活動報告

第22回障害者問題全国交流会 第6分科会(10月19日)

一緒に働くってどういうこと?
~見て、知って、関わりの一歩を

報告者:小出 晶子氏  TIY(株)

組み立ての工程を見学する参加者の皆さん

昨年10月19・20日に愛知で開催された障害者問題全国交流会の第6分科会では、障全交実行委員長である小出晶子氏の会社を見学。小出氏より障害者雇用のきっかけや自社での実践、雇用への想いが語られました。

障害者雇用のきっかけ

当社は、機械設計をしていた父が脱サラして始めた会社で、部品組み立てをしています。私自身は歯科衛生士として働いていましたが、家庭の事情で家業を手伝うことになりました。

出荷する製品を並べる仕事がありましたが、当時はパートタイマーが多く時間が足らず、作業ができなくなってしまいました。そんな時に、歯科衛生士時代に障害者施設の訓練を見たことを思い出しました。

隔離された施設の中で訓練を繰り返していても、この人たちはどう社会とつながっていくのだろうと疑問に思っていました。

また、自分自身が子育てをしている時に、社会から隔離されたと感じた時期があり、「社会と関わりたい」という気持ちは障害のある人も同じではないかと考えました。

「人間」に障害の有無は関係ない

すぐに、特別支援学校に問い合わせ、実習から始めました。指示が的確であれば働けるとわかり、採用に踏み切りました。この時は支援学校の先生の言葉を鵜呑みにし、当時の時間給の3分の1を支払うことにしました。先生からは「それでも嬉しい」と言われましたが、いつも心がざわつき、嫌な気持ちを抱えていました。ちょうどその頃に同友会へ入会しました。

作業効率は他の人と同じなのになぜ賃金が少ないのか、いくら考えても説明ができませんでした。そのためすぐに賃金を他の社員と同額にしました。その根底には、同友会での学びである「人間尊重」があると思います。「人間」には、障害の有無は関係ありません。同じことをしているのに、障害があるだけで賃金に差があること自体がおかしいと気付くことができました。

誰もができる仕事を考える

当社は製造業なので、それぞれの持ち場があり、どれだけのペースで作業ができれば最低賃金がクリアできるようになるかという数字が出ます。それに伴って、ここまでやってほしいという数値目標も出てきます。そこに達しない場合は、仕事の切り出しをしています。

もともと1つの製品を作るのに工程が5つあり、1人で5工程かけて仕上げていたものを、1人が確実に1工程を行い、5人で1つの製品を作る方法に変えました。仕事を細分化し、単能工化することで障害のある人も健常者も同じ個数ができ、働きやすくなりました。

障害があるだけで働く場所がない

ある女性社員は職業訓練校を出て働いていましたが、仕事を覚えるのに時間がかかるため「うちでは無理だね」と言われて1年半で退職を余儀なくされました。そして、近所の会社に面接に行くと、彼女の履歴書を見るなり「うちは障害者はいらないよ」と、聞く耳も持ってくれなかったといいます。

私も含め、健常者と呼ばれる人たちは経験したことのないことを、障害のある人は経験しています。障害を持つということは、本人が望んだものでも、本人の責任でもありません。それぞれの特性の違いであり、その違いだけで働く場所がないというのは、とても悲しいことだと思います。

彼女はその後、ハローワークから紹介され、当社に来てくれました。採用して15年以上が経ちますが、元気に働いてくれています。よそで働けなくとも当社では働ける、自分の能力を生かしていけるというのは、彼らにとっても自信につながっていると思います。

「仕事が楽しい」

これまでさまざまな人を雇用してきましたが、「仕事をさせてあげている」と思ったことはありません。彼らに合った仕事を用意するのが経営者の仕事だと思っています。

社員に聞くと、みんなが口を揃えて「仕事が楽しい」と言います。それぞれに好きな仕事があり、その仕事にとても誇りを持っており、生き生きと働いています。その姿を見ていると、働くことはつらくて苦しいことばかりではないし、社会と関わる一番の近道は「働くこと」だと改めて感じます。

彼らがこれからも安心して働けるよう考える一方で、雇用は慈善ではないので、事業を継続させ、安定的に利益を出せる会社づくりも進めていかなければいけないことに気付かされます。

左から室長の鶴田修一氏、小出晶子氏、座長の橋本昌博氏

「見える生産性」と「見えない生産性」

本日の課題提起の場でも、見える生産性、見えない生産性という言葉が出されました。「見える生産性」というのは、一時間に何個できるという仕事の出来高を指します。そこに至るまでに、障害のある人と一緒にどうやったらできるようになるのかを考えていくこと、本人のモチベーションづくりや経営者としての自覚など、心に触れる出来事を「見えない生産性」という言葉で表しています。

経営者になってみて感じたのは、仕事の切り出しをし、全ての社員に能力を発揮してもらえるような環境をつくることは、経営者にしかできないということです。

人間尊重の経営をベースに考える

社内で大切にしていることは、「会社のルールを守る」ことです。また、守れないルールであれば、それを変えていけるように意見を言える場をつくっています。できるだけ不満の声が上がらないように努めていますが、みんなが100%理解してくれているとは思いません。ただ、会社というのは1人で完結する仕事はないので、一緒に働く仲間を貶めるようなことはしないように伝えています。

私自身も障害者雇用を目指そうとしてやってきたわけではなく、あくまでも結果です。しかし、同友会で学んでいるからこそ、人間尊重の経営が常にベースにあり、自分自身に問いかけながら、進んできたように思います。どんな形であれ、まずは関わろうと感じてもらうことができればとても嬉しく思います。

【文責:事務局 下脇】