人間尊重経営を深める 各支部啓発学習会
~西三河・西尾張・東尾張
今年10月19日(木)・20日(金)に第22回障害者問題全国交流会が愛知で開催されます。これに向け、愛知同友会では6月から「人間尊重経営を深める」啓発学習会が各支部において開催されており、6月は西三河、西尾張、東尾張の各支部で実施されました。以下にそれぞれの概要を紹介します。
西三河支部(6月16日)
障害者と関わることでの変化
志水 嘉津彦氏 進興金属工業(株)
障害者雇用のきっかけ
西三河支部では進興金属工業代表取締役の志水嘉津彦氏に自社での障害者雇用の実践報告をいただきました。
「万象是我師(ばんしょうこれわがし)」。志水氏が座右の銘とするこの言葉には、「すべての事柄から素直に学ぶ」という意味があるそうです。志水氏は、障害者を雇用するに至った2つのきっかけを説明しました。
1つは、人手不足の課題。2つ目は、2018年4月から民間企業における障害者の法定雇用率が2.2%に上がり、当時社員数46名の同社も1名以上の障害のある社員の雇用が必要になったことです。そうした中、みよし商工会の「障害者の職場体験実習 受け入れ企業募集」というチラシが目に入りました。
チラシの問い合わせ先に連絡すると、支援機関の職員から「御社に合う方がいる」と言われ、Aさん(仮名)との面接を行います。発達障害というAさんは、工業大学の夜間部を卒業しているからか工業用語もよく理解しており、話をしていてもどこに何の障害があるのか全くわからなかったと志水氏はいいます。
トライアル雇用を決意
何事も挑戦という気持ちで志水氏は3カ月間のトライアル雇用に踏み切ります。その際にAさんと約束したのは、「障害を隠さない」ということでした。障害を隠して、後から社員の不信感につながることを避けるためであり、またAさんが障害のことも含めて社員から認められることが大切だと考えたからです。
実際に現場で仕事をしてもらうと、「スピードが遅い」「覚えが悪い」などの不満が社員から出ました。一方で、気遣いの声をかける社員も多く、嬉しく思った志水氏でしたが、Aさんからは「こうしたい」という発信がないため、何をどうしたらいいのか分からず悩みました。
そんな時、指導を担当していた社員が「きちんと教えればできますよ」と、Aさんの良さや可能性を話してくれました。志水氏だけでなく社員もAさんと関わる中で成長していることを実感でき、正規雇用を決めたといいます。
経営者の姿勢を見直す
志水氏は、この雇用がきっかけで自社に「評価表」などの基準がないことに気づいたといい、また全社員との面談もなかったため、社員が本当にやりたいことや思っていることを丁寧に聞くこともなかったと振り返りました。
そして、「挨拶はできて当たり前」「教えればできるはず。なぜそれくらいできないの」という感覚で社員と接していたことを本当に申し訳なく思ったといいます。現在は「コミュニケーションシート」や「人事考課シート」を作り、社員とコミュニケーションを図っているそうです。
「私たちは関係する全ての人々と共に『幸せ』を追求する」を経営理念に掲げている同社。志水氏は、障害のある社員の雇用を通じて多種多様な人が安心して働くことができる環境づくりの道筋が見えてきたといいます。
これからも社員と共に、1人1人が互いの存在価値を尊重し、より他人の成長や幸せを願う人が活躍できる会社を目指していくと、締めくくりました。
西尾張支部(6月29日)
障害者との関わりから「人間尊重経営」を学ぶ
小出 晶子氏 TIY(株)
誰もが持つ「働きたい」を応援する会社に
西尾張支部では障全交実行委員長の小出晶子氏を報告者に迎え、障害者と関わることを通し、人を生かす経営を学ぶという内容で学習会を行いました。
はじめに障害者自立応援委員会の笠原尚志氏より、委員会が掲げる「1社が1人の障害者と関わる」実践を紹介いただき、その課題も話していただきました。笠原氏は「障害を持った当事者と関わることで人間尊重経営を学ぶきっかけになる。また、障害者の現状を知ってほしい」と呼びかけました。
続いて小出晶子氏から「生きることは社会とつながること、働くことで社会とつながる」と題して、動画を交えた報告がありました。
小出氏は、「人間は、ほめられ、認められ、役に立ちたいという欲求・願いをもって暮らしている。この気持ちは障害者に限ったことではなく、生きている人なら誰しもが関係していることであり、自社も働きたい気持ちを応援する会社でありたい」と想いを語り、「経営者はそのことに思いを馳せ、各社で「人を生かす経営」を実践しよう」と熱く呼びかけました。
