1人1人と向き合い「あてにし、あてにされる関係」へ
林 康雄氏 (株)林商店

弊社は愛知県江南市にて、ベビー・子ども服、特に新生児衣料や和装の企画製造を行い、国内量販店および専門店向けのOEM事業を展開するファブレス企業です。1992年、私は2代目として入社し、ほぼ同時に中小企業家同友会にも加入しました。
当時はバブル崩壊の影響と、貸し渋りや貸し剥がしが横行し、取引先の倒産が相次いでいました。そんな折に先代が急逝し、私は急遽代表に就任。社内には先の見えない不安が広がり、私は協力会社や古参社員との関係づくりにも苦慮しました。当時の職場には生きがいや働きがいといった空気はなく、社内は常に張り詰めた雰囲気に包まれていました。
そんな中、私に大きな気づきを与えてくれたのが、「人を生かす経営」の実践企業を訪問した時の経験です。社員と経営者が明るく、前向きに働く光景に出会い、衝撃を受けました。「経営指針が必要だ」と痛感し、まずはA4一枚の簡易な指針書を作成し、すぐに社内で発表しました。これが、社員や協力会社との関係を徐々に好転させていくきっかけとなりました。
私自身、仕事や人間関係に不安を抱えていましたが、社員たちも同じで、会社の将来に不安を抱えていたのです。私は心から謝罪し、社員1人1人に向き合うことから始めました。経営は決して自分1人の力で成り立つものではなく、周囲の支えがあってこそだと、あらためて痛感しました。
やがて社員間にもコミュニケーションが広がり、週1回の全体会議に加え、営業会議や企画会議なども社員発案で定例化されました。小規模ながら全員参加型の経営指針づくりが進み、社内の雰囲気は確実に変わっていきました。
今思えば、社員との関係を築き直すことで、私自身も経営者として成長できたのだと思います。「あてにし、あてにされる関係」とは、互いに信頼と期待を寄せ合う関係であり、それが組織経営の土台だと感じています。
弊社のようなファブレス企業にとって、地域の協力工場との信頼関係もまた、経営の重要な柱です。労使見解の実践は、社内だけでなく外部パートナーとの関係づくりにも効果を発揮しています。
より良い社会をつくることが、私たち中小企業経営者の使命です。今後も「労使見解」の実践を通じて、人と人との信頼に根ざした経営を続けてまいります。