あえて共同求人からチャレンジ
川中 英章氏 (株)EVENTOS(広島同友会、中同協・共同求人委員長)
人を生かす経営推進部門では、人に関する委員会(※)の課題を会員企業が経営指針に位置づけ、各社で実践することを目標に、学習会を開催しています。
12月は共同求人委員会のオープン委員会に62名が参加。広島同友会会員で中同協・共同求人委員長を務めるEVENTOS代表取締役の川中英章氏を報告者に迎え、あえて求人から始めてほしいという想いをお話しいただき、経営指針を実践する一番の近道は「採用」であるとの認識を深めました。
(※労務労働、共同求人、共育、障害者自立応援、協働共生)
創業、債務超過から再建
私は1988年にイベント会社としてEVENTOSを設立。イベントに関する仕出し業から始め、飲食業へと進んでいきました。
当時は採用という概念はなく、ホテルからの引き抜きで調理師を揃えている状況でした。彼らも新しいホテルができるまでの腰掛けで、人の流れは常にありました。仕出し業から飲食業へシフトし、出店を繰り返すたびに売り上げも赤字も増え、あっという間に債務超過に陥りました。
ある日、給料が払えないことを伝えると、60名いた社員は半年後には7名になってしまいました。運営ができなくなり、店を集約し再建を図っている時に、ウエディングプランナーをやっている同友会会員と出会い、結婚式場の下請けをすることで奇跡的に持ち直すことができました。
初めての新卒採用
同友会には採用を目的に、2004年に入会しました。2007年より共同求人に参加し、2008年リーマンショックの影響による就職難が後押しとなり、会社訪問には80名が来てくれました。
しかし、実際に足を運んだ学生は、社長だけが調子のよいことを言っている会社だとすぐに見抜きました。社内の雰囲気が非常に悪く、学生が元気よく挨拶をしても無視する社員たち。とても新入社員を受け入れる風土になっていなかったのです。
それでも、6名の入社が決まりました。給料や休日などの条件だけではなく、会社の将来に期待してくれた子たちが目の前にいるわけです。入社式の4月1日、絶対にこの子たちと一緒に幸せになると誓いました。
「内定承諾書が来たら、家庭訪問をした方がいい」という先輩会員の助言を受け、どんなに遠くであっても両親にも説明に行きました。ある親御さんからは、「4年制の大学を出て働く価値のある仕事ですか」と疑問を投げかけられました。これが経営ビジョンにつながるヒントになったのです。
自社に足らないところを徹底的に考える
まだまだ飲食業への理解が十分に伝わっていないことに気付き、そこを発信するのは自社の役目であり、「地域の同業他社のサービス向上に、革新的な刺激を与えられる会社になりたい」と目標ができ、10年ビジョンを作りました。この時期は、「食の安全・安心」が取り沙汰されており、食の生産現場へ近づき、食の問題を解決できるような会社になりたい、農業にもチャレンジしたい、と「ありたい姿」を絵にしたのです。
しかし、社内整備もできていない状態で、新入社員たちは既存の社員と関わるうちに次々と死んだ魚のような目になり、1年以内に全員がいなくなりました。彼らの履歴書の職歴欄には早々と「EVENTOS離職」と入るわけです。自分が人の人生を傷つけているのだと強く意識したことで、自社に足らないところを徹底的に考えるきっかけになりました。
「人生は思ったようになるし、思ったようにしかならない」
どうしたら社員が安心してこの会社に勤められるのか、その目安が何もありませんでした。どうしようもない状態の中、中同協の発行する「持続可能な企業と地域のために-共同求人・社員教育活動のすすめ-」に出合い、会社にとって使い勝手の良い人材づくりの教育ではなく、社員自身が心躍る仕事は何かを見極める力を身に付けられる「共に育ちあう土壌」づくりが重要だと学びました。
経営者の仕事は、誇りを持てる仕事をつくっていくことです。私の座右の銘は、「人生は思ったようになるし、思ったようにしかならない」です。行動こそが真実なので、掲げるビジョンを実行しようと決意しました。
あえて共同求人から行ってほしい理由
採用活動に取り組むことによって、会社の成長スピードは格段に上がります。これが、あえて共同求人から行ってほしいといっている理由です。
採用をしていなければ、外部環境の変化によって計画通りにいかなくても、そのまま過ぎていきます。経営者自身も苦しい時には、掲げた目標に届かなくても、105%の成長で安易に妥協をします。それを観て社員は経営者に不審を抱き、自分の将来に不安を抱きます。社員の反応は正しくその通りであり、共同求人を継続することによって、言い訳できない環境に身を置くことができるのです。
同友会で共同求人をすること自体が「経営者の研修」といえます。学生がブースに来ないのは、会社に魅力がないからです。その事実に真っ向から向き合わなければ会社は成長しません。
「地域になくてはならない会社に」
今の学生たちは、人の役に立ちたい、社会貢献がしたいと思っているから、人生を過ごす価値のある会社にしていく必要があります。人は人生の多くの時間を仕事に費やすことになります。それならば当然、楽しい仕事でありたいし、家に帰って誇らしい仕事をしていると家族に言えるようになりたいと思います。
2018年に作った10年ビジョンは、「地域になくてはならない会社に」です。そのために働きがいがある企業になりたいです。働きがいと働きやすさは不離一体です。社員は就業規則を見ながら、自分の人生を描くことができるのかを見極めています。
そこで、自分の将来設計や夢に合わせて給料が連動する制度を作りました。就業規則の見直しを行い、評価基準を明確にすることで、広島県の飲食業としては初の「働き方改革実践企業」に認定されることになりました。
47都道府県の働きがいのある会社を集結
2020年には経済産業省より「地域未来牽引企業」に選定していただきました。私は、どうしても地域の未来を引っ張るという名前が欲しいと思っていたので、とても嬉しかったです。
まだまだやるべきことはありますが、危機感を共有し、前向きに取り組んでくれる社員がいてくれることは私にとって大変心強いことです。そして、そのほとんどの社員が15年前に始めた共同求人で採用した人たちです。あの時一歩踏み出していなければ、今のようなEVENTOSはなかったかもしれません。
2023年6月9日に東京で、47都道府県の働きがいのある会社を集めて「中小企業サミット」を開催します。私は、この場を「人を生かす経営」実践大会にしたいと考えています。やりがい、働きがいを発信する場ができれば、同友会運動として地域に人を残す活動が広がっていくと思います。地域の若者に、親御さんに、学校の先生たちに、行政に、そのプレゼンテーションをするのが共同求人活動であると、私は確信しています。
【文責:事務局 下脇】
川中英章氏
(株)EVENTOS代表取締役
〈広島同友会、中同協・共同求人委員長〉
創業:1986年
設立:1988年
資本金:4,000万円
年商:3億8,000万円
総社員数:45名(うち臨時社員16名)
事業内容:各種ケータリングサービス、催事の企画・立案・運営、飲食店(4店舗)、ワインショップ(1店舗)、産直市場(1店舗)、広島近郊の農村活性化
https://www.eventos.co.jp/