活動報告

人を生かす経営推進部門 第2回「労使見解」を深める学習会(7月13日/前編)

共に育つ以外 わが社の道なし
~社員と共に育つとは

報告者/杉浦 昭男氏  真和建装(株)
聞き手/馬場 愼一郎氏 データライン(株)

今年度の人を生かす経営推進部門では、「労使見解」を学ぶ場が欲しいという声に応えて、じっくりと深める学習会を6回講座で開催しています。

7月13日に行われた「第2回『労使見解』を深める学習会」の概要は8月号で掲載しておりますが、今月号から2回にわたり詳細を掲載いたします。
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半世紀の経営者人生から語る杉浦氏

社員との約束

私が、まだ同友会に入会していない頃のことです。仕事を終えた帰り道、軽4トラックの中で急に社員が怒った口調で、「毎日残業続きで、土日も出勤。こんなに仕事ばかりじゃ、人生を楽しむことなんかできない」と言い出しました。唐突に不満をぶつけられ驚きましたが、私はこう言いました。

「俺もそう思う。しかし、残念ながら零細企業は大企業と違い、身を粉にして働かなければすぐさま立ち行かなくなる。言いたくはないが、日本の仕組みの中ではそう働かざるを得ない。ただ、君たちが応援してくれるなら、残業や土日出勤を減らし、良い会社にしていきたい。俺を信用してくれるなら一緒に頑張ってほしい」――これが50数年前に交わした社員との約束です。

それ以降、社員に嘘つきと言われないよう一生懸命にやってきました。その社員は今も働いており、80歳まで頑張ると意欲満々です。

「教育」と「共育」

同友会に入会し、「社員と一緒に会社を大きくする」という基本的姿勢と出合うことができました。冊子「同友会がよくわかる」を読んだ時には、同友会は社員と共に社会を支える運動に取り組んでいるすごい会なのだと衝撃を受けたのを覚えています。

2代前の代表理事であった加藤明彦さんと、愛知同友会で言う「三位一体」について意見を闘わせたこともあります。加藤さんは、「三位一体は、採用・共育・経営指針」と言われました。私は「社員と共に育つ『共育』は、三位一体には入れるべきではない」と反論し、討論になったのです。社員を教育する、これは経営者がやらねばならない仕事です。人を育てる「教育」であれば三位一体に入れてもよいでしょう。しかし、社員と共に育つ「共育」は、経営者の姿勢であり、同友会の1丁目1番地です。読みは同じ「きょういく」であっても、性格や位置づけは全く違うと思うのです。

「人間尊重」の土壌に芽生えた「労使見解」と「共に育つ」

「共に育つ」は経営者の覚悟

同友会の起源について、私の持論をお話しします。同友会の先人たちは、戦後の荒廃した土地を「人間尊重」へと土壌を改良し、そこに希望の種を蒔きました。やがて、その種から初々しい双葉、「労使見解」と「共に育つ」が芽吹き始めます。

「労使見解」は、人間尊重の立場から、社員と経営者は対等であり、上下はないという考え方がまとめられています。会員であっても「社員と経営者が対等なはずはない」と、そう言う人もいて耳を疑うこともありますが、私は「対等であるが、立場上同等にはなれない」と考えています。なぜなら、片方は少しでも多くの給料が欲しい、片方はできるだけ費用を抑えたいからです。対等ではあっても、雇用する側の立場と働く側の立場は違い、双方の間にある溝を少しでも埋める努力をするために「労使見解」があるのです。

会員の中には、「うちの社員の中に、共に育とうと思ってくれる奴なんかいないよ」と愚痴る人がいますが、勘違いをしてはいけません。雇用した以上は、少々首をかしげるような社員であっても、生産性に欠ける社員であっても、共に育ち共に生きようとするほかわが社の発展はない、という経営者の覚悟が大前提といえます。

難関を切り抜ける力

愛知同友会に、「同友会大学」という学びの場がありました。もしこの大学に行かなければ、私は、数億のお金を借り、工場を建て、新商品を開発し、全国販売に挑戦するということはなかったでしょう。

この新商品開発は、他社と連携し共同開発をしたものでした。ある時、商品を出展した展示会場に、共同開発をした会社の研究員2人がやってきて、「真和建装の商品は、うちの特許に足を乗せていますよ」と得意気に言い放ちました。そして、「うちが訴訟を起こしたら、5億、6億は、社長に負担してもらうことになる」と迫ってきました。

再度の話し合いの場で、共同開発をする時の両社の覚書を見せると、研究員は真っ青になり帰っていきました。後日、その会社から料亭に呼び出されて行くと、研究員が畳に頭を擦りつけて謝ってきました。特許が下りたら真和建装も共同で使うということで一件落着しました。

なぜこういう形で難関を切り抜けることができたのか。それは、同友会で総合的に「科学性、社会性、人間性」を学んできたからです。会社が平穏無事な時は、それなりに回っていきますが、「いざ鎌倉」という本当に大変な時こそ、経営者の力量が試されます。会員であれば、困難な時こそ、同友会で学んだことが生きてきます。

