仕事とは“人が育つ舞台”である
~中小企業で働く誇りと「共に育つ」経営
丸山 博氏
(有)第一コンサルティング・オブ・ビジネス(東京同友会)

4月1日の合同入社式で行われた第一コンサルティング・オブ・ビジネスの丸山博氏(東京同友会)による記念講演の概要を紹介します。
私自身と、愛する者の幸せのために働きたい
新入社員の皆様、新入社員を迎え入れた経営者の皆様、本日は誠におめでとうございます。中小企業家同友会の会員企業を入社先に選んでいただきありがとうございます。ここにいる皆さんには、入社した企業は異なりますが、同じ会員企業に入社した同期生として、これから共にがんばっていただきたいと思っております。
私は、愛知中小企業家同友会では、経営指針セミナー作成編の担当講師を務めており、本業では経営コンサルティング会社の代表を40年務めております。本日は、社会人としての第一歩を踏み出した皆様と、働くことの本質や原点について共に考えていきたいと思います。
早速ですが、皆さんは「何のために働きますか」。生活のため、人生を豊かにするため、成長するためなど理由は人それぞれですが、以前講演した際のレポートから、非常に核心に迫っていると感じた言葉を引用します。「私は私自身と、愛する者の、幸せのために働きたい」です。人間はこれまでずっと幸せになるために生きてきましたし、これからも同じです。これが働くことの本質ではないでしょうか。このことを人類の歴史からひもといていきましょう。
人類の労働の歴史=経済の歴史
原始時代の人類は、狩猟・採集を中心に小さな集団で生活をしていました。当時の働き方は、その集団で必要なものを自分たちで賄う「自給自足」です。その自給自足の中で、生産性を少しずつ向上させてきました。生産性の向上には、創意工夫が必要です。
どこからその工夫が生まれてくるのかというと、私は想像力からではないかと考えます。想像力とは、目の前にないことをイメージする力であり、他の生物にはないものです。例えば、秋の実りを想像して夏のあいだを踏ん張ったり、より多くの作物が収穫できるように道具を発明したりすることです。人間は工夫を凝らしながら労働し、長い時間をかけて徐々に生産性を高めてきました。
そして時代が進み、生産性の向上により、自分たちの集団に必要な量よりも多くの生産物を作れるようになりました。その余剰分を、自分たちが生産していないものを持っている他の集団と交換するシステムを編み出します。
初めは物々交換でしたが、成立するには、2つのものの需要(ニーズ)と価値が合致しなければならず不便でした。そこで新たな発明として、どんなものとでも交換が可能な貨幣を生み出しました。この発明こそが現在の経済環境の原点です。
より幸せになるために
貨幣が発明されると、余剰分を交換する形から、貨幣との交換(売ること)を目的にものを生産する形へ移行していきます。売ることが生産の動機になっていき、現代のような商品生産社会になりました。より幸せになるためにはどうしたらよいのか、みんなで考えた結果、作ったものを自分たちで食べずに売ったほうが、多くの貨幣を手に入れられると気がつきました。今となってはこのやり方が当たり前に思えるかもしれませんが、長い人類の歴史から見ると、商品生産社会になったのは最近になってからです。
原始時代は、獲物を捕獲できるかできないかで生死が左右される世界でした。家族のために命がけでとってきた獲物は、傷んでいたり、少し腐っていたりしても、何とかして食べられるように工夫したはずです。しかし近現代は、同じように一生懸命に生産しても、不良があったり、不出来だったりすると、その商品は売れません。どれだけ頑張っても、その頑張りだけでは評価されず、世の中に「この商品は価値がある」と認められなければ報酬を得られない、とても厳しい時代です。

