活動報告

2023年度「情勢と展望」の概要(中編)

日本経済・愛知県経済の動向

日本のGDP、GDI、交易利得の推移(実額)

前回は、世界が低インフレ化した背景と世界インフレ発生の要因を中心に世界経済の概況をご紹介しました。

第2回の今月は、日本経済・愛知県経済の特徴と動向についてご紹介します。

日本経済の概況

2022年7~9月期の実質GDP成長率は前期比マイナス0.8%となりました。輸入価格の大幅上昇による交易条件の悪化により、実質国内総所得(GDI)はマイナス3.7%です。

このGDPとGDIの差は、海外への実質所得の流出を意味します。国外への実質所得流出額は、第2次石油危機をやや上回る大きさに達しています。

他方で、国内で発生した物価上昇率の指標であるGDPデフレーターは、2022年7~9月期に前年同期比でマイナス0.3%となっています。したがって、マクロ的に見た現在の日本の物価上昇は、「慢性的な国内デフレと急性の輸入インフレの組み合わせ」と言えます。

日本における急性輸入インフレは、グローバルなエネルギー・食料価格の高騰と急速な円安進展の組み合わせによって引き起こされていますが、日米の金利格差拡大を背景とした円安進展による交易条件悪化が最近ではひと際目立っています。

大きく進行した円安

円安進展の基本的な要因はドル高です。ドルの実質実効為替レートは、1970年代以来の円安水準に達しています。

日本は、戦後復興期からバブル期あたりまで、原材料を輸入し、それを加工し組み立てて輸出するという貿易立国モデルによる経済成長を志向し、フルセット型の産業構造を構築します。当初は価格競争の激しい汎用品の生産が中心であったため、自国通貨は割安であることが好まれてきました。

今も円安は手放しで喜ばれるものなのか

変動相場制(フロート制)に移行し、かつ日本が先進国入りしても円高は敬遠され、円安が望まれ続けてきました。しかし、幾度となく急激な円高圧力にさらされてきた国内製造業は、為替レートの変動に影響を受けにくい経営体質を目指した結果、価格競争の激しい分野は海外の生産拠点に移管、国内では高付加価値財の生産に特化するという選択をし、今日に至ります。

円安は円建ての輸出金額を膨らませるため、業績改善効果はありますが、その度合いは以前より弱まっています。一方、国内で取り引きされる財は輸入品の浸透度が高まっているため、円安が大きく進んだ際には輸入品価格の上昇は避けられないことになります。この帰結が、今次円安による消費者物価の上昇であり、同時に消費回復の足取りを鈍くさせていると言えます。

実質実効為替レート

中小企業の価格転嫁と収益の状況

今回の円安・物価高は、国内市場を中心とした中小企業の経営を徐々に追い込んでいます。

中同協の実施した調査によれば、原材料やエネルギーなどの価格上昇に対して価格転嫁が実現できた企業はわずかに5%程度で、価格転嫁達成率が3割未満に留まっている企業は約63%に達しています(中同協「DOR 2022年7-9月期・オプション調査」)。

財務省の法人企業統計からは、中小企業が2019年から急激に営業利益を減少させていることが分かります。消費税率の引き上げと、それに続くコロナ危機の影響で業績が悪化したことが要因と考えられます。

一方で、2020年からは営業外収益が急増しています。これは、主として新型コロナウイルスの拡大にともなう、休業支援金や雇用調整助成金によるものと考えられます。しかし、こうした支援施策効果は徐々に剥落していくことは間違いありません。中小企業の経営は営業利益の回復がなければ厳しいことになりますが、円安と物価高による仕入れコストが利益を圧迫している現状にあっては極めて困難です。

信用保証協会 代位弁済の前年同月比推移

3年ぶりに増加に転じた企業倒産件数

こうしたなか、低水準に抑えられてきた企業倒産が増加に転じています。

東京商工リサーチによれば、2022年の全国企業倒産は、2019年(8383件)以来、3年ぶりに前年を上回ることが確実になりました。全国信用保証協会の保証実績推移でも2021年より、代位弁済が増加傾向にあります。これは、ゼロゼロ融資などの制度融資を利用したことで負債が膨らんでいる、いわゆる「過剰債務」問題の顕在化とも考えられます。

2023年は倒産抑制に効果をみせたゼロゼロ融資の利払いが、すべての利用企業でスタートします。収益改善が進んでいない場合は、まさにサイレントキラーとなりかねません。

円安や物価高は、そうした中小企業の資金繰りに追い打ちをかけています。支援効果が剥落し、コロナ危機関連制度融資の返済開始で2023年の企業倒産は増勢ピッチが速まる可能性もあります。

愛知県経済のリスク要因は

総じて、2023年の愛知県経済を見通す上でのリスク要因は、(1)欧米各国の急速な金融引き締めにともなう世界経済の急減速、(2)ロシアのウクライナ侵攻により拍車のかかった原材料価格の上昇、エネルギー・食料品の価格上昇や国内外の金利差を背景とした急激な為替変動がもたらす県内家計および企業への影響、(3)国内外における新型コロナウイルス感染症の動向や国際的なサプライチェーンの乱れによる供給制約と経済活動(生産活動)の停滞が挙げられます。私たち中小企業の主体的努力が試されています。