活動報告

「情勢と展望」(緊急・中東情勢)

団結の力で困難を飛躍の機会へ

2026年初以後、米国のベネズエラへの軍事介入、イスラエルと米国によるイラン攻撃が惹起しました。とくに中東での問題発生は、会員企業にも大きく影響を及ぼしています。

このことから、すでに公表した議案情勢(2026年1月理事会)の追補を取りまとめましたので、その概要を紹介します。

米国のベネズエラ軍事介入

米国は2026年初、ベネズエラへ軍事介入を行いました。米国の行動の背景にはいくつかの要因が考えられます。

1つ目は、世界最大の埋蔵量を誇るベネズエラの石油権益の確保。2つ目は、米国の「裏庭」とも評される中南米諸国と中国・ロシアとの結びつきを断ち切ることです。そして3つ目は、今年11月に行われる米国の中間選挙への対応です。

この出来事が世界経済に直接与える影響は、限定的と考えられますが、国連憲章への抵触、国際法違反が指摘され、米国の行動に対して全面的支持を表明したのはイスラエルなどごくわずかな国に留まり、親米国も慎重な態度を表明している国が少なくありません。このことを踏まえれば、今回の米国の行動が、ロシアはウクライナをはじめとした旧ソ連邦諸国への対応、中国は台湾への対応について、より積極的で野心的行動を取る口実ともなり得る恐れがあります。

米国の行動は、中国やロシアにとっては、自国陣営の経済圏確立と、安全保障上の緩衝地域となる同志国の拡張を迫ることになりかねません。経済的・政治的な疲弊から脱しようとするロシアや、対照的に高めた力を誇示しようとする中国との軋轢を高め、国際情勢の激動を加速させる可能性をもはらんでいます。

世界の激震となっているイラン攻撃

ベネズエラへの急襲的軍事介入からわずか数週間後、米国はイスラエルと共にイランへの大規模攻撃を実施しました。これにより、イランの最高指導者ハメネイ師と家族も殺害されたと報じられています。イランは報復として、近隣のアラブ湾岸諸国の米軍基地のみならず、ホルムズ海峡の事実上の封鎖に踏み切りました。エネルギー供給の根幹を揺るがす事態は、世界経済に深刻な影響を及ぼし始めています。

着地点の見えない「不必要な戦争」

今回のイラン攻撃は、識者の多くから「不必要かつ誤った戦争」と指摘されています。

今回のイラン攻撃は、イスラエルが主導し、背中を押されるかたちで米国が動かざるを得なくなったというのが基本的な構図とされます。そのため戦争目的も米国とイスラエルとで乖離しています。

三菱総合研究所の分析によれば、米国側は、軍事的圧力を通じてイランを交渉の場に引き戻し、核開発の放棄を実現するという「力によるディール」を念頭に置いているのに対して、イスラエル側は、イランとの交渉そのものに否定的であり、体制転換を含む、より広範な戦略目標を掲げているとされます。つまり、米国は戦争の「出口」を模索する姿勢であるのに対し、イスラエルは戦争の「深化」を志向していると言えます。したがって、たとえ米国が手を引いたとしても、容易に収束させることは困難と考えられます。

これまで米国は、イスラエルが行う中東での紛争(第1次~第4次中東戦争)に加担してきませんでしたし、逆に米国が介入する中東の紛争(湾岸戦争、イラク戦争など)にイスラエルは参加してきませんでした。相互に仲介役を果たせるよう、役割を分担していたと言えます。しかし今回は、両国とも当事者となっているため、米国が仲介者としてイスラエルを止めることは難しいと考えられます。イスラエルからすれば、この好機に徹底的にイラン攻撃を続けると考えるのが自然です。そして、イスラエルが攻撃を続けるならば、イランも湾岸諸国への攻撃と、ホルムズ海峡の航行も限定されると考えられます。

米国とイラン、交渉の見通し

パキスタンの仲介のもと、米国とイランの交渉が行われています(4月17日時点)。ただし、その影響力には限界もあるため、合意の担保主体というよりも、接触を可能にした「媒介」の役割に留まるものと見るべきでしょう。

一方、湾岸諸国の動向も重要な分岐点です。イラン周辺国は、すでに自国のエネルギーインフラへの攻撃を受けており、忍耐の余地は狭まりつつあります。仮にこれら諸国が直接的な報復に踏み切れば、戦闘はペルシャ湾全域に拡大し、エネルギー供給網は壊滅することになります。この場合、もはや地域戦争へと不可逆的に移行する可能性が高いと言えます。

