活動報告

人を生かす経営推進部門&障害者自立応援委員会(第2回オープン委員会)7月5日

〈障害者自立応援委員会「人間性を語る夕べ(5)」〉

同友会で学んだ人間尊重
~経営理念の「人間性」に辿り着くまで

津田 康行氏  (株)オムニツダ

津田康行氏

人を生かす経営推進部門では、人に関する委員会(※)の課題を会員企業が経営指針に位置づけ、各社で実践することを目標に、学習会を開催しています。

7月は障害者自立応援委員会の「人間性を語る夕べ」に67名が参加。報告者の人生観や同友会で学んだ人間性を基に、参加者一人ひとりが自らの「人間性」を掘り下げました。

(※労務労働、共同求人、共育、障害者自立応援、協働共生)

父の起業の想い

私は3人兄弟の末っ子としてかわいがられ、何不自由なく素直に育ちました。

小学校6年生の頃、伯父が経営する会社の常務を務めていた父が、考え方の違いから退職し、起業しました。緊急家族会議が開かれ、「自分で新しい会社を興す。失敗したら家を売り、タクシー運転手でも何でもやる。なんとしても家族の生活は守る」と真剣な面持ちで話す父の姿に、「そこまでやるのか」と思ったことを覚えています。

幸いなことに父の会社は順調に伸びていきました。私は大学卒業後アメリカに留学させてもらい、現地の製材所で少し経験を積んだ後、日本に戻って父の会社に入りました。

経営理念は「オムニバス」より

社名「オムニツダ」の由来は「オムニバス(乗り合いバス)」です。社員の個性や得意なことを持ち寄って「オムニバス(会社)」を走らせていこうという意味で、私もすごく気に入っています。

経営理念は、「私たちはオムニバスに乗って幸せな未来を創ります」「私たちは木材、建材を通して人の生活環境を豊かにします」「私たちは知恵と度胸で関わる全ての人のベストパートナーを目指します」です。この経営理念に至るまでが大変でした。

同友会では、経営理念の3つの要素のうち、「人間性」について「社員を利益追求の手段としてみるのではなく、最も信頼し合える頼もしいパートナーとなり得る、という考え方を基本としています。全社員が誇りを持てる企業づくり、人間の血のかよった温かみのある企業づくり、夢を持ち、安心して働くことができる企業づくり、豊かな人間形成の場としての職場づくりなどがその内容となります」と言っています。

私は、社員を大切にするのは当たり前のことだと思っていたので、入会して「人間尊重」と聞いても、今さらという印象でした。しかし、改めて同友会の考える「人間性」を読み解くと、思っていた以上に奥が深く勉強になりました。

暗黒時代の経験

入社してから社長就任後しばらくするまで、人に関する苦労は続きました。私は誠実に対応しているつもりなのに、なぜか社員は辞めていくのです。

入社して2年目のこと、社員が72名から57名に一気に減りました。先代が、私を後継者にすると公言した時のことです。私はアメリカ留学から戻ったばかりで、社会人経験もありません。創業当時から先代を支え、苦労して会社を盛り上げてきた幹部たちはやる気をなくし、会社を去っていったのです。

これほど多くの社員が一気に辞めることがあるのかと、大きなショックを受けました。また、営業部門の社員がごっそり抜けたため売上げは減少、会社が維持できるかどうか不安に襲われました。

専務時代は、先輩社員から「専務が方針を決めてくれないと困る」と迫られ、張り切って方針を出すと、「わかってない。的が外れている」と文句を言われました。何も言わずに任せると、今度は「何を考えているかわからない」と文句を言われる、そんな状態でした。

当社は部門ごとに採算をとる仕組みのため、成績の良い部門もあれば悪い部門も出ます。すると、良い部門から「うちが稼いだ利益が吸い取られる。成績の悪い部門を閉めてくれ」と不満が出ます。しかも、ナンバー3の社員が言ってくるのです。オムニツダが大切にする「お互い様」の精神と幹部の考え方がバラバラで、どうしたらよいかわかりませんでした。

2009年、私が社長になるとナンバー3の社員が退職し、またもや営業部門ごと抜けてしまいました。辞めていく明確な理由がわからず、裏切り行為だと腹立たしく思いました。

転機は思わぬ問いかけから

2007年に同友会に入会し、4年目に経営指針セミナーの道場編で学びました。そこでは「なんのために経営しているか」「社員はどんな存在か」「幸せとはなにか」を、とことん考えます。

当時の私は、自分や家族、会社を存続させるために経営していました。社員のことはパートナーと言っていましたが、今思えば軽く考えていました。そして、自分の幸せは、会社がうまく回っていくことでした。

