ナフサショック&インフレ時代は何を変えるのか
~世界情勢の激変をチャンスに変える経営戦略
丸山 博氏 (有)第一コンサルティング・オブ・ビジネス(東京同友会)

7月3日に人を生かす経営推進部門と経営指針推進本部の共催で開催された緊急情勢学習会での、丸山博氏の講演概要を紹介します。
情勢を正しく捉える
アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃や、中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡封鎖のリスクなどにより、エネルギー供給の不確実性が一気に高まりました。ホルムズ海峡は世界有数の原油輸送ルートであり、日本が輸入する原油の約9割がこの海峡を通過しています。そのため、この海峡が封鎖されるような事態になれば、日本経済への打撃は避けられません。
物流の停滞や原油価格の上昇は、ガソリンや電気料金だけでなく、ナフサを原料とするプラスチック製品や包装資材など、あらゆる製品価格の上昇につながります。さらに、輸送・製造コストの増加を通じて、多くの企業の経営にも大きな影響を及ぼします。エネルギー価格の上昇は製造業、建設業、サービス業など幅広い業種に波及するため、それぞれの企業が自社への影響を見据えた経営判断を行うことが求められます。
今回のナフサショックで私たちが改めて実感したのは、日本のエネルギー供給や原材料の調達を海外に大きく依存しているという現実です。世界で起きている出来事は、中小企業の経営や私たちの暮らしに直結する問題として捉えなければなりません。
経営者に求められるのは、世界情勢や経済の変化を正しく理解し、「この出来事が自社にどのような影響を与えるのか」を考え続けることです。

「不透明・不確実・不安定」が常態化
現在は、「不透明・不確実・不安定」が常態化する時代になりました。これまでのように過去の成功体験や経験則だけで経営することは難しくなっています。市場環境や消費者ニーズはもちろん、原材料価格やエネルギー価格、為替相場、さらには国際情勢まで、中小企業を取り巻く環境は大きく変化しています。そのため、「変化しないこと」そのものが最大のリスクになっています。
デフレ時代は、価格競争やコスト削減によって利益を確保する経営が成り立っていました。しかし、現在は円安や物価高騰によるコストプッシュ型インフレの時代へと移行しています。これまでと同じ考え方や経営手法では対応することが難しくなり、経営環境の変化を前提に、自社の経営を見直していかなければなりません。
だからこそ、世界情勢や社会の変化を正しく読み取り、自社の経営戦略を絶えず見直し、再構築していくことが求められます。「何が起きているのか」「自社にはどのような影響があるのか」「今後どのような備えが必要なのか」を考え続けることが、これからの時代には欠かせません。
ナフサショックが教えてくれたこと
ナフサショックは、単なる資材不足や価格高騰の問題ではありません。今回の出来事を通じて改めて感じたのは、「危機の時ほど、それまでの経営姿勢が結果として表れる」ということです。
平時には見えにくい企業同士の信頼関係も、非常時には大きな差となって表れます。日頃から誠実な取引を積み重ね、相手企業との信頼を築いてきた企業ほど、困難な状況でも支え合うことができました。今回のナフサショックは人と人との信頼を基盤とした経営の大切さを、改めて教えてくれた出来事だったと思います。
今回の経験は、サプライチェーン全体を見直すきっかけにもなりました。どこから原材料を調達し、誰と協力しながら事業を進めていくのかを考えること、平時から取引先との関係を深め、安定した供給体制を築いておくことも、これからの経営には欠かせない視点です。
だからこそ、情勢を正しく捉え、目先の利益だけにとらわれることなく、長期的な視点で経営戦略を磨き、人を生かす経営を実践していくことが重要です。信頼の積み重ねが、変化をチャンスへと変える第一歩になると考えています。
誰に、何を提供し、どう選ばれるか
ここからは、これからの時代に必要な経営戦略についてお話しします。
私は「戦略」とは、「どのお客様に、どの商品・サービスを提供し、どう選ばれる会社になるかを決めること」だと考えています。経営戦略は売り上げを伸ばすためのテクニックではありません。自社は何を強みとし、どのような価値を提供する会社なのかを明確にすることが出発点です。
これからの時代は全てのお客様を相手にしようとするのではなく、自社が最も力を発揮できる市場や顧客を見極めることが重要になります。「誰に、何を、どのように提供するのか」を明確にし、自社の強みを必要としてくれるお客様に選ばれる企業を目指さなければなりません。
私はランチェスター戦略の考え方がとても参考になると思っています。大企業と同じ土俵で競争するのではなく、自社が勝てる市場を見つけ、その分野で一番を目指すことです。市場全体では一番になれなくても、「この地域・商品・技術・サービスなら」と言ってもらえる企業になることはできます。
そのためには、自社の強みを磨き続けることが欠かせません。価格競争で勝負するのではなく、自社ならではの技術や品質、サービス、対応力など、他社にはない価値を提供し続けることが重要です。「この会社だからお願いしたい」と思ってもらえる存在になることが求められます。
また、戦略と戦術は混同されがちですが、戦略は「何を目指すか」を決めることであり、戦術は「戦略を実現するための具体的な手段」です。戦略が曖昧なままでは、どれだけ営業活動や販売活動を頑張っても成果にはつながりません。まずは、自社が目指す姿を明確にし、その実現に向けた行動を積み重ねることが大切です。

