏と五十嵐寛氏を報告者に迎え、鶴田修一氏の進行でパネル討論を行いました。採用することがゴールではなく、たとえ採用につながらなかったとしても、採用をするために社員とどう向き合っているのか、社内一丸体制を築くためにどうしていくのかを報告いただきました。その概要を紹介します。

1.共同求人を始めた動機と、続けている理由

大野 正博氏

経営指針を生きたものに

【大野】
自社は、ねじの販売や産業機械部品の製造・販売をしています。

同友会に入会し、まず経営者の仕事として、(1)お金を集めてくること、(2)人を集めてくること、この2つは経営者しかできない、と教えてもらいました。

そして、「人を入れても会社は簡単には変わらないが、新卒が半数を占めれば社風が変わる」と先輩会員に聞き、リーマンショック後から新卒採用に着手しました。

共同求人活動は、同友会の最大の実践の場であり、学びの結果があらわれる場と捉えています。毎年学生も変わっていく中で、「選ばれるために何をどうすればいいのか」考え続けられる場です。

経営指針を作成するだけでなく、それを生きたものにするために実践が大切だとも考えています。

五十嵐 寛氏

危機感から採用へ

【五十嵐】
自社は、プレス金型の設計および製作をしています。

同友会へ入会し、まずは労務労働委員会に参加、そして指針で実践の大切さを学び、共同求人委員会、共育委員会に参加しています。

父親の代からいる社員が大多数のため、社員の高齢化は目に見えていました。企業存続の危機感から中途採用を始めましたが、目先の人手を求めていては会社の未来がないと考え、新卒採用の共同求人に参加したのです。

中途採用から切り替えた大きな理由として、給料のバラつき、社内年齢の偏りが生まれてしまうこと、組織化をした時に不具合が起きることなど、問題点に気付きました。また、採用しただけでは社員は育たず段階に合わせた教育が必要で、社員のやりがい、働きがいにつなげていく学びを、経営者自身もしていかなければならないと感じています。

2.なぜ新卒採用ができているのか

魅力ある会社であるかの外部評価の場

【大野】
採用は企業側が選ぶものだと思っていましたが、求人活動に参加するうちに、まずは学生に選ばれなければ会社も見てもらえない、その先の選考にも面談にも進めないことが分かりました。合同企業説明会は毎年、自社が学生に選ばれているか、魅力ある会社になっているかの外部評価の場だと考えています。

職場の働き方を改善することはもちろん、今いる社員が豊かな人間性に裏打ちされた知識と感性の持ち主で、健康的であるかどうかが試されていると感じています。

新卒採用ができているのは、学生から見ても経営者の言っていることと現場が一致しているからだと思います。同じ経営者からも、社員からも、もちろん学生からも魅力ある経営者になること、これを常に意識しています。

会社の将来が描けなければ、社員も描けない

【五十嵐】
会社の将来が示せず、採用しても社員が辞めていく時期がありました。

なぜ辞めていくのかを深く追求していくと、自分の思い(理念)と将来ビジョンが定まっていないからだと気付きました。経営指針書を作成する上でも、「自分自身が会社の将来を描けなければ、社員も描けない」との気付きを得て、まずは会社をどうしたいのか、社員にどうなってほしいのかを考えることから始めました。そして、人を採用するために仕事をつくるという発想に変え、間に合わせの採用を止めました。

会社の規模に限らず、やりたいことが明確でチャレンジ精神旺盛な若者が入社するようになり、女性で技術者として働きたいという人も入社しました。今はできていない部分もありますが、将来を示すことで社員がより働きやすい職場に少しずつ変えていける環境ができました。

3.「良い会社」を目指す中で、地域になくてはならない企業とは

「中部製作所」に行けばなんとかなる

【大野】
私は、地域になくてはならない企業を目指しています。自社は住宅地にあるため、日中には働き手の若者の姿を見かけることはほとんどありません。そこで、地域で何か困りごとがあった時には真っ先に「中部製作所」に行けばなんとかなる、と頼りにしてもらえる存在でありたいと思っています。

