活動報告

障害者自立応援委員会「人間性を語る夕べ」(12)5月10日

みんなが生きた甲斐あるように

加藤 洪太郎氏  名古屋第一法律事務所

加藤 洪太郎氏

「人間性を語る夕べ」とは――

同友会では経営理念に「科学性」「社会性」「人間性」の3要素を掲げています。同友会の中でも、特に人間性を深く学んでいる場が障害者自立応援委員会です。同委員会では、障害者の枠にとらわれず人間性を深めることにスポットを当て、2021年から「人間性を語る夕べ」を開催しています。

今回は、同友会運動に関わったからこそ確固とした人生観を確立できたという会歴45年の加藤洪太郎氏(名古屋第一法律事務所)に報告いただきました。

5欲を満たす

みんなが生きた甲斐あるように――これが私の人生観です。具体的には、「生まれた人、1人1人が自由に5欲を満たし楽しむ歳月を生き、そして消えていく、これぞ人生」という意です。人間は大昔から「物欲、色欲、飲食欲、名誉欲、睡眠欲」という5欲に引っ張られて生きてきたわけです。

ですから、この5欲を妨げる壁は越えねばなりません。壁には内部的なものと外部的なものがあります。内部的な壁は、「禁欲奉仕を美徳」とする教え、「今だけ・金だけ・自分だけ」という短慮などです。外部的な壁は、天変地異・戦乱・貧困・従属労働などです。これらの壁を越えるには、人々が互いに協力し連帯する戦略が不可欠となります。

生き方の決断

自らの生き方を決断する際、自分が考え得る最もみじめな死に方を描き、望む方向を見定めました。

そして、「人は生まれ、死んでいく生物の1つ。このことを謙虚に直視する」「人に生まれることは稀、しかも一度しかない。何も持たずに生まれ、何も持たずに死ぬ」と考えました。なぜ、このように考えるようになったのか。それは生い立ちに関わっているのかもしれません。

私は3歳半で父親を亡くしました。祖父は毎晩私に添い寝をし「牛若丸の歌」を歌ってくれました。「父は尾張の露と消え 母は平家にとらえられ……おのれ1人は鞍馬山」という詩です。こうした中で、1人の孤独に耐え、誰に教わることもなく、自ら物事に好奇心を持ち、探求しようとする自立心が培われていったのだと思います。

独立自営業への道

私が陶磁器問屋の祖父から仕込まれたことはただ1つ、「鶏口と為るも、牛後と為る無かれ。為まじきものは宮仕え」でした。要は「勤め人になるなよ」ということです。そして高校2年生の時に易者から「宮仕えは無理、弁護士がよかろう」と言われ、従属労働という外部的な壁を乗り越えるにはこれだと思い、独立自営業の弁護士の道に進むことを決めました。

1972年には創立4年目の名古屋第一法律事務所に加わり、これを独立事業者である弁護士たちが対等に連帯して合同力を発揮しあう自立・連帯機構としました。6年後、同友会に入会し、同友会運動に加わればこその人生観が確立していきます。

人生観の確立

1年間全所を挙げて討議し、2007年に事務所の理念と目的を次のように改訂しました。


私たちは、すべての人が個人として尊重される、人にやさしい社会を作ることをめざし、次の目的と理念を掲げて、世代を継いで、人と社会に貢献します。

  1. 権力や社会的強者に対しても臆することなく果敢に挑み、人権を守り、平和と民主主義の実現をめざします。
  2. 私たちに関わる人々の幸せと繁栄を願い、最善の法的サービスの提供に努めます。
  3. 広くて深い時代認識を持ち、時代の先駆けの役割を果たします。
  4. 所員各自の豊かな個性と得意分野を活かすとともに内外のネットワーク構築に努め総合力を発揮します。
  5. コミュニケーションを大切にし、互いを尊重して、主体的、民主的に事務所を経営・運営します。
  6. 働きがいのある職場づくりに努め、仕事を通じて自らを成長させ、幸せな人生を築きあげます。

すべての人が個人として尊重されるとは「人間性」です。世代を継いで人と社会に貢献するとは「国民と共に」です。同友会で学んだ「自主・民主・連帯、国民や地域と共に、科学性・社会性・人間性、憲章草案」等の考え方が、事務所理念と目的の随所に織り込まれています。

学び、広く深い時代認識を持つことで、視野が広がります。1人1人が自由の領域を広げ、生きた甲斐を実感できるよう、5欲の実現を妨げる壁を克服する拠点となるべく成長していきたいと思っています。