活動報告

共同求人・共育・障害者自立応援 3委員会合同(12月12日)

対等な関わりから信頼が生まれる
~語り合い、信頼し合い、明日を拓こう!

磯村 太郎氏  サン樹脂(株)

同友会入会から19年、先輩経営者たちとの出会いと気づきから人間尊重の経営を模索してきた磯村太郎氏。人間尊重経営とは何か、未だ漠然と上滑りしていた感が、昨年10月の第22回障害者問題全国交流会in愛知を通じて腑に落ちたとのこと。その気づきを報告いただきました。

報告する磯村太郎氏

先輩たちとの出会いと学び

私は2006年に愛知同友会に入会しました。2009年、障害者問題委員会(現・障害者自立応援委員会)主催の「障害者雇用の集い」に参加し、望月優氏((株)アメディア代表取締役・東京同友会)の報告を聞き、盲目の望月氏の生きざまに深く感動したことを覚えています。

そしてグループ討論の発表で、ある先輩会員が「報告を聞いて、いてもたってもいられない。すぐに会社に戻って知的障害の社員に謝りたい」と、社員の話を切々とされたことに思わず涙がこぼれました。その先輩会員が、この9月に亡くなられた杉浦昭男氏(真和建装(株))です。

この出来事をきっかけに、私は杉浦さんの追っかけとなり、故・豊田弘氏(知立機工(株))とも出会います。お2人は「共に育つとは俺が育つこと」と断言し、愛知同友会の会合では「社員との信頼をどう築いていくか」を常に報告していました。そして、「同友会は金儲けを学ぶ会ではない」と教えていただきました。また、経営指針のイロハは、師匠である徳升忍氏((株)ドライバーサービス)から叩き込まれました。この三河支部の大先輩たちからは多くのことを学びました。

当時の私は、経営指針を学びながら、社員を何とか自分の思うように変えたいと躍起になっていました。そんな私を「まずは自分が育つこと。『俺が社員を変えよう』なんて、おこがましい」と何度も叱ってくれました。

もともと涙もろい性格ですが、中でも真和建装の社員・悟君のエピソードは、お話を聞くたびに泣けてきました。それは、杉浦さんが朝礼で「人間が4足歩行から2足歩行になったのは、その気になったからだ」という話をし、社員に「では、なぜ人間はその気になったと思うか」と問いかけると、皆がうつむく中で知的障害の悟君がサッと手を挙げ、大きな声で「幸せになりたいから」と即答した、というエピソードです。

悟君の気持ちに思いを馳せると、いつも胸がいっぱいになってしまいます。経営の原点は社員を幸せにすること――杉浦さんは常にそう言っていました。

真剣に聞き入る参加者たち

人間尊重ってなんだ?

2023年10月、愛知で障害者問題全国交流会が開催されました。障全交を愛知で開催しようと提案した杉浦さんが訴えたかったことは、「人間尊重の精神を基盤とする同友会会員が、困っている障害者の存在を見て見ぬふりをしてよいのか」ということです。

同友会の先人たちは、戦争中にあらゆる面で抑圧された経営者たちです。1945年の終戦時、ようやく抑圧から解放され、「これからは俺たちの時代だ」と思ったに違いありません。朝鮮戦争が始まるまでの数年間、民主主義の息吹が感じられる中、先輩経営者たちは人間尊重経営の道を切り拓きました。

私自身、人間尊重経営とは何なのかが漠然とし上滑りしている感がありましたが、障全交を通じて、改めて人間尊重経営とは1人1人の「人権」を尊重する経営だと考えるようになりました。「人権尊重経営」とは、すべての人が同じ人間として対等に関わることです。

障害者雇用は、障害者を囲い込むことではなく、余裕ができたら取り組むことでもなく、不自由な部分があれば力を貸し、支え合い、対等な関係を築いていくことだと思います。もちろん、企業家として経営を成り立たせるのは前提ですから、実際には雇用は難しい状況があるかもしれません。だからこそ、まずは関わろうと呼びかけるのが愛知同友会が掲げる「1社1人関わる・愛知モデル」です。

「見えない生産性」とは

障害者と関わることで気づき、自社を変えていくことが大切です。私はつい「給料をアップするにはまず売り上げ増だ」と口走ってしまいますが、これは間違いです。人が生きることが第1で、そのために経済活動があります。つまり、前提は「生産条件」ではなく、「生存条件」であるということです。障害者との関わりは、そこに気づかせてくれます。

「1社1人関わる・愛知モデル」では「見えない生産性」をつくりだすことで、結果として「見える生産性」につながると言っています。「見えない生産性」とは何でしょうか。私はGoogle社が研究して導き出した「チーム生産性向上」の1つ「心理的安全性」が、しっくりきます。

