活動報告

人を生かす経営推進部門&経営指針推進本部 オープン学習会(5月14日)詳細

時代の転換期こそ変革のチャンス
~経営環境が激変する中での情勢認識と事業展開

丸山 博氏
(有)第一コンサルティング・オブ・ビジネス(東京同友会)

情勢を多面的に語る丸山氏

人を生かす経営推進部門と経営指針推進本部の共催でオープン学習会が開催され、情勢認識について第一コンサルティング・オブ・ビジネスの丸山博氏(東京同友会)による報告から学びました。以下に報告概要を紹介します。

挑戦する1年に

2024年は「甲辰(きのえたつ)」といわれ、人間の記憶に残る出来事が起こりやすい年です。年明け早々に能登半島地震が発生し、翌1月2日には羽田空港で日本航空機と海上保安庁の航空機との衝突事故が起きました。このような衝撃的な出来事がありましたが、「甲辰」には「挑戦する者に福が訪れる」という意味もあって、こちらに注目していきたいと思います。

深まる危機

物価高と、構造的な円安が止まりません。普段の生活における圧迫感に加え、中小企業経営はますます厳しさと困難を増しています。消費や需要量が伸びず、供給量も減少するという「悪い物価高」が続いています。

背景には、新型コロナウイルス、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・アラブ戦争などがあります。これらの影響がいまだ改善せず、戦争は収束の目途が立ちません。紛争の根底にあるのは格差と貧困です。大国間や宗教間などで対立と分断も拡大しています。

気候変動の影響も深刻で、地球温暖化による異常気象が続き、経済にも影響しています。例えば、戦争と渇水でスエズ運河とパナマ運河が停止し、貨物船が遠回りを余儀なくされ、燃料費が増加し、それが物価高にもつながっています。こうした世界情勢を把握し、私たち中小企業は高い付加価値を提供するビジネスを準備する必要があります。

世界の政治情勢

2024年はアメリカ合衆国の大統領選挙をはじめ、欧州議会選挙、各国の総選挙や大統領選挙、首脳会議、日本も自民党総裁任期満了や東京都知事選挙など、世界情勢を左右するイベントが目白押しです。アメリカだけでなくヨーロッパにおいても、物価高や生活苦など不満を溜めた市民の増大から極右勢力が台頭しています。各国における政権交代も注視されます。

日本国内では、新NISAがスタートすると同時に円安が進行し、国民は為替変動の投機経済に大きく巻き込まれ始めました。日銀は異次元金融緩和から通常の金融緩和へ踏み出しつつありますが、負の遺産は膨大で、為替市場と景気の狭間で非常に難しい舵取りを迫られています。

また2024年は、運送・運輸業や建設業と医療業界における時間外労働の上限規制猶予期間が終了し、日本の労働人口が減少し続ける中で、働き方改革の進行とともに人手はますます不足する一方だといえます。

要点・キーワードが板書される

新常態時代へ

IT技術の加速度的な進化は、今日のビジネスに革新をもたらしています。例えば、「チャットGPT」や生成AIの進化と活用により、かつて手作業で行っていた仕事が自動化されつつあります。

住宅建築では、設計したい家の条件を入力するだけで自動的に建築が進行し、業務マニュアルの作成もチャットGPTに依頼することが可能です。長時間かかっていた作業が少人数かつ短時間で完了し、余剰な時間や人材を別の経営資源に投入できるようになっています。

一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入により、業務や業種そのものが丸ごとなくなるという事態も生じています。私たちの身近な多くの場面で大きな変革が進行しており、先んじて機敏に適応することが求められています。

さらに、2028年頃から炭素賦課金が義務化され、二酸化炭素排出量取引も動き出します。ある石油会社が収穫や販売を行わない排出権創出のためだけの植物農場を始めました。中小企業も脱炭素社会に向けた動向に注目し、チャンスを掴む必要があります。化石燃料に頼った経済から、クリーンエネルギー中心の社会へと転換し、環境保護と経済成長を両立させることが求められています。

消費者動向を見極める

現在、百貨店の高級ブランド品や高価格帯のチルド商品の売り上げが、新型コロナウイルスが流行する前と比較して1.2倍に上昇しています。これは自分へのご褒美や親しい人へのプレゼントなどの「こだわり型消費」が増えているからです。

また、土曜日と日曜日に大手のスーパーマーケットでまとめ買いをする人が増加している一方で、地元スーパーでは購入回数が減少し、物価高と節約消費の板挟みで非常な苦戦を強いられています。このように消費者動向は二極分化しており、それらの状況を的確に分析してモノやサービスを提供することが重要です。

