【特集】労使見解50年
人間尊重の企業経営めざして
今から50年前、1975年1月22日に当時の中小企業家が議論を重ねて「中小企業における労使関係の見解(以下、労使見解)」が発表されました。時代の変化が幾重にもありましたが、現在も同友会の会員経営者たちはこの労使見解を「経営のバイブル」とし、日々の経営に向き合っています。
本記事では、中部経済新聞1月30日号に掲載した「愛知中小企業家同友会特集」巻頭記事を2回に分けて再掲し、この労使見解の歴史や経営者が向き合ってきた課題、その後の展開についてひもといていきます。

10年以上の議論を重ねる
~総資本vs総労働
終戦後、労働運動が活発化するなかで生まれた「総資本対総労働」という考え方は、中小企業の労使関係にも波及し、当時の中小企業経営者たちは激発する労働問題対策に大変苦労してきました。
同友会の全国組織である中小企業家同友会全国協議会(以下、中同協)が1969年に設立されてから、中小企業の労使問題について「統一見解」案の起草と討議が進められ、翌年6月に「労使関係の統一見解(案)」が会内に発表されました。
その後、各地同友会における討議を経て1972年に表題を「中同協がめざす中小企業における労使関係についての見解」案とすることが決定します。
「まえがき」部分の修正案と本文の改正案は決定できず、翌73年に「中同協の生いたちと展望」が採択され、この中の「同友会の労使問題に関する基本的な考え方」として生かされました。
そこから、全国会合での討議や表題の変更などを経て、1975年1月22日に「中小企業における労使関係の見解―中同協」を発表しました。


同友会の貴重な財産
会内外に発表された労使見解。社会の発展とともに中小企業における労使関係も変化していくことは必要であり、労使見解も広範囲な中小企業における労使の数々の経験と試練の上に、より一層発展していくことが期待されました。
当時から同友会会員の多くが自社の労使対立や相互不信に悩み続け、中小企業にふさわしく労使が信頼関係を築きながら経営を発展させることができる道を求めて真剣に悩み、考えてきた長い歴史があります。
同友会運動すべての歴史の過程で中小企業に良い労使関係をつくることが追求されてきたのです。労使見解の一言一句の背景には、多くの先輩経営者たちの悩みと経験が横たわっているといえ、他の中小企業団体にはない貴重な財産となっています。

労使見解の根底には
~4つの「学ぶべき点」
そんな労使見解には学ぶべき点が4つにまとめられています。
第1に経営者の経営姿勢の確立です。経営者はいかに環境が厳しくとも、困難の原因を安易に他に求めて経営を諦めたり、投げやりになったりせずに経営の責任を果たすこと、経営の維持と発展に全力を尽くして情熱を傾けるという姿勢こそがまず大切であることを強調しています。
第2には経営指針の成文化とその全社的実践の重要性です。経営者は英知を結集して長期的にも経営計画を作成し、経営全般について明確な指針をつくることが何よりも大切と指摘しています。
第3は、社員をもっとも信頼できるパートナーと考え、高い次元での団結をめざし、共に育ち合う教育(共に育つ)を重視していることです。
第4として、経営を安定的に発展させるためには、外部経営環境の改善にも労使が力を合わせていこうということです。
つまり、経営のすべての機能を十分に発揮させるポイントは、正しい労使の信頼関係を築くことこそが企業経営の要であり、経営者の重要な責務であるとされています。その根底に流れているのが「人間尊重の精神」と、その具体的実践です。