活動報告

第64回定時総会【第1~第3分散会/全体まとめ】

【第1分散会】
労使の団結をどう創り出すか

座長/明石 耕作氏  (株)トヨコン

明石 耕作氏

社員の生活を保障する

今、賃上げが企業経営にとって必須の課題です。最低賃金の引き上げをめぐっては、昨年の衆議院選挙においてすべての政党が2030年までに「1500円」を達成する意向を示しました。現在、愛知県の最賃額は1077円ですから、単純計算で毎年少なくとも5.6%の引き上げが2030年に向けて起こるということになります。

労働人口が頭打ちとなり、今後さらに減少度合が大きくなる中、実際の企業現場での賃上げ率はさらに激しいものになるとも考えられます。原資が限られる私たち中小企業にとって、まさに死活問題です。とはいえ、確かに社員とその家族の生活を守るためにも賃上げは必須です。

一方で、賃金の高さだけが「豊かに働く」ことを決定する条件となるとも思えませんし、賃金水準で企業を値踏みする社会の風潮にも疑問を覚えます。事実、初任給の引き上げ競争が激しくなる中、当社も2年前から賃金改定をし、全社的賃上げに取り組んできましたが、若年層とベテランに格差をつけたため、かえってモチベーションが落ちた方がいました。また、ある管理職の方は社内業務のフォローの少なさを理由に退職しましたが、転職先では給料は下がるようです。つまり、賃金問題が労使問題のすべてではないということです。

労働者の自発性が発揮される企業づくりについて議論

仕事への誇りと喜びを

私自身は、社員の心の声に耳を傾けきれていないことにこそ、真因があると思い至りました。『労使見解』には、「労働者は『やりがいのある仕事』、労働に対する誇りと喜びを求めている」(8頁)とあります。現在の情勢は私たち経営者に対して、このことにもっと真剣に向き合うことを求めています。そして、その中で直面する経営者としての悩みや葛藤を持ち寄り、地区や支部で議論することが、同友会で学ぶ私たちにとって本当に意味あることだと考えます。

物価、賃金、金利がすべて上昇に転じ、中小企業経営にとっては逆風です。しかし、私たちの先輩は今よりさらに強い逆風の渦中で『労使見解』を生み出しました。今こそその歴史に真摯に学び、徹底した「人を生かす経営」の実践で、逆風を追い風とする「労使の団結」を確かなものとし、「高い志気のもとに、労働者の自発性が発揮される状態を企業内に確立」(5頁)していきましょう。

【第2分散会】
労使共通の問題にどう向き合うか

座長/城所 真男氏  (株)重機商工

城所 真男氏

中小企業の役割・価値への社会的理解を

この間、価格転嫁が大きな話題です。社会的後押しもあり、原材料費や光熱費の上昇分の価格転嫁は以前よりは容易になったといえますが、いまだに労務費の上昇分の転嫁は異次元の困難さを抱えたままです。

経済活動において、売り手と買い手は本来、対等の立場であるはずです。しかし現実には企業規模や資本金規模の違いにより、対等な取引、対等な価格交渉は実現していません。

これは私たち経営者だけの問題ではありません。企業の盛衰に関わる問題であると同時に、社員の暮らしに直結する問題です。『労使見解』にある通り、「中小企業経営者と中小企業労働者とは、同じ基盤に立っている」(12頁)と考えなければなりませんし、問題解決に向けて「積極的に運動することは、中小企業家の責任であり、また自己の経営の労使関係にも重大な関わりがあるのだ、という自覚」(11頁)が私たちに求められています。

分散会では、私たちが直面している取引の「不公正さ」の根本には、中小企業の経済的・社会的役割やその価値が理解されていないことがあると確認されました。この抜本的転換には、社会的理解や合意を形成する努力とともに、経営者と社員が団結し、自らの仕事に自信と誇り、そして確信を持つことが非常に大切であることが共有されました。

中小企業が正しく理解される社会にするための取り組みについて議論

健全な努力が報われる社会の実現に向けて

公正取引の「公正=正しさ」とは、「自主・民主・連帯の精神」に込められた人間の本源的願いの実現です。それが具体的に表現されたのが『労使見解』、「中小企業憲章草案」、「中小企業家の見地から展望する日本経済ビジョン」です。これらを各社の経営指針に盛り込み社員と共有することが、議案「情勢と展望」にある「1円でも高く売り切る」ことに「正しい」意味を持たせることになります。

中小企業の健全な努力が報われる時代を実現することは私たちだけではできません。各地の中小企業振興基本条例と、それに基づく地域ビジョンを地域の人々と描くことで、地域からの広い共感を創り出すことが重要です。この努力が「国民や地域と共に歩む中小企業」につながります。中小企業家の誇りと矜持を改めて確認し合いましょう。

