活動報告

人を生かす経営推進部門 第6回「労使見解」を深める学習会(3月2日)後編

「労使見解」の正しい理解と実践を
~同友会運動の歴史と理念(後編)

加藤 明彦氏  エイベックス(株)

「教育」ではなく「共育」と語る加藤氏
先月号(前編)に引き続き、第6回「労使見解」を深める学習会で行われた加藤明彦氏による報告を掲載します。

同友会の本質は「労使見解」にあり

「労使見解」は常に私たちに、経営者としてのあるべき姿を問いかけ、労使関係の創造的発展こそ企業成長の原動力であることを示し続けてきました。

私は、2代目として父親が経営していた会社に入社しました。やる気満々でしたが、古参社員との関係に悩みました。社員が定着しない、言わなければやってくれないという会社の風土をなんとか変えていこうと孤軍奮闘していました。

入社して24年後に愛知同友会と出会い、この20数年間の苦しみから脱却することができました。会社が儲からないのは「お客と社員が悪い」と思っていましたが、実は「経営者の問題」だと気づくことができたのです。

経営者が一番会社のことをわかっており、正しいという自信過剰・うぬぼれがありました。また、私が一番会社のことを心配していると思っていましたが、社員の言葉に耳を傾けてみると、それは大きな間違いだと気づきました。

経営指針を全社員と共有していく過程が、最大の「共育」

同友会でもよく聞く、「言うことを聞かないし、言わなければやってくれない社員をどうするか」という議論は、結局は経営者自身の問題なのです。経営者が社員を信じていなければ、社員からも信用されません。すると会社は「社員は問題点に気づいても言えない・言ってくれない社風」になってしまい、これが負のループを生み出します。

社員を悪く言う前に、その社員を誰が育てたのかという視点を持つことです。社員は誰を見て判断し行動しているのかを考えていくと、結局は経営者自身の問題だと気づきます。

私は、何のためにという「目的(Why)」を説明し、「君ならどうする」と意見を求めて、こちらから答えを出さないように心がけています。社員自身が考え、行動するための背景を明確にすれば、おのずと「How(方法)」を生み出せる環境がつくれます。危機を乗り越える企業づくりを進める上で、社員の力を引き出すリーダーシップと組織づくりが経営者の仕事・役割として求められています。私は全社一丸体制を築くにあたり、経営指針を全社員と共有していく過程が、最大の「共育」であると気づきました。

経営理念には「労使見解」の精神が入っているか

「労使見解」の精神を具現化することに『本質』があり、経営指針の根幹となる経営理念には「労使見解」の精神が入っていることが必須となります。

また、科学的な裏づけを持った経営戦略(方針)を作り、それに基づいた経営計画を作っているでしょうか。理念・方針・計画の整合性が確認されなければ、社員が混乱し、信頼関係が崩れるきっかけとなってしまいます。

そのために、経営指針の目標に対するフォロー体制を確立できているかが重要となり、社内で常に小さなPDCAサイクルを回す・管理会計を行うという習慣ができているかが問われます。

当社でも決算前に階層別に会議体を設け、決算後の経営指針発表会、毎月の月次社長発表、決算半年後には半期修正会議を行いながら、常にチェック体制を整えています。経営理念はトップダウンですが、ビジョン・方針・計画の遂行は、各組織に与えられた役割に応じてそれぞれが「自分の頭で考え、行動する」ようになること。この、ボトムアップの考え方が大切です。

やるべき事が明確になり、各々の役割に応じた方針展開ができれば、社員に「やらされ感」がなくなり、自ら改善に取り組むようになります。この行動があってこそ「全社一丸体制」ができ、企業体質の強化が図れます。経営者自身が「人を教え育てるのではなく、育つ状態の風土をつくり上げること」が共育だと認識することが必要です。

社員はもっとも信頼できるパートナー

私自身、当初は経営者と社員がパートナーという考え方に納得がいきませんでした。しかし、先輩会員に「お前は会社をつぶしたいのか」と迫られ、ハッと気づかされました。「社員の幸せ」について、私の考え方が間違っていたからです。生産を豊かにする〔生産条件〕から、人間らしく生きる〔生存条件〕へと経営姿勢を変えました。

まずは、人(人格)として認めること。これは違いを認めることです。同友会でいう「自主・民主・連帯の精神」につながります。そして長けている個性を生かすことで、一人ひとりが持ち味(潜在能力)を発揮できるよう意識しました。また、「命の重さ」に差はありません。「生きる」ことそのものに価値があると認識し、他人を思いやる心のある企業風土を築いてこそ、働きやすい風土になります。他人の痛みを感じる心を持てれば、相手の立場に立って考えることができます。

