活動報告

第22回障全交(愛知)第2回実行委員会(7月22日)

1社1人関わる・愛知モデル
~愛知はなぜ障害者雇用にこだわるのか

杉浦 昭男氏
真和建装(株)・相談役会長/第22回障全交副実行委員長

報告者の杉浦昭男氏(左)と、障害者との関わりを語る木村工場長

2023年度秋に愛知で開催される第22回障害者問題全国交流会(略称・障全交)の第2回実行委員会が開催されました。

「1社1人関わる・愛知モデル」推進委員長で第22回障全交副実行委員長を務める真和建装の杉浦昭男氏より、「1社1人関わる・愛知モデル~愛知はなぜ障害者雇用にこだわるのか」をテーマに報告いただきました。

原点を探る旅

2015年度、私が障害者問題(現障害者自立応援)委員長を受けた時、リスクを嫌う経営者団体の中に、障害を持つ人たちを雇用しようという団体がなぜあるのかを先輩経営者に学ぼうと、思いきって中同協顧問の田山謙堂氏、国吉昌晴氏、中同協副会長の宮﨑由至氏、障害者運動の開拓者と言われる先人たちの1人、愛知同友会の浅海正義氏に会う旅に出ました。この4人との出会いは、たいへん衝撃的でした。

まず、皆さんが口々に言われたのは、「自主・民主・連帯の精神を誇りとし、人間尊重の基盤の上に同友会は成り立っており、50数年を生き抜いてきた」ということでした。その中で一番印象深く私の旅の成果となったものは、田山氏の「自主・民主・連帯という高い志と誇りを持って自立型企業を目指し、今日まで来た」というお話でした。その誇りの源泉は、「どの経済団体よりも同友会の考え方が一番正しい」という確信にありました。

未熟な私にとって、人間の誇りを力強く感じることができました。そして、社員はもとより、すべての人を対等と認める心の広さ、支え合い幸せになるという会員経営者の「人を生かす」強い意志が感じられました。

もう1つ印象深かったのは、愛知同友会創立当初からの障害者との関わりです。浅海氏たちが障害者を雇用しようと現状を見学するも断念せざるを得ず、しかし、「人間尊重」と言う私たちが、この子たちを放っておいてよいのか、見過ごしてよいのか、どうしたら応援できるのか、そこから関わりが始まりました。当初は雇用という成果には及ばなかったものの、応援すべきだという思いが年を重ねるごとに深まり、雇用も含め参画しようという人たちが徐々に増え、今日まで続いてきたことは確かです。

浅海氏のお話をお聞きし、この先輩たちの血が障害者自立応援委員会に脈々と流れていたことを知り、これからやるべきことが明確になってきました。

委員長になった当時、私は「この委員会は砂漠のようだ。水を撒いても撒いても溜まらない」と嘆きました。その後、数カ月が経つうちに、愛知同友会の先輩たちがいかに苦難を乗り越えたかを知っていったのです。

「1社1人関わる」誕生の秘話

2010年、前委員長の岩田竹生氏(丸二商店)と、あいち経営フォーラムの打ち合わせで、分科会報告者である熊本同友会の吉田周生氏(ヨシダ精工)を訪れました。すると、岩田委員長が私の隣で電話をしながら怒り出したのです。

それは、熊本城の天守閣すら揺れるほどの声でした。――「だから、雇用してくれとは言ってない。障害を持つ人たちと関わってくれと言っている。いつ俺が雇用してくれと言った」――愛知の障害者問題のスローガン「1社1人関わる」誕生のきっかけは、この岩田委員長の怒りです。これを聞いた私は、パッと閃きました。「雇用は無理でも関わることならできる。関われば必ず心が揺さぶられる。会員一人ひとりに障害者と関わってもらおう」。

当時、三河支部長だった私は、早速、三河支部の障害者問題委員会を「1社1人関わる会」と命名し、取り組みました。しばらくして、岩田前委員長から「1社1人関わる」を愛知同友会の障害者問題委員会のスローガンにしたいと相談があり、2012年度から愛知全体のスローガンとして掲げることになりました。

「1社1人関わる」雇用の意義

中小企業にとって障害者雇用に立ちはだかる幾つかの壁を、私たちも理解できます。障害を持った人たちが生産性の足を引っ張ることも事実かもしれません。しかし、障害者雇用は本当にリスクばかりなのでしょうか。

