~「労使見解」50年に寄せて
「労使見解」を起点に全社員での指針実践
高瀬 喜照氏 (株)高瀬金型

1975年の「労使見解」発表より50年の節目にあたり、本紙では愛知同友会の正副代表理事会メンバーの皆さんより「我が社と労使関係」と題してご寄稿いただき、1年間にわたって連載していきます。
私には社員との関係がうまくつくれず、悩んでいた時代があります。ものづくりが好きで1人で始めた会社ですが、社員が増えるにつれ悩みが増えていきました。
人を大切にして社員1人1人が自分の能力を発揮でき、経営者と社員全員が互いを認め合い協力して働ける会社を目指していましたが、実際には経営の問題を、「会社がうまくいかないのは社員が悪い」と思い込み、社員を認めることができず、心の中はいつもすれ違いの状態でした。そんな時に同友会で、「人を生かす経営」を耳にしました。
同友会理念や「労使見解」を学ぶ中で、今まで漠然と人を大切にしたいと思っていたことが、具体的に「人にとって幸せとはどんなことか、認められるとは、どんな状態なのか」と考えるようになりました。そしてやり始めたのが、社員全員が関わった経営指針の成文化と実践です。
我が社では経営指針を作る中で現在の会社の状況を誰もが見えるようにしています。経理公開や、社内や客先からの情報すべてを共有したうえで、課長以上のメンバーで全社方針を示します。その後、各部署が方針を具体化する目標を決めていきます。経営者側から与えられる目標ではなく、社員と経営者で話し合い両方が納得できる目標を立てています。
社員が「自分事」として目標を立てることで社員に自主性が生まれ、1人1人の可能性を伸ばすことができると思います。また、社員の健康や将来の生活を保障するための就業規則や退職金制度も社員と話し合い、段階的に整備しています。一般的に終身雇用の意識は薄れていますが、我が社では社員が安心して長く働くことで生まれる経験値を自社の強みにしたいと思っています。
製造業の経営環境は激変しています。技術革新やサプライチェーンの変化で仕事がなくなり、廃業や倒産する同業者が増えています。そんな中、我が社は新工場を建てるという大きな投資を実行しました。実行するエネルギーになったのは、社員に対する信頼です。今の社員となら時代の波を乗り越えられると信じています。