ここから物語が始まる~雇用実践報告
「使いものにならない!」それは、あなたのことですか?
初めて障害者雇用を経験して
鈴木 学氏 スズキ&アソシエイツ(株)
関わりの始まり
鈴木学氏が障害者の存在を意識し始めたのは約10年前。三河支部が開催した障害者をテーマとした会合で、関わることの大切さが心に残りました。
その後、障害者自立応援委員会主催の「バリアフリー交流会in西三河」に参加。距離が縮まり、「雇用で社内の雰囲気が変わる」と聞き、いつかは雇用をという気持ちが芽生えました。2020年、社員が安心して快適に働ける環境を整えようと新社屋を建てたのを機に障害者雇用に取り組みます。
すぐにでもとはやる鈴木氏に、委員会メンバーは実習を勧め、3名の実習生を受け入れました。1週間の実習を終え、再度実習にチャレンジしたいと手を挙げたK君は、会話で返事が返ってくるまでに10秒ほどかかるなど、コミュニケーションに困難を抱えていました。
波風が立った時こそ
2回目の実習が始まり、鈴木氏はK君を気にかける日々が続きます。社員から「時間はかかるが頑張ってますよ」と聞き安心していると、上長から「現場から、使いものにならない。手間が増えて困る、と不満が出ています」との報告。思わず「使いものにならないのは君たちだろう」と喉元まで出かかりました。
冷静になると、現場の負担に真剣に向き合ってきたのかと反省し、朝礼で障害者雇用の目的を改めて社員に伝えました。
昨年4月、K君は入社。入社式で、家族がK君へ向けて書いた手紙を先輩社員が読みあげると、学校では見せたことがない笑顔になったそうです。最近では、さりげなくK君を支える同僚の姿も見られるようになりました。
人を雇用すれば波風が立つでしょう。しかしその時が、「人を生かす」意味を経営者が自ら問い直す時です。
障害者雇用で生まれる価値は、「社内に生まれる思いやり」とも言われますが、一番の価値は、経営者自身が「人を生かす」意味を真剣に考え、会社を変えていくことにあります。その実践を物語る報告でした。
鈴木学氏が朝礼で社員に伝えた「障害者雇用の目的」
人間それぞれ持っている能力の違いがあります。その能力にもいろいろな分野があります。
早く動くことができる人、早く計算できる人、重たいものを持てる人、英語がうまく話せる人、声の大きい人、スポーツが得意な人、それらがうまくできない人。健常者でも違いがあります。私たちは、決してすべての分野で人より優れているわけではありません。
得意なこと、得意でないこと、人より遅いこと……、いっぱいあります。その違いを責めることは、自分自身の否定につながることだと思います。一人ひとりの違いを認め、働くことが大切ではないでしょうか。
多様性を認める。普段、健常者同士で違いを差別として扱っていないでしょうか。
「あいつはできない奴だ」。そっくりそのまま、あなたより能力のある人に言われたらどう感じるでしょうか。障害者も1人の人間であり、能力は様々なのです。
自分よりできない人を責める風土や社会ではなく、健常者と同じようにできないかもしれないが、できるような工夫をする。それがお互いの違いを認めることにつながると思います。
違いを、人間の多様性を認めることで、自分を認めてもらう風土や社会ができあがっていくのではないでしょうか。
障害者雇用の目的は、そのような風土をつくることにあります。