「プロ」としてお客様の役に立つ
人類が働く目的は、原始時代も現代も変わりませんが、その「やり方」が変わってきています。現代は「他者の幸せ」を通して自身と愛する者を幸せにする時代です。つまり、誰かの役に立ち、評価されなければ、対価としての報酬を得られないということです。
この「誰か」というのは、仕事でいうと「お客様」にあたります。お客様の役に立ち、お客様が幸せになることで、自分たちも幸せになることができます。また、お客様の困りごとを解決するためにはどうしたらいいかを考えることで、やりがいにもつながっていきます。
お客様を幸せにし、自身が幸せになるには、自分の決めた道で一定程度の「プロ」になることが必要です。「石の上にも3年」ということわざがあります。どんな仕事や業界でも、その道に精通して、何かを習得するためには最低3年は必要です。せっかく縁あって入社した会社で始めた仕事なのですから、あきらめることなく、その道を進んでいただきたいと思います。
私の経験上、何も得るものがないうちにやめる癖をつけてしまうと、幸せな人生からは遠ざかってしまうと感じます。
人間の尊厳と平和主義
2026年は分断と紛争による激動の年です。まずは、アメリカとイスラエルによるイランへの先制武力攻撃が挙げられます。独立国に対する先制武力攻撃は、めったに起こることではありません。また、日本は原油輸入の9割を中東に依存しており、これらはイランにより封鎖されているホルムズ海峡を通って供給されるため、価格の高騰だけではなく、ものの供給が停止する可能性があります。原油の供給が停止したり、石油由来の製品が滞ったりすれば、この入社式に出席している会社で影響を受けない会社は1つもありません。
中小企業家同友会は、こういった紛争が起こるたびに、「中小企業は平和でなければ発展できない」とメッセージを表明しています。この考え方がどこからきているのかを解説したいと思います。同友会創立の理念には、1人1人が人間らしく生きていくことができる「人間の尊厳」が原点としてありました。戦争の最中には、自分らしく生きることができません。先人たちは、日本国憲法の第9条にあたる「平和主義」に大きな信頼と深い共感を持ち、同友会を創立しました。
「人を生かす経営」「共に育つ経営」
同友会の企業づくりでは、同友会理念の1つである「自主・民主・連帯の精神」を企業風土として根付かせることを目指しています。自主は、何事も自らのこととして関わること、民主はお互いの尊厳を認め、1人1人を大切にすること。そして激動の時代に最も重要なのは連帯で、まずは違いを認め合い、徐々に理解を深めていき、合意できるところで協力することです。この考え方は経営だけではなく、仕事をしていく上でも、生き方としても、指針となるものではないでしょうか。
そして、企業としてこの3つの精神を発揮できることを目指し、「人を生かす経営」を掲げています。
働く人をコストとしてではなく「可能性」として見ること、その可能性を伸ばし、人を育てることが経営の本質だという考え方です。また、会社は全員が共に成長する場であり、社員が経営者や幹部社員から学ぶだけではなく、経営者側も社員から学ぶ「共に育つ経営」を目指しています。皆さんはそういった企業を目指している会社に入社されたので、自信と誇りを持って、安心して働いていただければと思います。

現代社会で働くということは
私たちは商品生産社会に生きています。有用なものを生み出し、世間から評価されることで報酬を得る社会です。どの会社がなくなっても、どの商品がなくなっても誰かが困る、高度な社会的分業の社会にいるといえます。入社した会社が、社会の中でどんな人に、どのように役に立っているのかを考え、働きながら深めていってください。
皆さんは、どのように就職を決めましたか。中学校、高校からこの会社に就職して、「この仕事をするんだ」と心に決めていた人は、それほど多くはないはずです。偶然出会った会社で、偶然出会った仕事をするのではないかと思います。
強調したいのは、始まりは同じでも、取り組み方によって人生に違いが生まれてくるということです。この仕事が好きではないけれど、生活のために仕方がないと思って取り組むか、とにかくこの仕事をとことんやってみようとするかです。説教じみていますが、真実だと思います。
好きなことをすることが仕事ではありません。仕事とは、とことんやる努力を積み重ねていくことで好きになっていくものです。プロというのは、適性の有無で決まるものではなく、コツコツと努力を続け、できることが増えた結果、自分の仕事を好きになった人のことだと私は思います。そのためにも、会社には社員がプロになれる環境をつくる責任があります。
あなたは何のために働きますか
初めにした話に立ち返り、「あなたは何のために働きますか」と問いかけたいと思います。私は4点にまとめてみましたので、ご紹介します。
第1に、自身と愛する者の幸せを手に入れ、生活を豊かにするためです。第2に、仕事を通して自分を鍛え、成長するためです。第3に、相互依存関係を築き協力し合うことで、世の中をよりよくするためです。第4に、社会に貢献するためです。自分が社会の一員として、誰かの幸せに貢献していて、社会の役に立っていると実感できるように仕事をしてほしいです。
結びとして、皆さんは数ある企業の中から、入社する企業を選びました。同時に、企業も多くの選考対象者の中から、自社に入社してほしい人として皆さんを選んだのです。選び選ばれた関係として、自信と誇りを持って、新たなスタートを切っていただき、ご活躍されることを大いに期待しています。
【文責:事務局 藤牧】