さらにイランは、正面戦でではなく、イエメンのフーシ派などの代理勢力の活用、海上交通の攪乱、ミサイル・ドローン攻撃を通じて、相手のみならず世界経済全体にコストを強いる非対称戦―長期戦を志向しています。交渉は、短期決戦を想定する米国、体制転換を志向するイスラエル、そして長期消耗戦に持ち込むイランという、3者の戦略的不一致の中で進められることになります。限られた時間で、どこまで合意形成されるか注目されます。

ただし、米国とイラン両国が停戦条件として掲げている内容には隔たりも大きく、交渉がスムーズに進むとは考えづらいのが現実です。中間選挙に向けて幕引きを急ぎたい米国は、実効性に乏しい内容でも交渉をまとめる可能性もありますが、これにイスラエルがどのような反応を示すかは不透明です。

スタグフレーションの懸念

実質封鎖されているホルムズ海峡は、世界の石油の約25~30%、LNGの20%が経由する、資源の世界的なチョークポイントです。通過する石油の89%がアジア向け、残りの11%が欧州や米国向けとされます。LNGも86%がアジア向け、残りが欧州向けです。

今回の中東危機の影響は、エネルギーが伝播経路の1つです。エネルギー価格の上昇は、物価上昇や株価の下落などを通じて先行き不透明感を強化し、企業の投資や雇用抑制に波及し、世界経済の押し下げに作用します。また、インフレ対応のため金融政策には引き締めバイアスがかかることから、低成長・高金利の捩れを世界レベルでつくり出しかねません。それは景気の悪化と物価の上昇が同時進行する「スタグフレーション」です。

エネルギーだけではない中東危機の試練

原油や天然ガスから生成されるナフサやメタンを起点とするさまざまな産業基礎物質の中東依存が大きいことにも注意しなければなりません。とくにアジアで依存度が高い傾向にあります。

ホルムズ海峡の実質封鎖、戦闘による生産設備の損壊による供給途絶が長期化すれば、多くの産業が停止し、国民経済に甚大な被害を与えかねません。

全産業・全業種・全規模に影響が及ぶ

今回の問題は、エネルギー価格の変動だけでなく、その影響の波及が読み切れない点にあります。

まず、製造業からサービス業までの全業種、小規模企業・中小企業・大企業といった企業規模の如何を問わず、強いコスト上昇圧力を受けることになります。さらに、原材料の供給途絶は一層深刻で、生産活動そのものの停止を意味します。

産業基礎物質は多岐にわたり、それらが組み合わされて経済社会の隅々にまで深く浸透しているため、サプライチェーン上ですべてを把握することは極めて困難です。製造業からサービス業まで幅広く、日本経済において逃れられる産業はないと言っても良いでしょう。

進む円安、上がる物価、利上げペース加速への懸念

ドル円相場は3月下旬に160円台まで下落しました。円安の進行と原油・ガスの価格上昇により、日本の貿易収支の悪化を想定し、長期金利は継続的に上昇。1999年2月以来の高水準に達しています。日銀が政策金利の引き上げに踏み切る、さらにはそのペースを早めることも想定すべき射程に入ることになります。

有事こそ、労使の団結で企業と社会を変革しよう

私たち中小企業は、景気循環による一時の不況ではなく、企業の存立を揺るがす構造的危機という、かつてない厳しい情勢下にいます。

いま私たちが取り組むべきことは明確です。

  1. 雇用を守り抜くために全力を尽くす決意を企業の内外へ表明すること。
  2. 正しい情報を社員と共有し、現状認識を一致させること。
  3. 経営理念を労使が改めて確認し合い、健全な危機感のもとで経営戦略の再構築、経営計画の見直しを進めること。
  4. 財務状況の徹底した点検、ムリ・ムダを省きながら必要資金を確保することで、大幅な売り上げの減少局面でも耐え抜ける強靭な経営体質に自覚的に転換すること(損益分岐点を下げる)。
  5. 事業ごとの特性、内容を見極め、資材と供給網を適切に確保し、事業を止めず社会の必要に応え続けられる体制をつくること(必要に応じて、利益率の高い仕事、止めることができない仕事をセグメントするなど優先度をつける)。
  6. 価格転嫁とともに、市場創造に挑戦し、適切な価格設定で、適正な利益確保を貫くこと。
  7. 機会をとらえて、意識的に人材育成を進めること(雇用調整助成金の教育訓練での活用)。
  8. 仲間と声を掛け合い、励まし合い、支え合い、連帯を強めること。
  9. 自助努力で克服できない問題には、仲間とつながり、声を束ね、社会を動かすために行動すること。
  10. 1人で悩まず、勇気を持って相談すること。

団結の力で困難を飛躍の機会へと転じ、中小企業の未来を私たち自身の手で切り拓いてみせましょう。


第65回定時総会議案「情勢と展望・追補」(分析ノート)の本文は、次のリンクよりダウンロード可能です。図表等はこちらからご覧ください。