【第3分散会】
人の問題を追求する支部・地区活動で組織経営の実現を目指そう

座長/松村 祐輔氏  (株)BeBlock

松村 祐輔氏

「同友会の基本」への理解を深める

私は同友会活動には3層あると考えています。それは、「土台の同友会活動」(1層)、「実践の同友会活動」(2層)、「応用の同友会活動」(3層)です。1層目は同友会理念と労使見解、同友会らしい企業づくり、2層目は互いの経営体験報告から学び合い、その学びを各社で実践し、それを同友会へ還元する「学びのサイクル」、3層目がこれらを応用・展開し、同友会運動の主体者となる段階です。

昨年度は例年に比べて退会者が多く出ました。この最大の要因は、2層目の同友会活動へ過度に注力している現状にあると考えています。

確かに新入会員は2層目が最初の入口ですが、そこから一層目の同友会理念や労使見解などの「同友会の基本」への理解を、活動の過程で深めていくのが本来です。しかし今は、多くの会員が「同友会の基本」を十分深められず、同友会の神髄に触れずに退会していると思います。実際そのような意見が分散会で聞かれました。

労使見解の本質を学ぶ場をつくることについて議論

労使見解の本質を学ぶ

『労使見解』がまとめられた当時、大卒初任給は1970年からの5年間で実に2.2倍の伸びでした(70年/39900円→75年/89300円)。さらに、オイルショックを起点とした激しいインフレが中小企業を苦しめました。労働者は生活防衛のために待遇改善を求め、労働組合が次々と立ち上がります。総資本対総労働の構図のもと要求を通すためにストライキも辞さずといった状況の中で『労使見解』が発表され、人間尊重の経営が産声を上げたのです。

それから50年。分散会では3点が確認されました。第1は、経営者である以上、人(社員との関係)にまつわる悩みがない人はいないこと。第2は労使見解の本質に迫る学び合いが十分でないこと。第3は、現状、支部・地区では労使見解になかなか触れられていないことです。

これは、私も含め、特に地区・支部・県それぞれの役員が責任を持って全会員へ組織を通じて働きかけることの大切さを意味しています。とりわけ支部や地区の役員会での議論が重要です。常に『労使見解』と経営指針書を傍らに置き、あらゆる場所で深い経営談義を展開しましょう。

『労使見解』は8項目で構成されていますが、もし「9番目の項目」を書く権利が自分にあれば何を書くか。『労使見解』の普遍性を確認しつつ、新たな時代の労使関係を構想する責任も、現代の中小企業経営者である私たちにはあるといえます。

定時総会 全体まとめ

和田 勝氏  トータル・サポート 瀬戸

和田 勝氏

『労使見解』発表から50年を迎えて

68年前、私たちの先輩が「中小企業家同友会」という苗木を日本に植えました。毎年、年輪を刻み、人間尊重を柱とするさまざまな運動を積み重ねてきました。歴史の中で多彩な運動が産声を上げてきましたが、それらはすべて、その都度場当たり的に取り組まれたものではありません。同友会の歴史を重ねる中で、先達の思い、夢、現実の苦しさ、怒り、悔しさなどを紡ぎ、その結晶として作られたからです。

これらの運動は私たちにとって普遍性があります。それは、すべての運動の起点は中小企業の現場、中小企業の経営課題から生まれたものだからです。労使問題、金融問題などの中小企業が直面する課題を皆で議論し、対話を通じ総体として方向性を見出し、運動化することで、歴史をより厚みのあるものとしてきました。

今年は『労使見解』発表から50年を迎えます。今総会のテーマは「人を生かす経営で企業変革し豊かな企業・地域づくりを」です。

分散会の座長報告にもありましたが、賃上げ、金利、労使の分断、不公正取引の是正など、さまざまな課題が私たちの前にあります。それらに対し、労使見解を土台として考え直そうという意見、労使見解に追記できる新たな項目を考えてみようという意見もありました。幸いなことに、私たちには運動の歴史があります。私たちには立ち返る原点がいくつもあるということです。

同友会の歴史に新たな年輪を刻む

労使見解を文章だけで理解するのではなく、その背景と先達が込めた思い、情熱、運動の歴史、そこから生まれた普遍性に想いを馳せなければいけません。

新年度が始まります。新しい年輪を私たちが同友会の歴史に刻みます。冒頭に高瀬喜照会長から「企業を変革し、自ら変化を創り出す主体となろう」と呼びかけられました。さあ、この1年何をしていきますか。

後輩たちがこの2025年を振り返る時、実りの多い1年だったと思えるようにすることが、今を生きる私たちの責任です。道なき野に道を拓く――。中小企業家としての誇りと矜持、そして同友会運動に確信を持って、この1年を共に頑張りましょう。