銀行法改正、人材マッチングについて
谷 将明氏 東海財務局理財部金融監督第一課長
昨年12月に行われた東海財務局との意見交換会にて質問として出された「銀行法改正」について、今年2月に新・現理事を対象にした特別学習会が開催されました。東海財務局より谷将明氏(金融監督第一課長)をお招きし、「銀行法改正、人材マッチングについて」と題してご説明いただいた内容の概要を本稿でお伝えします。
銀行法改正の背景
銀行法の改正は、2021年5月に行われました。地域経済の衰退や低金利、内需縮小など、銀行等を取り巻く経営環境は厳しいものですが、ポストコロナの日本経済の回復・再生を支える役割を銀行等は担っています。そのため、社会経済において期待される役割を果たそうとする銀行等の取り組みを後押しすることで、日本経済の国際競争力の強化を実現していくことが改正の狙いです。
主な改正内容と目的
今回の改正で、大きくは業務範囲規制や出資規制が見直されています。
業務範囲規制の見直しでは、銀行等が保有するノウハウや人材、技術などを活用することで、デジタル化や地方創生に寄与することを通じて持続可能な社会の構築に貢献することが目的となります。
また出資規制の見直しは、企業の事業再生や事業承継、あるいはベンチャービジネスへの支援を、銀行等がより積極的に進められるようにすることが狙いとなっています。
業務範囲規制の見直し
これまで銀行等の業務範囲は厳格に規制されてきました。金融システムの安定化のために必要な措置ではありましたが、現在の経営環境下では銀行等の経営の自由度を限定する規制にもなっていました。
そのため今回の改正では、(1)銀行本体で営むことが可能な業務に「銀行業の経営資源を主として活用して営むデジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築に資する業務」が、そして(2)銀行子会社・兄弟会社には「フィンテック企業に加え、地方創生などに資する業務を営む会社」が追加されました。
具体的には、1つ目に「自行アプリやITシステムの販売業務」、「登録型人材派遣業務」、「幅広いコンサル・マッチング業務」などが、2つ目には「地元産品の販売などを手掛ける地域商社」のほかに、銀行の創意工夫次第で幅広い業務を営むことが可能となっています。
出資規制の見直し
次に出資規制の見直しです。
改正前、銀行とその子会社は、合算で国内の一般事業会社の議決権の5%(銀行持ち株会社とその子会社の場合は15%)を超えて取得することは原則禁止されていました。これに対し改正法では、銀行等が出資を通じた企業の経営改善強化のための出資可能範囲と期間の拡充、非上場の地域活性化事業会社に対する100%出資を可能としています。一定の要件のもとで、銀行が出資を通じて地域の「面的再生」などを幅広く支援できるようにすることが狙いです。
また、国際競争力の観点から、銀行が買収した外国子会社・外国兄弟会社については、改正前は買収後5年以内の売却が原則とされてきましたが、これを「買収後10年間は、業務範囲規制にかかわらず、これらの会社を保有することができる」こととし、さらに「現地における競争上の必要性があれば、承認を受けることで、継続的に保有する」ことができるようになっています。
地域金融機関の人材マッチング
こうした銀行法の改正を受けて、銀行等も新たな取り組みを始めています。本日ご紹介するのは、その中の地域金融機関による人材マッチングの取り組みとして進めている、(1)地域企業経営人材マッチング促進事業と、(2)先導的人材マッチング事業です。
大企業から地域の中堅・中小企業へ
1つ目の地域企業経営人材マッチング促進事業は、転籍や兼業・副業、出向といった様々な形を通じて、大企業から中堅・中小企業への人の流れを生み出し、地域企業の経営人材確保を後押しすることを狙ったものです。
この事業には、地域の中堅・中小企業と大企業との年収ギャップを一定程度埋め合わせるための「地域企業経営人材確保支援事業給付金」が利用できます。これは本事業の仲立ちをする地域経済活性化支援機構(REVIC)の保有する人材リストから経営人材を獲得した地域の中堅・中小企業に対し、2年分で最大500万円を一時金で補助する制度です。
ハイレベルな人材ニーズに応える
2つ目の先導的人材マッチング事業は、地域の中堅・中小企業の経営幹部やデジタル人材などの、いわゆるハイレベルな人材ニーズに応えていくことで、企業の成長・生産性向上に寄与することを目指したものです。この事業自体は、すでに2020年度から始まっています。
地域金融機関等が、地域の中堅・中小企業の経営課題や人材ニーズをつかみ、職業紹介事業者等と連携して行う人材マッチング事業(地域人材支援事業)を支援するものですが、最大の特徴は、人材を紹介した後のフォローアップまでワンストップで支援する点です。これは一般の人材紹介会社とは大きく異なっているところです。
東海地方では13、愛知県内に本店を持つところでは5つの地域金融機関がこの事業を行っています。各社の状況やニーズに合わせてご活用ください。
企業を取り巻く経営環境は今後も厳しい状況が続くと想定されますが、金融行政、金融機関一丸となって地域の中堅・中小企業を後押ししていきます。
【文責:事務局 池内】