ここから物語が始まる
~障害者雇用実践報告(後編)
吉田 幸隆氏 エバー(株)
前号では、特別支援学校生徒の実習を受け入れ社風の変化を実感した吉田幸隆氏の体験報告と、その後に生じた障害者雇用への3つの疑問を掲載しました。今号では、その疑問に対する参加者からのコメントを紹介します。障害者に限らず、採用全般に共通する示唆に富んだ内容です。
【1】会社の理念・方針等を理解することが難しい求職者の採用をどう考えるか
◎当社では、採用時に「会社の理念や方針を理解できない人」と決めつけることはしません。理念や方針を理解するとは、文書や言葉で表すことではなく、社風に馴染むことだと考えます。互いに尊重し合う社風であれば、それが当たり前になっていく。そうなれば、言葉で語らなくても全く問題はありません。
◎人は誰しもが、自らの足りない部分を補う潜在能力を持っています。目の見えない人は耳が優れ、耳が聞こえない人は目で音を読み、風を読みます。知的障害のある人は、感性という心と五感を駆使して判断する能力を持っています。特に、社長が何を考えているかは、誰より的確に捉えているかもしれません。
【2】障害者雇用を通して社内の変化を期待することは正しいのか
◎社内に変化を起こすのは、社長の姿勢です。社長が変われば社内が変わるのであり、障害者雇用に社内の変化を期待するのは、ピントがずれているといえます。障害者雇用の一番の学びは、経営者自身が「人を生かす」意味を真剣に考えることにあります。そして、何とかこの社員を一人前にしたいと挑戦し、失敗し、経営者自身も社員と同じように成長していくことが最も重要なことだと思います。
【3】周りの社員がさじを投げた時、社長は何をすればよいのか
◎だからこそ、同友会があるのです。同友会で学び、時間をかけて社長としての人生観を育めば、自ずと社員に寄り添えます。100人もの社員がいれば、時に、社長の意思に反し裏腹な行動に出ることもあるかもしれません。肝心なことは、社員がさじを投げた理由をしっかりと捉えること、社員の動向を常に掴んでおくことです。そして、社長についていきたいという部下や幹部と強い信頼関係を築くことです。
◎その仕事ができなければ、できる仕事を探せばよいと思います。人間尊重経営とは、吉田さんも報告されたように「社員が能力を開花し発揮できる経営」です。うまくいかないとすれば、その社員が持って生まれた能力をまだ開花させていないわけです。私は障害者自立応援委員会で学び納得しました。それは、社員として受け入れた以上、その人ができることは何かを考え続けることが大事なのだということです。