活動報告

中同協第56回中小企業問題全国研究集会 in 岩手

【第9分科会】全社一丸で豊かな社会を未来につなぐ

~持続可能な社会を目指す企業活動とは

山本 登美恵氏  富士凸版印刷(株)

山本 登美恵氏
山本 登美恵氏

3月5日~6日に岩手で開催された第56回中小企業問題全国研究集会の第9分科会において、愛知同友会の山本登美恵氏(守山地区)が企業実践を報告しました。その概要を紹介します。

富士凸版の価値体系

当社は1963年に私の叔父が創業しました。当時は「刷れば売れる」時代でしたが、当社はたくさん刷って売り上げを上げることを目的とせず、お客様の現場に入り、課題の根に触れ、共に考え、共に形にすることを大切にしてきました。この創業の精神が当社の強み、ひいては経営理念に受け継がれます。

私は34歳で3代目社長に就任しました。ある時、お客様から「山本さんは経営の勉強をしているの? 羅針盤を持たないといけないよ」と勧められ愛知同友会に入会。経営指針づくりに取り組み、仲間との侃々諤々の議論から現在の経営理念「富士凸版印刷にかかわるすべての人が豊かで幸せな人生を送るために、私たちは情熱をもって最高の技術と知恵を極め、お客様の想いをカタチにします」が生まれました。

経営理念を成文化し、常に立ち返る自分の軸を持つことができました。この経営理念を基に、創業の精神を「創造への挑戦」、当社の社会的使命を「豊かな社会を未来に繋ぐ」、共通の価値観を「共に創造し、共に喜ぶ」と明文化し、私たちの価値体系にまとめました。

理念に基づいた我が社の強み

経営理念を具現化することで、強みを磨いてきました。お客様がどこをめざしているのか、そのために何が必要なのかを徹底的に聴き、お客様の未来を共につくる「ヒアリング力」。お客様自身も知らない強みをお客様としっかり向き合うことで明らかにし、ブランド要素を創る「コンテンツ制作力」。ブランドがユーザーを育て、ユーザーがブランドを育てる、ブランド価値を一方通行でなく循環させる仕組みを構築する「一貫体制力」。以上3つの強みを確立しました。

3つの強みは「想いをカタチに」の理念の体現であり、自社を「ブランド共創企業」と定義できました。おかげさまで当社のお客様はいずれも長期にわたってお取引させていただいています。

時代認識を踏まえ、自社の存在価値を深掘る

情勢認識、時代認識

(1)外部環境(業界、日本社会、地球の視点)

まず業界の先行きです。おかげさまで当社の強みとして確立した企画立案、コンテンツ制作による印刷事業(売り上げの85%)が堅調で、現在は黒字経営です。しかし、業界全体では印刷市場の縮小、価格競争の激化、デジタル化の課題があり、印刷業界の市場は2分の1になると予測されます。

次に日本社会の課題、とりわけ人口減少の問題は深刻です。2000年との対比で2050年には人口が25%減少する推計が出ています。このことは地域経済の疲弊、中小企業の後継者問題として課題が顕在化しています。

そして地球環境。気候変動、資源の限界、成長前提経済への疑問です。地球の平均気温が2度上昇すると、サンゴ礁の99%が死滅、極端な熱波、洪水、干ばつの勃発、生物の30%の絶滅が懸念されます。2050年には日本の最高気温45度が常態化すると言われています。今、本気になって何とかしなければ、負の未来の原因をつくってしまいます。

(2)現在、過去、未来の経営軸

現在の経営軸では売り上げの大半は既存事業で成り立っています。しかし、このままでは先細りになることは明白です。経営理念を将来にもわたって実現するために、新たな経営の柱を確立しなければなりません。自分たちの存在意義を常に問い直しています。

過去の経営軸とは、歴史に学び理想の社会像を描くことです。そのありようとして縄文時代に着目しています。キーワードは循環、共生、分かち合いの社会であり、豊かさの原点はここではないかと考えています。同友会理念の自主、民主、連帯の精神は縄文時代に学ぶ豊かさと相通ずるものがあり、大変共感しています。

未来軸とは2050年を節目とした時間軸です。その時、社会はどうなっているのか。私たちはどうありたいのか。生命としての根源的な豊かさに立ち返る経営をめざしています。

2050年の社会を見据え、各社のあり方を討論

新しい評価軸

以上の時代認識を踏まえ、改めて私たちの存在価値は何かを深掘りしていきました。その過程で当社の社会的使命とは何かを考えた末、「豊かな社会を未来に繋ぐこと」に到りました。地球に存在する生物が共に共存し、支え合う。そんな社会づくりに、私たちの事業を通じて貢献することを掲げました。