道場編では、これでもかというほど会社や私自身のことを根掘り葉掘り聞かれ、社員が辞めていく不安を話すと、「津田さんは、社員のことが嫌いだよね」と言われました。

同友会で勉強して4年、曲がりなりにも社員を大切にと努力してきた私には、意表を突かれる問いかけでした。しかし、心の底には「社員が辞めるたびに苦労するのは俺ばかり」と不満があり、「社員が嫌い」という本音に気づかされました。しかし一方で、人間として社員を大切にしたいという気持ちも本当でした。だったら、「社員を好きになればよい」、そう思えたことが大きな転機となりました。

命を尊ばれるのは社員も同じ

私の人生で一番嬉しかったのは、子どもが生まれたことです。それほど子ども好きでもなかったのに、自分でも驚くほどの喜びでした。子どもが生まれる喜び、幸せ、愛おしく、かけがえのない命。そんな思いを話すと、「社員も同じだよね」と言われました。

社員一人ひとりが、生まれた命を喜ばれ尊ばれ、大切に育てられ、今この会社にいる。わが子と同じように社員も大切な人生を生きている。そのことに気づき、ようやく社員にどう向き合えばよいかが見えてきました。

以前は、会社の存続のための経営でした。お客様からも評価されている会社をなんとか存続させたい、させなければ、という思いでした。しかしそれでは、社員は会社存続のための存在であり、会社が存続すれば幸せになる、すべてが会社ありきということになります。そうではなく、自分の幸せをしっかりと考え中心に据える、そうした経営が必要なのだと気づきました。

毎年成長を実感できる「年輪成長企業」をめざして

「年輪成長企業」への私の覚悟

経営理念は、経営者の覚悟です。私の場合、特に「人間性」の部分、社員に対する考え方が決定的に抜けていました。今は、社員の人生を大切にしたい、これが私の「経営者の覚悟」であり、すべての価値基準です。これを経営理念の1つ目「私たちはオムニバスに乗って幸せな未来を創ります」に位置づけました。社員も自分も、優れた部分とそうではない部分を持ち合わせています。その凹凸を組み合わせて協力していこうという意味です。

私の幸せは、大好きな仕事を通して、家族と社員を幸せにすることです。自分がどうしたいかが明確になり、安心することができました。そして、この考え方が、関わる人たちの理解と納得を得られる自信がつき、発言がぶれなくなりました。自ずと社員との信頼関係もでき、ナンバー2との協力関係が強くなり、会社が安定してきたことを実感しています。社員の幸せにとってプラスになることなら、厳しく接することもできるようになりました。

入会当時、中村地区の大先輩から「経営者は社員に生き様を見せる」と言われ、意味が分からず、社員への押し付けではないかと思いました。それは、会社と自分の人生の間に一線を引いていたからです。その後、私が生き方を貫くことで社員も感じ取ってくれるとわかり、大先輩の言葉の意味が理解できました。

材木屋である自社の10年ビジョンは、「毎年成長している『年輪成長企業』となる」と掲げています。自分も社員も成長を実感できるような会社にし、年輪を1年ごとに重ねていきます。

【文責:事務局 岩附】

(株)オムニツダ 会社概要

設立:1985年
社員数:42名
売上高:27億円
事業内容:木材の輸入販売と自社工場にて木材製品の加工販売
拠点:名古屋本社、関東営業所、三重工場

◆本日のまとめ◆

杉浦 昭男氏  真和建装(株)

津田さんの報告からは、経営者が社員と関わる中で問題が起こり、経営者の資質が磨かれ、軸が固まり、「人間性」が磨かれていくという確認ができました。

グループ討論では、津田さんが社員から「社長、人間的に成長されましたね」と言われたと聞き、嬉しくなりました。同友会で学び、社員との信頼関係を強くしていく、同じ会員としてこれほど励まされることはありません。

大先輩から言われた「経営者は自分の生き様を背中で見せる」、正にその通りです。一方で、社員は経営者の人間性や人生観をしっかりとチェックしていることを忘れてはいけません。ましてや、障害のある人たちは、天から与えられたするどい感受性を持っているのです。だから一緒に働く中で「見えない生産性(組織力)」が生まれ、やがて会社を変えるほどの力になっていきます。

同友会の会員は、「労使見解」を学ぶことが当たり前です。ならば、障害者と一緒に働くことも当たり前なのです。すぐに雇用することはむずかしくても、「関わる」ことなら始められます。それが障害者自立応援委員会の掲げる「1社1人関わる運動」です。

社員と関わること、障害者と関わることが、経営者の大きな経験となります。人間尊重経営を目指す同友会の会員として、「人間性」を深く学んでいきましょう。