活動報告

障害者自立応援委員会「同友会理念の実践と障害者と共に働く(後半)」(2020年11月10日)

高瀬 喜照氏  (株)高瀬金型

高瀬 喜照氏

先月号に引き続き、障害者自立応援委員会での高瀬金型・高瀬喜照氏による報告の後半を紹介します。

働きながら成長する

障害のある社員のこと

障害者雇用は特別なことではないですね。だから、特に何をしているということはありません。障害者手帳を持つ社員は現在5人いて、全員が正社員です。

最初の採用は、やけどで手に障害が残った人で、入社して22年になります。ひきこもりでうつ病の診断を受けた社員は17年になります。あと、特別支援学校卒の兄弟が2人、聾学校卒の社員が1人。パーキンソン病の社員は、仕事中に痙攣が起きて危ないので、今は会社に籍を置いて休んでいます。

みんな、それぞれの事情を背負って生きています。その中で会社の大事なポイントとなった出来事を紹介します。

引きこもりだったAちゃん

人の運命は本当にいろいろあります。Aちゃんは、17歳くらいの時に母親が病気で亡くなり、その1週間後に父親が事故で重度の身体障害者となり、それ以来ひきこもってしまいました。

何とかならないかと相談を受けて採用したのですが、数年間はほとんど会社に出てこられませんでした。うつ病の診断結果を持ってきたこともあります。歯は虫歯のため口の中は真っ黒で、身辺処理がうまくできないこともありました。しかし、社員は「Aちゃん、Aちゃん」と呼んで、本当によくかわいがって面倒をみてくれました。

そのうち、Aちゃんと2人暮らしをしていた妹が10代で妊娠し、未婚の母となりました。それをきっかけに、彼女が変わってきました。自分が伯母になり、しっかりせねばと思ったのか、食わせていかねばと思ったのかわかりませんが、すごくしっかりしてきたのです。今、40歳になり、毎日元気に出勤しています。

こうしたAちゃんの姿を目の当たりにして、人は協力し合って生きていくのだ、人は変わることができるのだと嬉しくなりました。そういう経験が、障害者雇用にもつながっています。

特別支援学校卒の兄弟

特別支援学校出身の兄弟2人は、父親はおらず、母親はうつ病で、85歳のおじいちゃんが面倒をみています。

最初は、弟が自社にインターンシップに来ました。最終日に反省会を終えて先生が帰ると、おじいちゃんとお母さんが残っていて、「この子の兄が自閉症で知的障害があり、働く場を探している」と言うのです。偶然にもおじいちゃんは金型屋に勤めており、そんなよしみでお兄ちゃんを採用しました。

翌年、大手スーパーに内定していた弟も、「高瀬金型に行きたい」と言い出し、おじいちゃんも大賛成で、内定を辞退してわが社にやってきました。

みんな、働きながら変わってくるのですね。お兄ちゃんは、認められたいという気持ちがすごく強い子です。会社の慰安旅行の懇親会でカラオケが始まると、モジモジしているので、私が「ステージで歌ってこいよ」と勧めると、さーっと前に行って大きな声で歌い出しました。

それが、すごくうまい。みんなびっくり。それからは、宴会で必ず歌っています。仕事も楽しそうにやっています。そういう付き合いの中で「みんな同じなんだなあ」とわかってくるのです。

高瀬金型が製造している医療用部品・半導体製造装置部品

高瀬金型の未来

「やれない」では何も進まない

障害のある社員たちも、自然にやっていく中で、できる範囲が少しずつ広がっていきます。やっていくと、ここまでできるとわかってきますね。そして、やり出せば何とかなっていくものです。何でもそうですが、「やれない」では何も進みません。

自分も最初は何もできませんでした。でも、同友会に入って学び、取り組むうちに、社員も3人から100人に増えてきました。そういう姿勢を次の人にも引き継いでもらいたいと思っています。ある意味、これも経営理念ですね。

障害者雇用について、社員との軋轢はほとんどありませんでした。自社はもともと厳しい雰囲気ではなく、和気あいあいとした会社です。仕事もいろいろあるし、パートを正規雇用にするなど、一緒にやっていこうとする風潮があります。

障害のある社員が、トイレを汚したり、女性社員にくっついていったりと、細かい出来事はありますが、大らかに構えています。かつて社員から、障害者と待遇が同じであることに不満が出た時は、私がリーダーシップをとりましたが、今はそのようなことはありません。

社員が辞めない会社

障害のある社員で退職した者はいません。社員を育てるには、誰もが辞めない会社にしていく必要があります。それには態勢も必要ですし、長い目で見て育てることも大事です。これは障害者に限らず、特に今の若い人には不可欠なことだと思います。

社員から、「障害者をさらに雇用していくのか?」という声もあり、女房も「今は良いけれど、次の代も同じようにできるの?」と心配します。

でも、障害者と一緒に働くと良い面がたくさんあるのですね。だから、次の代に経営理念を引き継ぎ、会社を安定させなければなりません。

そのためには競争力が絶対に必要です。みんなが安心して働くことができるよう、他社ではできない技術を磨き、競争力を高めていきます。

社員全員の集合写真(西島新工場の前で)

その人らしく生きる

今後は、「99ビジョンの具体化」と「SDGsの実現」に取り組んでいきます。新型コロナウイルスの感染拡大で、これからの社会は大きく変わると思います。格差が広がり、問題も起きるでしょう。国連がSDGsで目標を示しましたね。「貧困を無くそう、すべての人の健康と福祉を」など17項目あります。人間が幸せに生きていくことができる社会を目指していかねばなりません。

そのためにも「自立型企業」と「地域密着」が大切になります。自立型企業を目指し地域社会と共に歩む。「99ビジョン」は、これからの社会と一体だと思っています。

その中で、障害者雇用は特別なことではありません。雇用は、技術的には少しハードルがあるかもしれません。しかし、この先、自分や家族の身に何が起きたとしても、みんなで協力して生きていける社会が必要なのです。

障害者自立応援委員会では「障害者問題は同友会の1丁目1番地だ」と発信していますね。本当にそうだと思います。「自主・民主・連帯」の中心に障害者が位置づきます。

「その人らしく生きていくことができる」、それは同友会理念の中心を成しており、人間にとってとても大切なことだと思っています。

【文責:事務局 岩附】