社員の評価で意識していることは、「絶対評価」と「相対評価」です。絶対評価は、個々人の目標の達成度に基づいて評価する視点なので、他人との比較でなく、過去の自分と比べてどれだけ成長したかということになります。相対評価では、集団内での比較に基づく評価となるため、仕事ができる・できないで社員を見ることになり、評価される側が不公平感を感じやすく、モチベーションの低下につながります。社員同士の足の引っ張り合いが起こることも考えられます。当社では絶対評価を用いて、一人ひとりの持ち味(潜在能力)の発揮できる部署で働いてもらうことにしています。

経営環境の改善にも労使が力を合わせる

経営を安定的に発展させるためには、外部経営環境の改善にも労使が力を合わせていく必要があります。具体的には賃金に関する問題が挙げられます。

これはまず、「労使見解」の第4項に書かれていますが、(1)社会的な賃金水準、賃上げ相場、(2)企業における実際的な支払い能力、力量、(3)物価の動向、この3つの側面を正確に掴み、労働者に誠意を持って説得し解決を図ること。一方で、その支払い能力を保証するための経営(改善)計画を、労働者に周知徹底させることが必要です。

今、最低賃金1500円の議論が出てきています。労働力不足がさらに深刻になってくる中で、今から対応を検討していく必要があります。当社で計算してみると、最低賃金で月5万7400円アップ、(1人年間約70万円昇給の見当)になります。ほかに、社会保険料、税制(年収130万の壁、インボイス)、下請け取引法順守、支払い条件などの外部環境の課題が挙げられます。

130万の壁については、単価は上げるが年収を130万円で納めなければならないとすると、12月にはパート社員が働きに来られないという状況が生まれてしまいます。当社では、早めに有給休暇を取得してもらい、年間で働く時間をならすということをしています。

こういった世の中の動きを知らずに経営をしていると、仕事はあっても人手がないという問題にぶつかります。社会の矛盾、経営をしていく上で個社ではどうしようもない問題に関しては、声を挙げていかなければなりません。

経済環境の激変や人口減少による人手不足は一見、私たちには危機に見えます。しかし、今ある仕事は必ずなくなるという視点で市場創造を常に行い、今いる社員は必ずいなくなるという視点で採用・共育をし続けていけば、危機もチャンスとなります。

「あなたはやっていますか」と問う加藤氏

同友会を正しく学び自社・地域で実践を

同友会は経営者が学ぶ場です。そして、各社での実践が求められます。学びっぱなしではなく、「あなたはやっていますか」と投げかけたいと思います。

本日は、同友会が大切にしている「労使見解」ができた背景も含めてお伝えしました。我流の解釈ではなく、同友会運動をつくってきた先人の想いを引き継ぎながら、今の時代や自社に合った同友会での学びを実践していきましょう。自分だけの知恵や1人の行動では限界があります。同友会には多くの仲間がいますので、TTP(徹底的にパクる)をしてください。

また、地域からあてにされる企業を目指す上でも、同友会会員として地域づくりに積極的に関わることが重要です。会社所在地か自宅所在地の地区に所属し、日頃から顔を合わせていればこそ、地域の住民の困りごとに仲間同士で対応ができるし、いざ災害が起きた時に団結できると私は思っています。最後に頼りになるのは、結局は近くにいる仲間です。

また地域の学区の中で、小・中・高校を通して地域で学ぶ場をつくること、PTAに関わり、先生と共に学生を育てる視点を持つこと、そしてその子たちが社会人になった時に自社が選ばれる企業になっていること、それが大きな地域づくりだと思います。

これらのことは、会社や自宅から離れた地区に所属し、わざわざ出かけていてはできないのではないでしょうか。

経営者として本当に必要なことは何なのか、目線を上げて考えていただきたいと思います。

自社の立ち位置を把握するツールとして紹介
大きなPDCAサイクルを回す

「大きなPDCAサイクル」を回す

「大きなPDCAサイクル」とは、P(Plan)は「経営指針の作成と見直し」であり、毎年行います。これが、企業体質強化のレベルアップにつながります。実際に当社も業績が上がっています。

D(Do)は「小さなPDCAサイクル」を回すこと(管理会計の実践と課題解決)で、実践的な共育を指します。

C(Check)は「企業変革支援プログラム」にてチェックをすることです。自社の診断結果をe.doyuに登録することで、全国の会員企業と比較ができ、さらに良い会社にするためのヒントを得ることができます。自社の決算書だけを見ていても自社の問題点は見えてきません。

A(Action)は翌年の「経営指針書」に反映し、内容の充実を図ることです。これが結果的に、社員の成長、会社の維持・発展につながっていきます。

これだけのことを私は30年かけて、根気よく諦めずにやってきました。そう簡単にできるものではありません。皆さんも焦らずに、目先の手も打ちながら、少し先を見る余裕をつくっていただければと思います。

【文責:事務局 下脇】