男性中心の“マッチョな”職場・働き方を問い直す
五十畑 浩平氏 名城大学経営学部教授
協働共生委員会と女性経営者の会「愛彩」の合同例会が開催され、協働共生委員会のアドバイザーである五十畑浩平教授より「男性中心の職場・働き方」の実態と課題について講義をいただきました。その概要を紹介します。
「マッチョイズム」の概念と職場での実態
「マッチョイズム」とは「伝統的な男らしさ」を重視する思想のことで、代表的には「弱みを見せられない」「強さと強靭さ」「仕事最優先」「弱肉強食」という4つの規範で示されるものです。これを根底に社会全体に「男性優位」の風土がつくられ、根強く続いてきました。
ジェンダーギャップ指数が示すように多くの職場は依然「男性社会」であり、多かれ少なかれマッチョイズムを前提に制度がつくられ、実際に運用されてきました。これが長年にわたり、長期雇用に値する無限定な働き方をこなせる「能力」と、無限定性を喜んで受け入れるかという「態度」が評価され、それを受け入れざるを得ないという「慣行」となってきました。
マッチョイズムは男性だけの問題ではなく、女性についても「男性と互角に戦えるキャリアウーマン=マッチョな女性」が強制されることにつながっています。
マッチョイズムはもちろん男性が真っ先に取り組むべき問題ですが、男女問わず向き合うべき問題です。
マッチョイズムがもたらす弊害
マッチョイズムの弊害を少し具体的に挙げますと、まず「自分らしさが表せなくなる」ことがあります。マッチョイズムでは「男性」とは「稼ぎ主」であり、「正社員」として長時間労働をするという役割が暗黙の了解とされます。これが職場で役割の固定化やキャリアの硬直化につながり、いわゆる出世競争を強いられ、そこから逸脱ができないという風土を生んでいます。これが「男性」への人生の呪縛となり、本来の自分らしさを表すことができなくなる原因となります。
こうした自分らしくいられない環境下では、自尊心や自己肯定感が生まれにくく、心理的安全性が担保できません。これにより主体性や自由な発想が生まれにくく、「生産性や創造性が阻害される」という弊害もあります。
また、「ケアができなくなる」という弊害も大きいです。まず、自分自身が仕事のために自分の時間や健康、命を削りながら生きることとなり、「自分へのケア」ができなくなること。また家事や育児といった「家族へのケア」もおろそかになること。職場では「弱肉強食」「弱みを見せられない」という思想にとらわれ、同僚や部下に対する配慮やコミュニケーションの欠如といった「職場へのケア」もなくなること。さらに社会全体、とりわけ社会的弱者に対する関心や思いやりの欠如という「社会全体へのケア」に対しての弊害ともなっています。
マッチョイズムの克服に向けて
職場のマッチョイズムの克服に向けては、まず職場や働き方に潜むマッチョイズムを個人と組織の両方で顕在化すること。例えば就業規則や人事制度、福利厚生などの制度にマッチョイズムが表れていないか見てみましょう。
次に「アメとムチ」という外発的動機付けから、意欲や興味を湧き立てる内発的動機付けのリーダーシップへ変革すること。これには女性の方が資質があることも研究で明らかになっています。
そして個人や家庭、職場環境などへのケアについては、「ケア=女性」という固定観念を転換させつつ、「ケアする男らしさ」を重視していくことなどが要点といえます。
これらは「誰もが働きやすい職場」や「誰もが生きやすい社会」を目指す企業家が集う同友会こそ、先鞭をつけて挑戦できる課題といえるのではないでしょうか。