こうした価値観に基づいたとき、企業の評価軸が売り上げ×成長率でより良い未来にバトンタッチできる経営といえるのか疑問を抱き、あるべき評価軸の模索が始まりました。そうした中、環境経営の学習会で愛知同友会の加藤昌之代表理事から「人がいることによってどんどん循環し、つながり、再々生ができる仕組みができる経営」という言葉を頂き、これだと思いました。これからの新指標は、リジェネラティブ(循環・再生・持続可能)×ウェルビーイング(社員が満たされる環境/健康・働きがい・自己実現・コミュニケーション)だと確信。経営の羅針盤が定まりました。

未来への3つの大義

新指標に基づき、私たちは次の3つの「大義」が重なる場所に事業を置くという「第2創業」を宣言しました。

(1)地球への大義

人と自然が奪い合わずに循環できる社会を次世代に渡す。気候変動は「環境配慮」ではなく「生存の問題」と捉え、人間の営みを地球のリズムへ戻す役割を担う。

(2)社会への大義

ウェルビーイング(誇り・共創・地域との関係)を起点に経済が循環する社会をつくる。成長や効率が優先されてきた社会構造に対し、人が価値を生み出す新しい企業のあり方を提案する。

(3)会社での大義

「想いをカタチに」を全事業で体現し、未来へ循環する価値づくりを行う。会社は目的ではなく、価値が循環するための「器」である。

私たちは、顧客、地球、社員、地域社会、取引先、株主、経営陣、投資銀行という「8人のステークホルダー」全員が幸せになる経営をめざしています。この8つの資本の最大化がリジェネラティブな経営の体現です。

豊かな社会を未来に繋げる新事業への挑戦

(1)ウェルビーイングの原点

私は虚弱体質であった幼少期、小児科の先生から「人には自分の体を治す力(免疫)がある」と自然療法の指導を受けました。薬に頼るのではなく、生活習慣を見直し、自らの生命力を育てる。この実感が、私の価値観の根底にあります。

社長就任後、1日16時間労働という極限状態が続く中で私を支えてくれたのがシルクでした。最先端技術で精製されたシルクを肌に塗り、摂取することで、私は健康を取り戻しました。この体験が、新事業の「シルクウェルネス」へと繋がっていきます。

(2)シルク環境ウェルネスの実現へ

◆日本の宝「シルク」の再生

シルクはかつて日本の宝でしたが、今や国内の養蚕は絶滅の危機にあります。シルクには免疫力を高める力があり、医療・食用としての最先端技術として大変優れた素材です。私はこの素晴らしい素材を通じて、地球も人も健康でいられる循環をつくりたいと考えました。

◆シルク村構想

私たちは、単に製品を販売するのではなく、「桑の栽培→養蚕→製造→体験」をすべて循環させるコミュニティ「シルク村」を創ろうとしています。岐阜県で「かいこの家(ぎふ清流里山公園内)」の管理運営を開始しました。岐阜県蚕糸協会の技術協力を得て、養蚕技術の試験運用と継承をスタートしています。さらに桑栽培と養蚕を地域と共に取り組めるよう、桑栽培の用地を取得し桑葉の植樹も開始しました。

◆ウェルネス体験

名古屋市内にシルクを体験・学べる店舗「つきのいとぐち」をオープンしました。ここでは食養生や肌養生を体験でき、自社ブランド「moonique(ムニーク)」の容器回収リサイクルなど、廃棄ゼロの仕組みも手掛けています。

◆自治体との協業パートナーシップ

以上を踏まえ、岐阜県高山市などを舞台に、宿泊施設(ホリスティックBIOホテル)、サテライトオフィス、農福連携の場を備えた「シルク村(森のオフィス)」の完成をめざしていきます。

「大義のために命をかけたい」と思える事業を

中小企業家の気概

これまで、人間は自然を奪い、壊すことで経済を回してきました。しかし、人間という最大の脳を持った存在には、その知性を地球全体の循環と調和のために使う責任があるはずです。私は、自社を「壊さない、減らさない」という守りの姿勢に留めず、「再生し、循環させる経営」をめざします。既存事業、新規事業はすべてこの大義にもとづいており、すべての事業を1本に繋げるのが理念です。

私たちは今、歴史の転換点に立っています。2050年、私たちはどのような環境を次世代に手渡しているでしょうか。地域で生きる子どもたちの未来を想像したとき、決して他人事ではありません。最高気温45度の世界を子どもたちに押し付けるわけにはいきません。中小企業家として、この現実にどう向き合うのか。私たちの事業の1つ1つが地球の循環を再生させる力にならなければなりません。

「儲かりそうだからやる」のではなく、「この大義のために命をかけて挑戦したい」と思える事業を創ること。それが経営者の気概であり、最高のクリエイティブではないでしょうか。環境問題、社会課題を理念の中に包括し、1社1社が光り輝く経営を実践していきましょう。