ある日、会社見学の学生たちを連れて会社までの道のりを歩いていると、近所の家のお爺さんが倒れている姿を学生の1人が発見しました。すぐに救急車を呼んで対応しましたが、残念ながら数日後に亡くなってしまいました。葬儀の場で、地域の皆さんから「中部製作所さん」が気付いて助けてくれたみたいだと、噂になっていたようです。

救急車を呼ぶという当然のことをしたまでですが、振り返ってみれば、そこに会社がなければ、地域に根差していなければ、存在を認識されていなければ、頼られることもないと気付きました。良い会社とは、周りから認められ、そこに会社があってよかったと地域の人たちに思ってもらえる会社だと思います。

中小企業と地域は切っても切れない関係

【五十嵐】
会社は創業以来50年間、同じ場所にあります。そこで父親の代から採用し、納税し、地域の一員として存在してきました。地域コミュニティに参加して気付いたことは、中小企業と地域は切っても切れない関係だということです。

地域のお祭りや見回り、清掃活動、これらすべてが地域の治安維持や孤立させない取り組みとして、地元の経営者が旗振りをしながらやってきたことです。ただ高齢化が進み、世代交代が急務であることが分かりました。このままでは地域の古き良き文化自体が失われてしまうという危機感も持っています。

自社でいうと、社員が消防団に所属しており、これも地域で社員が活躍している証です。会社としてできることは微力ですが、共済金の協力を頼まれたら喜んで受けています。

最近は、遠くから通う社員が過半数となりました。移動時間も社員の自由時間と捉えていましたが、心身的な負担にもなり得るため、いずれは会社の近くに住んでほしいと考えています。これも地域で経済を回す、そこに結びついていくと考えています。

4.新卒の採用活動を経験したからこそ、会員に伝えられることは

中小企業は将来を示して採用

【大野】
福利厚生や給料、休日などの条件を大手と比較しても意味がなく、中小企業は将来を示して採用していく必要があります。学生にとっては、会社が変わっていく過程に関わることができ、自分の力や意見で現状を変えていける魅力があります。

「選ばれる企業を目指す」ことの本質は、今の学生のニーズに合わせて会社や経営者の考え方を、いかに変えていけるかどうかだと私は考えています。

同友会は、業種の違いや年齢、規模も関係なく対等の立場で、ボスもいません。1人の経営者として同じ立場で意見やアドバイスを伝え合い、お互いに良い経営者になるようにアクションを起こしています。

他の経営者から存在感、発信力、信頼を勝ち取るために何をすべきかが見えてきます。実践の場で人間性を磨き、尊敬できる人をまねることが近道だと感じています。まずは経営指針を作成し、ビジョンを描いたら、採用という実践をしてみませんか。

同友会はどこからでも誰からでも学べる

【五十嵐】
私は、「笑ってごまかす」ことが減りました。経営者として堂々とすること、採用できたおかげで、自分が磨かれたと思います。

次には共育の課題が出てきて、会社としてステップアップできるチャンスを得ました。共育というと古参社員は「今さら学ぶことはない」と嫌がりますが、新卒社員は学ぶことに前向きです。

同友会では様々な委員会に参加してきました。そして、最終的に障害者自立応援委員会に向き合うことができたら、本当の意味で人間性が極められると感じています。

同友会はどこからでも誰からでも学ぶことができ、課題に感じることがあればすぐにその学びの場に飛び込むことができます。そんな縦断的な学び方ができればいいと感じています。

採用をしてみて、自社の課題を見つけ、それに向き合う。その繰り返しで会社を強くしていきましょう。

【まとめ】失敗しても諦めない

鶴田 修一氏

【鶴田】
人間尊重経営が、同友会の基礎だと思います。

理念・計画・方針を立てるだけではなく、実践の場として求人を位置づけてほしいです。私はこれまで同友会での求人に2回挫折しながらも、失敗も含めてやり続けることが必要だと実感しています。

同友会の共同求人の特長は、参加企業は仲間同士だということです。自社で採用できる人数は限られています。自社とご縁がなくても、関わった学生が信頼できる仲間の会社に入ってくれれば嬉しいと、考え方が変わりました。数は力だと言われていますが、私は「信頼」だと思っています。

持続可能な地域にするために1社1社が雇用をし続けることが大切だと気付けるように、同友会の共同求人に参加し、共に経営者自身を変革していきましょう。

【文責:事務局 下脇】