面白く、楽しく、仕事をするための工夫
また報告内で上映された動画では、実際にTIYで仕事をしている中での様々な工夫が紹介されました。
機械化や自動化ができない「手作業主体」の仕事をしている同社では、例えば5つの工程を1人が全部行って完成させる「多能工」とは逆の発想で、各工程を分解・単純化して1つの仕事を5人の「単能工」が協力して完成させることにより、障害者が作業を無理なくこなせるだけでなく、健常者に引けを取らない成果を上げているといいます。
さらには「手作業プラスα」として、各工程を簡単かつ正確にするための道具を製作して工夫を凝らすことにより、健常者でも時に間違えることがあった作業が正確になるなど、誰でも作業ができるようにしているとともに、工夫をすることの楽しさ・モノができていく面白さが体感できるようにしている様子が紹介され、グループ討論でも話題になりました。
特別ではない障害者雇用
その討論のなかでも、障害者を雇用している会員からは、「障害者と接することは特別なことではなく、案外と身近なことで、それに気づいていないだけなのでは」との意見や、「障害者の雇用にとどまらず、その社員が働きやすい会社づくりを考えたときに、人を生かす経営の実践が広がるのでは」などの感想が出されました。
障害者雇用の実践事例をきっかけとして、誰もが働けて活躍ができる会社づくりについて、具体的に考えることができる機会となりました。
(株)国分農園 橋本 昌博
東尾張支部(6月29日)
障害者と関わって気づく・変わる
江尻 春樹氏 信濃工業(株)
障害者を持つ人は増えている
東尾張支部では、信濃工業代表取締役の江尻春樹氏による「1社1人関わる・愛知モデル」の実践報告を通じ、会員1人1人の意識の見直しや気付きにつなげました。
江尻氏はまず、障害者と呼ばれる人々の実態を解説しました。時代の変化や生活環境の違いなどを踏まえ、様々な形で障害を持つ人の数は増加傾向にあることを説明しました。
人間尊重経営とは、三位一体経営やダイバーシティへの取り組みを自社で実践していくことだといえます。会員企業としてどのように向き合うかが問われると、江尻氏は報告しました。
「障害者雇用は難しい」「障害者と向き合う術がない」など、自社での関りを否定する声も聞かれます。しかし、作業を細分化して誰もができることを見つけ出し、その工程を担ってもらうことで、障害を持つ人にも働く場を提供できるかもしれません。
人間性に目を向ける
何かを始めるには、これまで以上に準備が必要とされます。「何ができるか」は経営者1人で考えるのではなく、既存の社員と共に障害を待つ人も交えて、その人の可能性を引き出すのも経営者の役割の1つといえます。
健常者・障害者を問わず、本人の幸せを提供できるかどうかは雇用をしてみないとわかりません。江尻氏も言うように、「体験して、分かってきているつもり」でも、対象の人物が変われば再スタートとなります。
外国人や障害者だからと固定観念にとらわれず「人を人として」その人間性に目を向け、興味を持つことで、見えない生産性を高めることができます。さらに、良い社内風土につなげられる可能性もあります。
当事者意識を持って
自分や社員の身内に障害を持つ人はいませんか? ベテラン社員に障害が生じたからと解雇しますか? 経営者も他人事ではありません。いつ自分自身が障害者になるかは誰にも予測がつきません。まずは受け入れ体制を社員と共に築いていくことが大切といえます。
他人事と捉えていたことを「自分事」として考える。障害を持てばこれまでの生活が一転することもあり、相当のダメージを受けかねません。その備えとして自社でどのように関わっていくかを考えておくことが、未来を見据えた事業存続につながり、安心・安全で生きがいを持って働ける環境づくりにもつながると実感しました。
同友会は情報提供をしてくれますが、経営者が情報を取りにいかなければ何の変化も起きません。自ら必要性を認識し、自社で取り組もうという意志と行動が、明るい未来を照らしてくれます。先輩経営者の皆さんがつくり上げたものを活用し、相談できる場に進むことで、人と人との関わりが構築できます。
「できないことができる社風づくり」を目指して行動していきたいと思います。
(株)トヨコー 戸田 啓二