活動報告

第60回定時総会 基調報告(3)4月22日

同友会らしい「人を生かす経営」で、未来を切り拓く
~コロナ禍だからこそ、同友会運動と企業経営は不離一体

加藤 明彦氏
エイベックス(株)代表取締役会長
愛知同友会相談役(前会長)・中同協副会長

第60回定時総会での加藤明彦相談役(前会長)の基調報告の3回目は、会長になるまでの歩みと気づきです。予定を変更して次回を最終回とし、エイベックスでの経営実践の取り組みを紹介します。

 今までの基調報告

人が成長した分、会社は発展する(エイベックス)
人が成長した分、会社は発展する(エイベックス)

社会教育活動と三位一体の企業づくりの取り組み

社会で学ぶとは?学生に直接語る

名古屋支部長を4年務め終えて、次に廻ってきたのが、産学連携担当の理事で、この2006年から愛知同友会の外部発信が活性化してきました。具体的には、大学の講義への会員の講師派遣とインターンシップ(1998年より会ではスタート)です。

大学講座は現在、県下10数大学からの依頼で、年間100近い講義に60名を超える会員・事務局が講師を務めています。

生きる価値観、働くことそのものの意義、社会で学ぶ意味等を、学生に直接経営者が語り、気づいてもらう良い機会となっています。

社員でもアルバイトでもない研修生

さて同友会のインターンシップは、新入社員でもアルバイトでもない研修生であり、学生の職業観を身につけてもらう社会教育活動です。就職の手段にしないという点が、同友会が行っているインターンシップの基本理念です。

一方で、受け入れ企業としては共育の一環として、社員が先生役を務める中での成長を促す、自社での労働や仕事の価値観の気づきの機会としています。

最近は、1day、2daysといった就職を目的にした会社説明会が「インターンシップ」という名称で行われているようですが、あれは問題だと経団連が言っているように、学生のためではなく企業の都合で行われており、とんでもないことです。

『労使見解』に基づく三位一体

翌2007年から3年間、活動部門(現在の人を生かす経営推進部門)担当の副代表理事になりました。まさに『労使見解』に基づく三位一体(経営指針・採用・共育)の活動推進を行いました。

経営指針推進本部ができ、活動部門会議に組織部門の副支部長に参加してもらうようにもなり、組織内浸透のスタートも切れました。

人は資産 ~リーマン・ショックで問われた同友会理念

3割まで落ち込む売上

その翌年の9月に起こったのがリーマン・ショックです。その時の話は『逆風をもって「徳」とする』という本に詳しく書いてありますが、「人は『資産』」と位置づけました。

外部環境の激変による非常時には、社員を損益計算書(P/L)の「人件費」という費用と捉えず、貸借対照表(B/S)の「自己資本」に相当する「人は『資産』」だという考え方です。

翌年2月には当社の売上げは3割まで落ち込み、人件費をゼロにしても黒字にならないんです。しかし、時間をかけて育った社員がいることが、わが社の強み(資産)です。

ですから、パートを含め全員雇用を維持するとともに、銀行に日参して融資を受け、給与の全額保証と賞与も満額出しました。

クビを切って中途半端なお金を借りて生き残ったって、価値ある社員がいなくては、経済環境が良くなってもすぐに企業は伸びてきません。

リーマン後の急成長の要因とは

社員の生活の安定を図って社員との信頼関係をつくり、「一緒に乗り切ろう」と言ったこのことが、自社にとってリーマン・ショックを早く乗り切ることに繋がります。

それどころか、リーマン・ショック後の方が急激に業績が伸びた、その大きな要因となりました。わずか10年です。当時、社員数は120名くらいでしたが、この10年間で400名になりました。

売上げも16億まで落ちましたが、3年後にはその倍の32億円になりました。社員全員で売上げを戻してくれた以上の伸びです。

現在は年間売上が70億円を超えました。同じ社員なんです。信頼関係ってね、「人を生かす経営」の本に書いてありスーと読み流してしまいがちですが、深い本当の意味での信頼関係で繋がったら、すごい会社ができるってことを、私自身、身をもって体験しました。

リーマン・ショックの教訓が生きる

今回の新型コロナでは、昨年の4~6月は落ち込みました。7月、普段の損益分岐点は87パーセントですが、7割操業で黒字になりました。

その前の2~4月の上旬にかけて、徹底的に目先の原価を下げようと、計画を作ったのですが2割程度しか下がりませんでした。

目標はあと1割、みんなで計画書を作り直し、前年同月比3割まで売上げが落ちても黒字転換できるような計画書ができて、後はみんなで必死になって行動し、徹底的に手を打ちまくりました。

