【特集】労使見解50年
人間尊重の企業経営めざして(後編)

1975年1月22日に当時の中小企業家が議論を重ねた「中小企業における労使関係の見解(以下、労使見解)」が発表されました。それから50年の節目にあたり、本記事では中部経済新聞1月30日号に掲載した「愛知中小企業家同友会特集」巻頭記事を2回に分けて再掲し、この労使見解の歴史や経営者が向き合ってきた課題、その後の展開についてひもといていきます。
前編では労使見解の歴史経緯と学ぶべき点を紹介しました。後編となる今回は、愛知同友会における取り組みを紹介し、今後の同友会運動において労使見解をどう位置づけるのかを提起します。
愛知同友会での昨今の取り組み
愛知同友会では、中同協の経営労働問題全国交流会や障害者問題全国交流会、人を生かす経営全国交流会などの開催で、労使見解の根底にある4つの「学ぶべき点」を全国の経営者と学び合うとともに、会内委員会の活動を通じて、労使見解に基づく企業づくりを進めてきました。
今では、人間尊重の精神の具体化のため、人に関する5つの委員会(共育、共同求人、労務労働、障害者自立応援、協働共生)と経営指針推進本部が連携しながら活動を進め、愛知同友会の中で重要な役割を果たしています。
また昨今、共働き世帯の増加や育児・介護をはじめとした私生活と仕事の両立、性認識の多様性など、さまざまな事情で生きづらさや働きづらさを抱える社員を、企業としてどう受け入れるのか、中小企業の現場から多様な課題が寄せられています。
一方で、採用難による人材不足や転職市場の活性化による社員の転職や離職、最低賃金上昇による人件費の増加も経営者の頭を悩ませています。
今後も、経営上の壁に直面するごとに労使見解に立ち返り、経営者としてどのような会社をめざしていくのか、会員同士で切磋琢磨しながら向き合っていきます。


新しいステージにおける労使見解
昨年11月14・15日と長崎で開催された第8回「人を生かす経営全国交流会」の問題提起で、加藤明彦氏(エイベックス(株)代表取締役会長)/中同協・人を生かす経営推進協議会代表(愛知同友会相談役理事)は、労使見解の今日的意義を以下のように述べています。本稿のまとめとして紹介します。
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同友会運動は「3つの目的」を掲げ、「自主・民主・連帯の精神」に立ち、「国民や地域と共に歩む中小企業」の姿勢を貫き、その創造的実践によって時代とともに発展してきました。そして、労使見解で提唱されている人間尊重経営とは、今の時代ではダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)と読み替えることができます。
同友会が他団体と違うのは、人間を尊重する企業づくりを真正面に打ち出していることだと思っています。同友会運動は人を生かす経営を実践して、人が生きる社会をつくっていく、非常に壮大な運動です。
経営指針・採用・共育を三位一体として社内で推進していかなければなりません。採用では経営指針のビジョンを語り、共育では方針・計画に基づく目的と役割をしっかり果たして会社をブランド化していくことが大事です。
今後、ますます激しくなる人手不足が予測される時代だからこそ、働く中で成長し、人生の豊かさを実感するための共育を行い、働きやすい働きがいのある企業づくり、すなわち「人を生かす経営」を進めていかなければなりません。
今まさに同友会運動が、時代の1丁目一番地のど真ん中に来ています。その自信を持って運動を進めていきましょう。

【連載/第2回】我が社と労使関係
~「労使見解」50年に寄せて
「自社の永続」へすべてはつながる
佐藤 祐一氏 (株)羽根田商会

弊社は名古屋・大須で生産財を専門的に扱う商社です。自動車を中心とした製造業を顧客とし、国内に6拠点、海外3拠点を展開しています。私は2代目として1997年に社長に就任し、同時に同友会に入会しました。
当初はとても真面目な会員とは言えませんでしたが、同友会で多くの先輩や仲間と出会う中で、大いに刺激を受け、学ぶ機会をいただきました。そして、同友会の土台となるものが「労使見解」であるということに気づいてから、ようやく経営理念を中心とする経営指針や三位一体の経営、中小企業憲章がつながり、同友会理念の意味がわかるようになってきました。
労使見解の実践は、まだまだですが、日々「経営者の責任」、「経営指針の共有」、「社員をパートナーとしているか」、「経営環境・地域の改善ができているか」と自問自答し続けています。そして、そのすべてにつながることとして「自社を永続させる」ということを強く意識しています。永続できれば、社員は安心して働けます。自社に未来が見えれば希望が生まれます。地域の人たちもあてにしてくれるでしょう。
そして、永続するためには、社員と方向性を合わせるための経営指針、社内報、毎日発信するボイスメールなどの日々の意思疎通が不可欠です。そうして情報共有ができれば、社員も自ら何をすべきか考えることができます。自分で考えて行動する。これこそが人間尊重であり、やりがいだと思うのです。
だからこそ、会社も常に挑戦し、社員の「やりたい」を後押しする風土をつくらなければなりません。弊社は、代替わりが近いため、組織力の向上が課題です。世代交代にもびくともしない永続できる会社を目指し、労使見解をさらに深め、実践していきたいと思います。
労使見解の実践は、どこからでもよいと思います。足らないところを埋め、よい会社をつくることで、「事業経営を通して、よりよい社会を創る」という同友会運動に、共に邁進していきましょう。