指針、教育、採用、金融など、関心のある課題だけに特化して学ぶのではなく、総合的に「科学性、社会性、人間性」を学ぶ姿勢が大切だと思います。

同友会大学で学び確立した真和建装の経営理念

《対談》

50年超の経営者人生

【馬場】 今日のテーマ「共に育つ」を深めていきたいと思います。

同友会ではよく「社員と共に」と言いますが、会社ではきれいごとでは済まない出来事が起こります。杉浦さんの半世紀を超える経営者人生を振り返ってどうですか。

【杉浦】 たくさんあります。中でも私が三河支部長の時代に、わが社の経営理念「共に育つ」の看板を下ろさねばと思うほどの出来事が起こりました。社員が多額の横領事件を起こしたのです。一生懸命にやってくれる社員の手前、横領した社員の処分をどうすべきか迷いに迷いました。

ミスター同友会と言われる知立機工の豊田弘さんに相談すると、「とろいこと言っとるな」と一喝されました。「社員を育てるのはお前の責任。社員を犯罪人に仕立てたのはお前だ」と叱られ、私は告訴も解雇も留まりました。しかし、その社員は針の筵だったのでしょう。自ら会社を辞めたいと願い出て、月々の返済を約束し退社しました。それから今でも、その約束は守ってくれています。

会社で起きたことはすべて経営者の責任、そう先輩たちから教わってきました。同友会は、切磋琢磨できる身近なライバルや、尊敬できる身近な先輩たちによって自分が高められると言います。私は、豊田さんと出会うことができて本当によかったと思っています。

どんな社員も育てる覚悟

【馬場】 「共育」は共に育つ経営者の覚悟、「教育」は教え育てる経営者の責任。時には社員の首に縄を付けてでも教えなければならないことがあります。その「教育」と「共育」をごっちゃにしてしまうと、社員に対して厳しさに欠け、責任が果たせなくなります。また、「共育」や「経営指針」を金儲けの手段と捉えてしまう人もいます。

【杉浦】 ある会合で報告をした時、「杉浦さんは、どんな社員でも採用した以上は共に育つ覚悟を持つと言うが、社員側にその気持ちがあるのか」と質問がきました。出会った時から、「この社長と共に育とう」と思う社員はいません。この社長についていけば俺は幸せを手にすることができる、そう思えた時、社員に「共に育つ」思いが生まれてくると信じています。

「共育」も「経営指針」も経営者の覚悟です。会社を発展させるための道具ではなく、社員を幸せにするための道具です。同友会は「企業の継続的発展」と言いますが、そのためには永続的に社員を教育することが必要です。そして、そこに共に育つ風土が生まれてきます。

私たちは、社員と共感・共鳴し合える関係を築くために同友会で学びます。社員の幸せはこの手の中にある、社員の心は俺が鷲づかみにする、それくらいの勢いがあってもよいのではないでしょうか。

経営者はリスクを怖れない

【馬場】 杉浦さんの経営実践を裏付ける科学性の部分をお聞きします。リスクを怖れず新商品を開発した当時の決意、社員の様子をお聞かせください。

【杉浦】 同友会大学で学んでいた当時、わが社は年商5億円程度の会社でした。講師たちの「リスクを怖がる奴は経営者になるな」「経営者になるならリーディングカンパニーになれ」「君たちが日本を背負って立つのだ」という叱咤激励に奮い立ち、新商品の開発を決意しました。

そんな私を社員は、「夢に向かって挑戦してください。失敗したら、地下足袋履いて一緒に1からやり直しましょう」と後押ししてくれました。

開発した商品が雑誌に掲載され、東京の大手企業から声がかかるたびに私は現地へ飛んでいき、会社を不在にすることが多くなりました。ある日、宿泊したホテルの窓から外を見ると、眼下に東京都庁がそびえ立ち、大きな陸橋の上を背広姿の商社マンが行き来していました。

それを眺めているうちに、涙がぽたぽたと床に落ちました。「自分の趣味のような商品開発に資金をつぎ込み、社員を路頭に迷わしているのではないか」、そんな思いが溢れてきたのです。労使見解と出合わなければ、この涙はなかったかもしれません。

「社員を大切に」と言うと、社員を猫かわいがりし、社員に「さん」までつけて呼んでしまう人もいますが、そういうことではありません。社員がいざという時に経営者が支える、経営者がいざという時に社員が支える、これが「労使見解」と「共に育つ」です。

経営者の成功とは

【馬場】 最後に、経営者の成功とは何だと思いますか。

【杉浦】 現社長に事業承継する時、社長交代ではなく、私が築いてきた真和建装を継ぐことを確認しました。もし、自分だけが贅沢をしたり、公私混同をしたり、社員をないがしろにすることがあれば、すぐに社長の席から引きずりおろすと宣言しました。あれから10年ほどが経ちますが、現社長は十分にその責任を果たしてくれています。

経営者の成功とは、黒塗りの車に乗ることや、錦の界隈で贅沢をすることではありません。社長と出会えてよかった、真和建装で働けてよかったと言ってもらえること、社員が幸せでいてくれることが、何よりも成功であると思います。

忌憚のない突っこみで掛け合う杉浦氏(左)と馬場氏

【文責:事務局・岩附】