活動報告

人を生かす経営推進部門&協働共生委員会 第6回オープン委員会(1月16日)

働き方の多様性を支える組織内のコミュニケーション

五十畑 浩平氏

五十畑 浩平氏  名城大学経営学部教授

人を生かす経営推進部門では、人に関する委員会(※)の課題を会員企業が経営指針に位置付け、各社で実践することを目標に、学習会を開催しています。

1月は協働共生委員会のオープン委員会に30名が参加。名城大学教授の五十畑浩平氏による問題提起を通じ、「職場」の意義やコミュニケーションの重要性について改めて考える機会としました。

(※労務労働、共同求人、共育、障害者自立応援、協働共生)

コロナ禍での働き方の変化と見えた限界

新型コロナウイルス感染対策の一環として日本で一気に浸透した働き方が、在宅勤務などの「テレワーク」です。テレワークそのものは昔からあり、早くからテレワークが普及したフランスやオランダなどではすでに労働者の「権利」としてテレワークが位置付けられています。

職場に行かないことで人との接触を避けられるテレワークはコロナ禍においては必須となりましたが、やはりテレワークにも様々な限界があります。

1つは生産性の問題です。テレワークで最も生産性が上がる頻度は週1~2日という調査結果があります。テレワークが週1日未満では準備の手間が増えるだけでそのメリットが引き出せず、逆に週3日以上になると、社員が企業との接触感を失う「孤立化」状態となり、生産性はかえって落ちていきます。

もう1つは人材育成にテレワークは向かないという問題です。テレワークでは仕事のプロセスがわかりにくく、仕事からの学びや他者からの支援も得にくい、また人間関係も築きにくいため、社員が成長することが難しいのです。

テレワークの普及によってその限界が顕在化し、テレワークをバランスよく取り入れた働き方への見直しが行われたり、人同士の触れ合いがある職場でしか得られない「成長の場」という意義が再評価されたりしているのが現在です。

真の多様化は「正規雇用」で

将来の深刻な労働力不足が確実な現状、働き方の多様化は推進を余儀なくされ、様々な議論が行われています。日本で特に多様化への壁となっているのが「正規・非正規」の二極化の問題です。

「多様化」とは、スタンダートとされてきたフルタイム労働に代わる働き方、端的に言えば、パートタイムを含む様々な働き方を指します。本来パートタイムとは単に所定の労働時間が短いだけの意味で、欧州たとえばフランスでは「パートタイム」は「正規雇用」が大部分を占めています。しかし日本では言葉の意味が変えられて普及し、パートタイムと言えば非正規労働という、身分的な意味ですら使われています。実際、非正規率は、日本では4割近くに拡大している一方、フランスでは16%とごく少数です。

このように日本では多様化が非正規に矮小化されてきたのであり、「多様な正規」という選択肢がありません。非正規は職務が限定的で、収入も継続雇用も不安定です。一方で、正規は職務があいまいで長時間労働の温床ともなっています。また、柔軟な働き方が認められている非正規が発展した分、「自分は正社員だから」と過度な自己規定をしてしまい、正規の働き方はかえって硬直化しています。

フランスではパートタイムでも正規が原則で、フルタイムと対等な関係です。同一労働同一賃金で、社会保険や休暇などでも差別は一切ありません。まさに「働く時間」のみが異なるという関係で、さらにライフステージに合わせてフルタイムとパートの転換も可能となっています。

今後ますます多様な人材が必要となり、多様な働き方や多様な労働環境・ワークスタイルが求められていくことは間違いありません。そうした「多様性」を支える鍵となる1つが「正規雇用のパートタイム」ではないでしょうか。

正規イコールフルタイムという一辺倒の発想を変革し、「短時間の正社員」や個々のライフイベントに応じた労働時間・働き方の調整を可能にするなど、正規雇用での多様な選択肢をつくることが、真に多様な働き方の源泉になっていくものと考えます。

「職場」の4つの意義とは
「正規のパートタイム」が一般的なフランスと皆無の日本

見直される「職場」の意義

コロナ禍でテレワークが一気に普及したことで職場に集う機会が大きく減ってきた中、その「職場」の意義が見直されています。それを「学習機会の場」「支援の場」「ソーシャル・キャピタル」そして「成長の場」という4つの側面で見ていきます。

「学習機会の場」としては業務のやり方、構造、流れなど、実際の業務の中に学習につながる機会が職場には埋め込まれています。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)などがまさにそれです。

「支援の場」では、職場では上司、先輩、同僚から種々の支援を受けられます。支援には大きく3種あり、業務に関する助言などの「業務支援」、仕事のあり方を客観的に振り返る「内省支援」、精神的な安息を提供する「精神支援」です。特に内省支援の効果が重要だと言えます。

「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」は、人のつながりを資本(資源)としてみなすことです。職場内での協調行動が、組織のコミュニティの効率性を高める効果です。社員同士がお互いを信頼し、助け合える職場となることが重要です。

そして「成長の場」に関しては、個人が独力では成し遂げられないことも、他者からの支援や協力があればできるようになり、こうした「ストレッチのある経験」を積み重ねることで能力の向上につながります。

これらはテレワークなど他者のいない環境では得られず、職場ならではの効果であると言え、多様な働き方が広がるほど職場の重要性が際立ってくると言えるでしょう。

コミュニケーションのあり方を議論

多様化の遠心力を抑制するインターナル・コミュニケーション

働き方の多様化を促進していく必要がある一方で、多様化や組織変革などを進めていくと必ず、組織をバラバラの方向に向かわせパフォーマンスを低下させる「遠心力」が働いてしまうのも事実です。そこで遠心力によるダメージを抑制し、組織を1つにまとめていく「求心力」を意識的に働かせる取り組みが不可欠となります。その核となるのが組織内で行うインターナル・コミュニケーションです。

海外では、インターナル・コミュニケーションを行う専門職「コミュニケーター」が発達しているほどです。組織と人を可視化し、従業員個人の極小化された視野を広げ、現場業務の価値を再発見させることの必要性を説くのがその役割です。今後は日本でもコミュニケーターが重要になると言われています。

組織内のコミュニケーションの流れには3つのパターンがあると言われます。経営者から経営理念・ビジョン・方針の浸透を図る「トップダウン」、逆に現場の声や前線の情報を収集して経営にフィードバックする「ボトムアップ」、そして組織内あるいは組織間を横断して情報共有を図り、連携して協創的に行う「チームワーク」です。

インターナル・コミュニケーションには、組織の変革の過程で生じるパフォーマンス低下を抑制する「チェンジマネジメント」として求心力を高める効果もあり、さらには課題解決や組織改革、イノベーションへの力にもつながるとも言われています。

職場の意義を高め多様性を生かせる組織へ

少子高齢化の進行による労働力不足や生活様式の変化、またコロナ禍での働き方の変化や多様化が進む中でその問題点が顕在化し、「職場」の意義やそこでのコミュニケーションの重要性が見直されることになりました。とりわけ、多様性をとり入れる過程は企業にとって遠心力として作用することから、職場の意義を高め、インターナル・コミュニケーションを積極的に行っていく必要があります。

社内コミュニケーションにおける経営者の役割を改めて振り返り、一層のコミュニケーション強化を図っていくことが肝要と言えるでしょう。

【文責:事務局 政廣】