活動報告

人を生かす経営推進部門 第2回「労使見解」を深める学習会(7月13日/後編)

共に育つ以外 わが社の道なし
~社員と共に育つとは

杉浦 昭男氏  真和建装(株)

先月号の前編に続き、第2回「労使見解」を深める学習会の後編を掲載します。報告者の杉浦昭男氏と参加者の皆さんとの問答から「社員と共に育つ」経営姿勢を深めました。

杉浦 昭男氏

問答で深める「社員と共に育つ」

【問1】横領した社員への対応を、他の社員はどう思っているのでしょうか。解雇すべきではないでしょうか。

私も他の社員への影響が心配だったのと、当人に対する怒りで一旦は告訴を考えました。30年という長い年月、彼が会社に立ちはだかる高い壁に共に立ち向かってくれたこと、円高不況の中、給与の大幅カットの時も共に頑張ってくれたことを思い、迷いに迷いました。そして、決断を30年近く同友会で切磋琢磨し、ライバルとして競い合った知立機工の豊田弘さんに委ねました。「会社で起きたことはすべて経営者の責任」という豊田さんの返事は、実は私の想像通りでした。

横領した社員を辞めさせないと決断した以上、内外にかん口令を敷きました。私と豊田さんの決断は、大半の会員の皆様には理解してもらえないかもしれませんが、先人たちの理想、先輩たちからのアドバイス等が、2人が想う理想的経営者像をつくり上げたかもしれません。

私は、常に同友会の学びを会社に持ち込み実践していたので、社員は「うちの社長らしいな」と私の決定をしぶしぶ許してくれるだろうと、勝手に混乱した心の整理をしました。ちなみに、社員からの不満は、私には聞こえてきませんでした。

【問2】 会社で起きたことはすべて経営者の責任とのことですが、社員が社外で不祥事を起こした場合は。

自社の社員が起こした不祥事は、たとえ社外の出来事であっても経営者に責任の一端があると思います。本人の処分については害を被った側に委ねますが、できるだけ軽くしてもらえるようお願いすると思います。

【問3】「経営者と社員は対等ではあるが同等ではない」という意味は。

例会報告で「経営者と社員は同等ではない」という話をすると、参加者は一様にウンウンと首を縦に振りますが、私の考えていることと参加者が考えていることにずれがあるかもしれません。

私たちは経営者権力という絶対的な力を持っています。採用、昇給、減給、解雇と、社員の人生を左右することができる立場にあります。社員には労働基準法と就業規則がありますが、圧倒的に経営者が有利です。経営が悪化した時、減給や解雇は法律とて無意味なものになり、しわ寄せは常に社員に向きます。

「同等ではない」と思うのは社員側にあり、経営者と社員の間にある「埋めて埋まらない溝」を少しでも細く縮める作業は、経営者側にあると私は思います。

経営者(左)と社員(右)の間にある溝を埋めるには(杉浦氏による図解)

【問4】同友会は「すずめの学校」とよく言われますが。

この会には、指揮棒を振ることを嫌い、カリスマをつくらないという原則があり、その上で「向上心無き者は去れ、学び実践せよ」と言います。そして、2次会こそが本音の同友会で、飲んで一見お遊戯をしているように見えますが、そっと覗いてみると侃々諤々の経営議論。それも同友会理念・精神を語り、経営の課題を語り合うことで、自社の経営を磨く。そして社員(生徒)と一緒に「天は自ら助くる者を助く」自主・民主・連帯を学んでいます。同友会は、「めだかの学校」でも「すずめの学校」でもなく、「同友会の目指す経営者像を学ぶ学校」だと思います。

同友会は、多くの会員が課題や情報を持ち合い、いつの間にかそれぞれの個性を大切に経営しながら、「同友会と自社は車の両輪」の名文句で、鞭も持たず、会の理想で導いていきます。それも大勢でがやがや楽しい環境をご丁寧につくっています。私たちは、先人の術中(策略)に見事にはまってしまいました。

【問5】レジュメに「科学性(化学性)」とあります。それぞれの意味や関係性を教えてください。

私どもの会社は塗料を扱っています。塗料メーカーは「化学(バケガク)」、すなわち組み合わせによって元素が変化して新しい塗料が生まれると聞きます。「化学」は、物質の組み合わせで変化させる。一般的に使われる「科学」は、自然や人間社会にあるいろいろな関係を研究し、法則や真理を見つけ出し、それを応用するものです。

30数年前、同友会大学の卒業式で学長の石井正雄さん(東海EC初代社長)に、「今日の我は昨日の我にあらず、明日の我は今日の我にあらず日々革新」のメッセージ付きサインを個人的に頂きました。以来、私は「経営者は化けなくては」と化学の文字を使います。

もちろん、決算書を読み取る作業をし、科学的に経営を考えることは重要です。リンゴが木から落ちるのを見た科学者、雷が落ちる時に稲妻が光るところを見た科学者、目の前に起こった出来事から発想し、今や世界に知らない人がいないほど有名な科学者たちがいます。