障全交に向けて愛知では全県で学習会を開催しました。菅原絵美氏(大阪経済法科大学教授)を講師に「ビジネスと人権に関する指導原則」から障害者雇用を考えました。「愛知同友会の歴史に学ぶ」では、ベテラン会員の浅海正義氏(みらい経営研究所)から愛知同友会創立時の状況とゆたか福祉会設立の経緯を報告いただきました。「なぜ愛知同友会が障害者に関わったのか」の質問に「困った人を助けるのが同友会」と簡潔明瞭な回答があり、腹にストンと落ちました。お2人の話に共通していたのは「合理的配慮=Reasonable Accommodation」でした。

共同求人活動において、学力テストはクリアするものの就職活動で躓いてしまう若者たちが近年、急増していることを知りました。障害者手帳はないけれど不自由さを抱える若者たちはたくさんいて、周囲の理解と少しの支援があれば、一緒に働く可能性が大きく拓けていきます。

グループ討論からの学びを発表する笠原尚志氏

障害者雇用での気づき

【いろいろな働き方】

2006年、人手不足でパートを4人採用しました。そのうちの1人が少しぎこちない話し方をしており、1年程経った頃に耳が不自由だとわかりました。聞き取りにくいという問題はありましたが仕事はできるので、正社員を勧めました。しかし、社員登用後、どんどん元気がなくなっていきました。

その後、結婚を機に退社しましたが、本人の意向をよく確かめもせず会社側の価値観を優先し、鋳型に嵌めてしまったのでは、と今も忘れられません。人にはいろいろな働き方の欲求があると教わった出来事でした。

【真剣に向き合う】

50社の面接を受け、採用されず1年就職浪人を経験したO君が面接に来ました。アスペルガー症候群で空気が読めず、表情から相手の気分・感情を読み取ることができません。口の形、眉の角度など顔の造作の形を1つずつインプットし、相手の表情を解析しながらコミュニケーションをします。そのため脳が非常に疲れ、作業中に眠ってしまいます。そこで、危険な現場は避け、検査に配置しました。これが適材適所となりました。今は航空分野の仕事も始めたので、海外とのやり取りではO君の語学力が12分に発揮されています。

O君は、一度だけ連絡なく休んだことがあります。深夜まで妹とゲームをし、大幅に寝坊をしてしまったのです。連絡なしの欠勤がどれほど周囲に迷惑をかけるのかを諭しましたが、O君は悪びれる様子もありません。これではいけないと真剣に向き合い、「これは叱責だぞ」と強く叱ったことがあります。それ以来、遅刻は一度もありません。

【働く意味を広げる】

K君はもともとうつ病の診断があって入社しました。周りが自分に配慮するのは当然という態度と、生活のためだけに稼ぐという姿勢は周囲の理解を得られず、K君の居場所を創り出すことができませんでした。

しかし考えてみれば、新入社員にとって最初の働く動機は「稼ぐこと」が一番大きいのかもしれません。そこから働く意味を広げていくのが経営者の仕事だと教わりました。

【あてにされ元気になる】

この春、初めて特別支援学校から知的障害の卒業生を受け入れます。その人の入社前の実習は、頭痛で休みがちな社員に担当してもらいました。すると、実習生に仕事を教えることがその社員のやりがいにつながり、あてにしあてにされる関係の中で、知らぬ間に頭痛が治まり、元気に出勤するようになりました。誰かのために役立つことが健康をもたらすという体験をしました。

こうしてさまざまな社員たちと関わり、「役に立ちたい」という気持ちを阻害する要因を取り除くことが私の役割として肝心なのだとわかりました。その実践が私と幹部社員の人間性を成長させてくれています。

どの命にも役割がある

大学には7年通いました。留年を繰り返さないよう、必ず単位をくれると評判の「仏の佐土原先生」の授業を選択しました。佐土原先生は生物学担当で、ある日、羽蟻の存在意義の講義がありました。

蟻は、生まれながらにして「働き蟻」「兵隊蟻」「女王蟻」「子守蟻」など、それぞれの役割を持っています。しかし「羽蟻」は役割が無く、一見何も役立っているようには見えません。しかし、自然災害で巣が流されるなど、種の存続が危機に迫った時、羽蟻は飛び立ち安全な地に着地して羽を落とし、繁殖して新しい巣を作るのだそうです。

先生は「種を守りぬく、それが羽蟻の役割だ」「この世に必要のない命はない」と話してくれました。「どんな命にも役割がある」という佐土原先生の話は、杉浦さんと意気投合した思い出でもあります。

壮大な同友会運動の中で、未完で逝かれた先輩経営者の皆さんの志を継ぐこと、それが今を生きる私たちの役割だと思っています。

【文責:事務局・岩附】