その後、去年の7月からは月次ですべて黒字で来ています。リーマン・ショックで得た信頼関係は、今回のコロナでもちゃんと生きているのです。

同友会らしい黒字企業をめざそう

事務局は「組織内組織」

2010年からは、総務(事務局)担当の副代表理事に自ら志願してなりました。会員と事務局とのパートナーシップ、この課題に1年でしたが取り組みました。

まずは、事務局全員を知ることから始めました。皆さん、どんな考え方で、なぜ事務局をやってるのか、知ることからです。

事務局研修に時間が許す限り参加し、会員としての考え方を述べて、グループ討論等では直接意見を聞かせてもらう、こんなことをやりました。

そこでわかったのが、事務局は愛知同友会の組織の中の1組織、『組織内組織』だということです。事務局は一定の自立性と自主性を持ち、会全体に責任を負い、運動を推進していく、だから事務局独自の指針を作っているのです。

事務局研修に参加させてもらって同友会運動の深さを学びましたし、社員との関係づくりに通じる学びでもありました。

代表理事となって

新代表理事として活動方針の説明を行う加藤明彦氏
(2011年4月20日第50回定時総会にて)

2011年に代表理事になり、自分自身の中で「受ける・固める・深める・広げる・繋げる」と5年計画を作り、務めさせていただきました。そして、私が掲げた活動テーマが「同友会らしい黒字企業づくり」です。

リーマン・ショックの私の経験から、企業はやっぱり黒字にしなければ、社員に対する責任も果たせないし、お客さんに対する対応もできない、ましてや銀行との信頼関係もできない、こんな思いで打ち出した活動テーマです。

「黒字企業」という言葉を巡って、過去には愛知同友会内でも反発があったり、全国同友会の中でも「黒字だったら何をしてもいいのか」といった誤解もあったりしたようです。

これは「同友会らしい」というのがポイントで、それに基づいた企業づくりを行えば、必ずや企業は黒字になるというのが、リーマン・ショックを乗り切ってきた私の経営者としての信念です。

現在、会内の諸調査では7割以上の企業が黒字という結果が出ています。全国企業でいうと、黒字企業が3割という結果ですが、真逆の数字が同友会の活動の成果を如実に表しているといえるのではないでしょうか。「同友会らしさ」を、自信を持って推進しましょう。

「人」中心の経済に

佐藤祐一さんが私の後の代表理事を受けて、「同友会らしい先見企業づくり」という活動テーマを、また今年度から代表理事になった加藤昌之さんが「同友会らしい『人を生かす経営』で自立型の地域企業へ」という活動テーマを掲げています。

いずれも表現は異なりますが、「同友会らしさ」を追求するという点で、求める企業像は同じです。

さて、リーマン・ショック時は「金」中心の経済だったのですが、今は、「人」中心の経済です。「人」中心というのはお客さんも人、社員ももちろん人です。社内の社員だけを見ての「人を生かす経営」じゃありません。個々に結びつくお客様、そこを理解して運動を進めてほしいと思います。

同友会への高い期待と信頼に応えて

道なきみちを

代表理事を受けていた5年間で、経営指針成文化では支部ごとに「入門編」が開催されるようにもなり、この運動の広がりをつくることができました。

また、2012年7月9日には愛知同友会創立50周年を迎え、記念行事での歴代代表理事とのパネル討論で会の歴史を振り返りました。

この時、『道なきみちを~愛知中小企業家同友会50年史』が出版されました。先人たちが全国同友会の中で果たしてきた先駆的な足跡が記述されており、ぜひ、ご一読いただきたいと思います。

「時代の真ん中」に

2016年から会長となり5年、今回の総会で退任させていただくわけですが、力を入れさせていただいたのが、特に行政に私ども中小企業を理解してもらう活動です。

主に、中部経済産業局、東海財務局、愛知労働局、愛知県、名古屋市等に関して、私自身、関係する様々な公職にも就かせていただきました。

就任案内や異動表敬訪問、新年挨拶回りなど、10年前から杉浦三代枝会長(当時)と一緒に訪問してきました。

訪問等をして思うのは、愛知同友会に対して自分たちが思っている以上に、行政サイドからは、高い期待と信頼が寄せられていることです。対外的にも同友会運動が、「時代の真ん中」を歩んでいる証だと思います。

幸せで豊かな年月

46歳で同友会に入会し、それから28年、幸せで豊かな年月を送らせていただきました。なぜならば、「自主的」「主体的」に学ぶ前向きな姿勢を持っていたからだと思います。

本日、名誉会員になられた鋤柄修さんと同じ気持ちで、以降、相談役として、死ぬまで同友会を続けていきたいと思います。同友会に感謝!

【文責:専務理事・内輪】