商品やサービスを提供する場合でも、提供の仕方でちょっとした差が出ます。「独自商品が自社にはないから売れない」というのは勘違いです。「ちょっとの差」の積み重ねが大きな差となるのです。

選ばれる企業へ

いくつかの事例を紹介します。売り込む努力では売上難だったある卸売会社では、顧客を支援することに専念しました。顧客のお店の繁盛を支援するために有名店舗のリストを障害者施設に依頼して作成してもらい、そのリストを基に「カタログDM」を送り、自社商品を告知することを始めたら売り上げが伸びました。障害のある方にも仕事を通して生きがいとやりがいを感じてもらうこともできています。

また、ある木工会社では、5軸加工機と3Dを活用することで、短時間かつデザイン性の高い作品ができることを設計士やプレミアム顧客にアピールしました。顧客に近いところで発信力を高めていくことで「選ばれる企業」へと脱皮し、企業そのものの変革にもつながっている事例があります。

他にも、医療に「終末期ケア専門士」という独自の資格をつくり、その資格取得を認定する協会を創設し、看護師に対して告知することを行っている企業もあります。

いずれにおいても、お客様の問題解決に取り組み、自社の特長を徹底して極め、構想力を鍛えながら新たなチャレンジを追求していく姿勢が大切な事例でした。

真のニーズは

新型コロナウイルスが5類に移行したことと円安により、訪日外国人の消費は過去最高になりました。

外国人の観光客はお土産よりも、体験型「コト消費」に対して積極的にお金を使っています。書道教室や和の料理教室など、道具が低コストで高価格帯のサービスでも、外国人には受け入れられます。相手が何を求めているかを察知し、戦略を整え、相手に合わせた必要コストなども考えながら準備する企画力や構想力が問われます。

本学習会は対面とオンラインの併用で開催

社員も顧客も満足させる

顧客を満足させるためには、まず社員エンゲージメントを高めることから始めます。社員満足と顧客満足の2つはイコール、もしくは相反するものです。

社員が仕事にやりがいを持ち、世の中の役に立っていることを実感すると、さらに良いものを顧客に提供しようとするため、顧客に対してより高い付加価値を提供しやすくなります。逆に、働く環境が良くないと社員はストレスを抱え、顧客に品質の悪いモノやサービスを提供する恐れがあります。その結果、顧客からのクレームにつながりやすくなり、社員は仕事へのやる気をなくしてしまいます。

顧客を満足させたいのであれば、社員が満足して働ける環境づくりをすることが近道であり、短期的に見れば人件費等のコストはかかって苦しいですが、長期的に見れば会社も良くなり、顧客も満足させられます。このような取り組みを実践するには社員を採用しなければできないため、採用活動にも目を向ける必要があります。

人材力を競争力に

採用をマーケティングと考え、まずはどのような人材を採用したいか、その人材から自社が選ばれるために何をするのかを考えて、世間に告知することにも力を入れます。そして採用した社員が楽しく働けるように「仕事のやりがい」と同時に教育の仕組みをつくり、定着につなげます。

働き方改革や多様性に適うように、作業マニュアルや評価基準も設定して仕事の標準化を図ります。仕事は、単純な作業の組み合わせです。社員が何の仕事をすればいいのかを細分化して、わかりやすく取り組みやすくするなど、社内環境を整備しましょう。さらに、互いをリスペクトしあえる関係性を構築することが望ましいです。

商売の原点はお役立ち

渋沢栄一は「道徳経済合一説」において、経済活動において公益の追求を尊重する「道徳」と生産殖利である「経済」はともに重視すべきものであり、どちらかが欠けてはいけないと述べています。

自社の社会的役割は何かを考えて追究し、その中でお客様を満足させ、社員がやりがいと幸福を感じ、会社が儲かるようにすることが、中小企業にとって最も大事なことなのではないでしょうか。

今こそ経営指針を

本日は、経営指針作成編のオリエンテーションとして話をさせていただきました。

これからの時代を生き抜くためには情勢を分析し、将来はどのように会社を成長させたいかを決め、到達するための方法を考えて行動しなければなりません。それを経営指針の中に盛り込み、実践することが近道です。経営指針をまだ作成していない方は一度作成することを、すでに経営指針を作成している方もこの機会にリニューアルをすることをお勧めします。

今こそ同友会に所属している意義を再確認し、本気で経営に取り組む時代が訪れています。中小企業が今後も維持・発展していくためにも変化を恐れずチャレンジを続け、共に未来を切り開き、良い未来を実現していきましょう。

【文責:事務局 愛澤】