多角的視点で企業価値創造
~必要とされる企業と人に
村田 千世子氏 (株)マイ.ビジネスサービス.

第27回女性経営者全国交流会in大阪が開催され、第8分科会にてマイ.ビジネスサービス.代表取締役の村田千世子氏が報告しました。以下にその概要を紹介します。
自己紹介・事業紹介
マイ.ビジネスサービス.(以下MBS)は1984年に佐々木という創業者が設立しました。私は1995年に2代目として代表取締役に就任しました。
当社MBSはデータ集計、分析、システム開発、Web制作、セキュリティソフトの卸販売をしています。主力サービスは大学看護学部向けの調査・研究の専門サービスです。社員数は16名で、全員女性です。
企業価値とは
自社の企業価値が言語化できていないことに気づいた私は、これまで大切にしてきた価値観や、企業価値を高めるために何をしてきたのかについて考えてみました。
2007年に同友会に入会し、すぐに経営指針成文化の勉強会に参加しました。経営指針発表会を始めて10年が経った頃、指針発表会に向けて社内が一丸となっていることを実感しました。15回目となった今では経営指針書が無ければ前に進めない状況になっています。
しかし、会社が目指すゴールが見えません。自社にしかできない「唯一無二の価値」を見出す必要がありました。
個人事業主からMBSの代表へ
私が大切にしてきた価値観を生い立ちからひもといてみると、企業価値は経営者の価値観と関係があることに気づきました。
私は25歳で結婚しましたが、出産と同時に夫が退職し、内職を掛け持ちして私が家計を支える生活が続きました。息子と2人で笑って生きるために離婚を決意し、ワープロの入力で起業しました。
ある日、取引先であったMBSの創業者から「あなたに会社あげる」と言われました。随分悩みましたが、将来を考えると個人事業主より会社組織の方が安定していると思い、母に息子の面倒を見てもらうことで、MBSの代表に就任しました。
代表就任後、パワハラやセクハラに遭いました。また、私が代表就任時に在籍していた社員は全員退職しました。そこから新たに採用した社員は現在も在席しており、苦労を共にしてきた仲間です。

多角的視点での事業展開
MBSは多角的視点の事業展開で、ゴールに向けて点をつないできました。
1つ目は、女性が働く時代に注目を集めたベビーシッター事業。これは夜遅くまで働く社員のリスクや負担も大きく、数年で撤退しました。
2つ目は、HIV予防啓発事業です。大学からの依頼で始めたこの事業が現在の主軸になっています。
3つ目は、海外展開です。中国の大連にデータ入力の合弁会社を設立しました。
4つ目は、女性が意思決定を持つ市場への興味です。サプライヤーダイバーシティという、マイノリティ(女性・LGBT・障害者・退役軍人)が株を51%以上所有し、決定権を持つ企業に、大企業が積極的に仕事を発注するという取り組みです。この取り組みを推奨している国際NGO団体「ウィコネクトインターナショナル」(本部:米国ワシントンD.C.)より2019年に認定を受けました。
5つ目は、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンへの理解です。当社でも中国人、精神障害者を雇用しました。しかし障害者については、受入側の社内整備が整っておらず、数カ月で辞めてしまいました。
6つ目はM&Aです。当社の経営課題でもある事業承継について、会社の売却も視野に入れ、短期間に財務を強化する方法としてM&Aを選択し、2023年に福島県にある株式会社フレア(社員数35名)を子会社化しました。子会社ができたことで、私の意思をしっかりと継いでくれる人に事業を継承する気持ちに切り替わりました。
新たな経営理念=企業価値を明確に
ゴールを見つけるために経営指針道場編に参加すると、目的や理念が無く、ゴールが見えていなかったことがわかりました。「1人の人間として認められたい。人間は皆、対等に平等で生きるべきだ」という考え方が、私の大切な価値観です。社会課題を意識した仕事は、自分の人生と関わってきた仕事といえます。
HIVの調査以外に、DVや性被害・性暴力・依存症など社会課題を意識する仕事が増えていく中で、世の中には自分の意見を言えずに苦しんでいる弱者がいて、取り巻く差別や偏見をなくしたいという気持ちが芽生えました。
MBSは、誰もが安心して生きられる理想の社会の実現のために経営しています。私自身と会社の歴史がここでつながりました。これが当社の企業価値です。新たな経営理念は、「個性を認め、誰もが自分らしく生きられる平等な社会の実現」です。私たちは理念の実現に向けて、仕事を通じて社会の課題に真摯に取り組み、必要不可欠な存在として永続的な企業を目指していきたいと思います。

自立型企業への転換
2008年に過去最高の売り上げを達成して、社員と海外旅行へ行き、浮き立っていました。しかし、2011年には売り上げがピーク時の4割以上もダウンするなど、会社存続の危機に見舞われます。会社の出来事は全て経営者である私の責任です。藁にもすがる思いで同友会へ足を運び、経営者としての覚悟を決めました。
そんなある日、当時の代表理事が来社して、「御社は口を開けて待っている会社だね」と言われました。そこから自立型企業になるための独自サービスを模索し、自社サービス第1号の「研究室サポートサービス」が誕生しました。その後も、独自サービスとして「YouVo」(ユアーズヴォイスの略)という研究者向けのアンケートシステムもサービス化しました。そこから、下請けから自立型企業へと変わり始めたのです。
第2フェーズに向かって
2019年までは、下請け65%、直請け35%でしたが、2023年には直請けが73%になりました。自立型企業に向けて受注構造を変化させていなければ、倒産していたと思います。
そしてついに、第2フェーズへ進む段階まで来ました。今年の指針発表会で「理念の実現のために、唯一無二のMBSにしかできないサービスを創造します」と副社長が発表しました。多くの人が誰もが自分らしく生きられる社会を目指す、MBSの経営理念に基づいた新サービスを展開します。
MBSの企業価値とは、経営者の価値観であり経営理念です。そして、中小企業が「選ばれる企業」として生き残る唯一の道は、同友会理念の実践であり、人間尊重経営だったのです。経営者の価値観を探ることは、自分と向き合い自分の根っこを見つけるつらい作業でしたが、企業価値が明確になった今、目指すゴールが見えています。
【文責:事務局 伊藤】