信頼と付加価値が企業の未来をつくる
物価上昇が続く中では、価格転嫁は避けて通れません。しかし、ただ価格を上げるだけでは、お客様の理解は得られません。価格以上の価値を提供して初めてお客様は納得してくれます。価格だけで評価される企業ではなく、「この会社だからお願いしたい」と思ってもらえる企業を目指すことが重要です。
その価値とは、技術や品質だけではありません。迅速な対応や提案力、アフターフォロー、そして長年積み重ねてきた信頼関係も大きな付加価値になります。お客様の困りごとに真摯に向き合い、期待を超える提案や対応を積み重ねることが、企業としての価値を高めることにつながります。
不安定な時代だからこそ、お客様が求める「安心・安全・信頼」を提供できる企業が選ばれ続けます。価格だけではなく、「この会社なら安心して任せられる」という信頼を得ることが、他社との差別化につながります。その信頼は一朝一夕に築けるものではなく、日々の仕事や取引の積み重ねによって育まれるものです。
経営指針を実践し、人を生かす経営へ
経営戦略を実現するためには、経営者1人が頑張るだけでは限界があります。そこで働く社員が会社の理念や方針を理解し、自ら考えて行動できる組織をつくることが重要です。その土台となるのが経営指針です。
社内で共有し、実践し、改善を繰り返しながら、会社の文化として根付かせていくことが大切です。企業変革支援プログラムでも、経営指針は作成した段階ではまだ端緒の成熟度です。社員と共に実践し、当たり前に活用できるところまで高めていくことが求められています。
経営指針は、会社の進むべき方向を示す羅針盤です。経営者だけが理解していても意味はなく、社員全員が理念や方針を共有し、同じ方向を向いて行動できる組織をつくることが重要です。そのためには、日々の対話を重ねながら、社員全員が経営に主体的に関わる風土を育てていかなければなりません。
また、人手不足が続くこれからの時代は、「採用」と「共育」を経営の中心に据える必要があります。社員を単なる労働力として考えるのではなく、共に学び、共に成長する仲間として育てることが、企業の持続的な発展につながります。社員がやりがいを持ち、自ら考え、行動できる職場づくりを進めることが、企業の競争力を高めることにもつながります。
人を生かす経営とは、人を大切にするだけではありません。社員1人1人の力を引き出し、その力を会社の成長につなげていく経営です。経営指針を実践し、社員と共に成長する企業をつくることが、変化の激しい時代を乗り越え、持続的に発展する企業づくりにつながると考えています。
変化をチャンスに変えるために
世界情勢や経済環境を自分たちの力で変えることはできません。しかし、自社の経営は自らの意思で変えることができます。だからこそ、目の前の環境変化を悲観するのではなく、変化を前向きに受け止め、自社の強みや課題を改めて見つめ直すことが大切です。
また、厳しい時代だからこそ1社だけで課題を抱え込むのではなく、同友会で学び合い、実践を交流しながら、それぞれの会社で経営の力量を高めていくことが重要です。同友会には、同じ志を持つ経営者同士が互いに学び、励まし合いながら成長できる環境があります。その学びを自社の実践へと結び付けることが、企業の未来を切り拓く力になります。「人を生かす経営」を会員の皆様がそれぞれの会社で確立し、同友会の仲間と共にその輪を広げていきましょう。
【文責:事務局 愛澤】