先日、自社の木村壮志工場長が「会長がいつも話しておられる『見えない生産性』を実感しました」と言うので、文章にしてもらいました。

そこには、自社で働く知的障害の悟君と自閉症の藤原君との関わりが書かれていました。生産管理を担う木村工場長は最初、少数精鋭の工場にいる2人を大丈夫かと心配し、彼らに対し荒いことばを使うこともしばしばありました。しかし、そのような時、私は一切注意をしませんでした。関わる中で、必ずわかってくると信じていたからです。

やがて木村工場長は、2人の懸命な姿勢に自分も真剣に向き合うようになり、思いやる気持ちが芽生え、達成感や喜びを共有し、皆が気持ちよく仕事をする中で、生産性が上がっていくことに気づきました。そして、「まさしくこれが『見えない生産性』だと思った」と報告してくれました。

私は仕事を通して障害者と関わることで木村工場長自身が視野を広げ、何気ない出来事に感動したり、豊かさや幸せを感受したりする器を大きくし、人生の可能性を広げていることを確信しました。

荒廃した土地-そこに希望の種をまく。やがて双葉が芽をふく。

生存性と人間性の追求

戦後の混乱期は、「我先に」の想いが荒廃した土地をさらに荒廃させ、一刻も早く利益の上がる会社をつくりたいとの想いが、人の尊厳までも無視した時代でした。私たち同友会の先人たちは、荒廃した土壌改良に乗り出し、当時の状況からすれば見果てぬ夢とも言える夢を追いかけ、自主・民主の精神で改良された土壌に人間尊重の種を蒔きました。私は、勝手に先人たちの壮大なロマンを思い浮かべ、ワクワクしています。

私の持論は、「人間尊重」の種から芽吹いた双葉の片方が「共に育つ」、もう一方が「労使見解」。この双葉の根本に障害者雇用は位置づいています。「共に育つ」は社員に求めるものではなく、経営者の覚悟です。「労使見解」は、賃金を挟んで立つ経営者と社員の埋まることのない溝をいかに縮めるかの知恵なのです。

社員と経営者の間には埋めて埋まらない溝がある
この溝を埋める先人たちの知恵が「労使見解」

「1社1人関わる・愛知モデル」で発信

1、障害者と関わる意義

人間が生物である以上、生まれてくる子どもたちの中には、一定の割合で障害を持つ子どもたちがいます。そして、事故がゼロにならない限り身体障害しかり、世の中での息苦しさが消えない限り精神障害しかりです。

この現実がある中で、余儀なく障害を持つことになった人たちから、目を背け素通りしてよいのでしょうか。ある日突然、あなたのごく近しい人、あなた自身がそうならないという可能性はゼロではありません。

わが身に降りかかるであろう障害者問題。しかし、今なお愛知同友会会員の関心は薄いままです。この現状に問題提起をすること、そして、障害を持つ人たちに関わることとその意義を伝える、それが「1社1人関わる・愛知モデル」です。

2、最も重要なこと

障害ゆえに健常者と同じ景色が見たくとも見えない人がいれば、同じように景色が見える位置に立つための土台をプレゼントし、同じ景色が見られるようにする。その関わりから双方に生まれ育つものが必ずあり、そこが最も重要なのです。

健常者は、努力すれば100%を達成できます。一方で、障害を持つゆえに望むことが十分に追求できない人たちがいます。そこを応援することが、私たちに求められます。障害者の苦悩を横目で見ながら素通りしてはならない、と私は考えます。

障害者も健常者と同じ風景が見られるよう台座をプレゼントする
その関わりから生まれ育つものがある

3、思いを1つに

障害者以外にも、社会の中には手を差し伸べるべき就労困難者などの問題がたくさんあります。どの問題も横目で素通りしてはならないことです。しかし、中同協の障害者問題委員会の目的は、「障害者問題への関心を高めるための諸活動と障害者雇用の推進」です。

2015年、故・田山謙堂氏(元中同協顧問)とお話しした際「人間として、健常者も障害者も対等・平等な関係をどう企業で実現していくか。一緒に企業の一員として働き、困難や問題には手を携えて乗り越え、立ち上がる。それを実証していくのが同友会だ」と言われました。

障害者自立応援委員会には、障害者雇用運動を推進する責務があります。愛知同友会は、どんなに遠い道程であっても、障害を持つ人たちの笑顔が見たい。第22回障全交で愛知同友会そして全国の会員の皆さんと、思いを1つにしたい。そのために「1社1人関わる・愛知モデル」を発信します。

【文責:事務局 岩附】