経営の大半においては、このような科学が大切かもしれません。しかし、同友会の学びは「化学(バケガク)」を学んでいるような気がしてなりません。

【問6】「科学性60%、社会性と人間性で20%、残りの20%は経営者の人生観」、杉浦さんにとって残りの20%とは。

残った20%は、こう考えます。私は、経営は自分自身の生きる証の1つの手段と考えています。成功すれば社員や社会、多くの人に貢献できる喜びが待っています。しかし、日本の人口の一握りしか経営者を続けられません。創業30年を過ぎると90%の企業が廃業や倒産に見舞われる厳しい世界でもあり、リスクは常につきまといます。

時として経営者の自分は人より偉いのではないかと勘違いをしたり、社員をアゴで使い優越感を持ったりするなど、人間としての自分を見失うことがあります。もしそうなってしまうとしたら、次に生まれてくる時は経営者にはなりたくありません。

残りの20%は、一個の人間として、「経営者杉浦」ではなく「人間杉浦」として生きる価値。それは、「あの人に出会えたから、今の杉浦昭男がある」と言える人生でありたい。これを自分の生きる価値観として生き抜けるなら、次に生まれてくる時も経営者として生きたい。

私の人生観には、経営者としてのプライドも見栄もありません。経営者として成功したかどうかではなく、人間らしく生きたかどうかです。

【問7】社員には背中を見せると言われましたが、社員との関係をどう考えていますか。

私は同友会の仲間から「アナログ男」と言われます。もうデジタルの世の中、背を見せることで、人が、社員がついてくるなんて古いと言われます。

喜怒哀楽は顔にも出ますが、背中には正直な感情が出ます。経営者は常に社員の先を歩きます。社長が泣いてくれている、喜んでくれている、怒ってくれている、考えていてくれる……社員には見えています。感じています。時代がどんなに変わろうとも、人間の喜怒哀楽の根源は変わらないと思います。

実績や科学的根拠で社員を引き付けることを否定するものではありませんが、30年くらい前、大学の新卒が採れない時代、京都で開催された中小企業問題全国研究集会で、就職事情に詳しい労務士の報告がありました。

その報告では、「調査をすると、大企業志向の大学生ばかりではない。中小企業を希望する学生は、経営の中心的役割が果たせる魅力を感じている。しかし、ワンマン経営者が多い、公私混同をする、儲けた金を遊びに使うなど、人間的魅力に欠ける」と分析していました。

以来、社長の魅力とは何かを追求し、労務労働委員会にも参加し、同友会の社会性、人間性を徹底して学びました。そして、自分の魅力を背中に書き込みました。背中に書いた社員へのメッセージが、時として外れていないか、嘘をついていないかを映すよう、常に合わせ鏡を持っています。アナログ過ぎるでしょうか。

1990年・第20回全研(京都)での学びから作成した11か条

【問8】社員間で生まれる不満や反発する社員に、どう向き合えばよいでしょうか。

同友会に入る前まではわが社も同じようなことがよくあり、それが原因で会社を辞めた人もいます。同友会に入会してから、1泊研修を始め、毎週月曜日の全体朝礼では2人ずつ好きなことを言ってもらいます。30年は続いています。

社員には、上役に不満を聞いてもらうことで腹の虫がおさまる人もいます。その人の性格によっては、直接言うこともありますが、社員の自主性・社内の民主性・会社一丸の連帯の風土づくりに努めてきました。何よりも社員の自主性は、生きる喜びや幸せに直結していきます。こういう風土ができる過程で、私も社員も悩みが少なくなってきました。

【問9】事業承継の候補選びと準備はどう進めましたか。

単なる交代ではなく承継をするなら、できるだけ早いほうが良いと思います。私は早くに候補者を決め、長い時をかけ、自分の経営者としての生きざまを見せてきました。ほとんどが人としての教育に力を入れ、社員に支えてもらうことを2人の息子に教えてきました。

長男に継がせる腹は決まっていましたが、事故で急逝し、2歳違いの次男が高校3年の時に入社することになりました。次男も大変でしたが、私も1から「人間性とは」を叩き込みました。バトルもありましたが、「生まれる時も死ぬ時も人間は1人。途中は多勢いると思うな、途中も1人。その考えの上で、周りの人が支えてくれる生き方をせよ」と息子に言い聞かせています。

【問10】壁にぶつかった時の杉浦さんの人生哲学、判断基準を教えてください。

17歳の時、壁を乗り越えられず、その行動に出た時は絶望的でしたが、「潜在能力は誰にでもある。可能性は無限だ」と諭され、どんな壁も乗り越えてきました。目の前に歩きやすい道と歩きにくい道があったら、歩きにくい道を選べとよく言われました。

私の人生哲学は、「門より入るもの是家珍にあらず」です。これは、人間が持つ五感(目、耳、鼻、口、肌)から入ってくるものは、どんなに素晴らしいものでも、それは本当の宝物ではない。宝物は心にある。心で自分の宝を探せ。うわべのものに左右されてはいけない、そういう意味なのです。

【文責:事務局・岩附】

※訂正とお詫び

先月号の本欄(前編)の報告内容で、文中にある「新商品開発」は、「他社との共同開発」ではなく「真和建装独自の開発商品」でした。ここに訂正し、お詫び申し上げます。