活動報告

第60回定時総会 基調報告(4)4月22日(最終回)

同友会らしい「人を生かす経営」で、未来を切り拓く
~コロナ禍だからこそ、同友会運動と企業経営は不離一体

今年4月22日、愛知同友会定時総会で報告する加藤相談役

加藤 明彦氏
エイベックス(株)代表取締役会長
愛知同友会相談役(前会長)・中同協副会長

第60回定時総会での加藤明彦相談役(前会長)の基調報告の4回目(最終回)です。企業づくりの考え方を語ります。

 今までの基調報告

『経営者としての責任・心がけ』は、できていますか
~同友会運動と企業経営は不離一体

今ある仕事は必ずなくなる

企業づくりで大切なのは、まずは市場創造と人材育成です。これは中同協の「21世紀型企業づくり」から学んだことであり、経営戦略を策定する上で、この学びは非常に大きかったです。

なぜ市場創造をしなければならないか。今ある仕事は必ずなくなるからです。時代の流れとともに、取り扱い製品が消滅していきます。

自社でいうと、創業時は家庭用ミシン部品を作っていました。次に8ミリ映写機の部品で、それから自動車ブレーキ関連部品、そして今は油圧用スプールバルブ部品が中心で、一部、電子制御ソレノイド部品を作っています。このように、時代とともに市場ニーズが変化しているのです。

コロナ禍でも積極的な設備投資

自動車業界は今、CASE(コネクト・自動運転・シェアリング・電動化)というキーワードに代表されるように、大きな変革期を迎えています。こうした時代に、いかに自社の未来戦略を描くかが重要になります。

当社の売上げのうち、3割は新しい仕事で、コロナ禍であっても設備投資を積極的にやっています。またBCP対策の一環で工場再編をして製造過程を集約し、新製品を受注するために、思い切って去年3月には新工場をつくりました。

さらに、「CO削減に対して努力していない会社と取り引きしません」という時代が来ると予測をして、カーボン・ニュートラルというエネルギー・シフトに向け、既に手を打っている状況です。

今いる社員は必ずいなくなる

次は人材です。今いる社員は必ずいなくなります。つまり、誰もが歳をとり、死を迎える、要するに永久には生き続けられないのです。

ある会合でグループ討論をしていた時に、「うちは今の10人のままでいいんだ」と言う方がいました。社員の平均年齢は50歳、60歳で定年だと言うのですが、その会社は10年ほど経ったら誰もいなくなります。

目の前の経営をしているだけで、ビジョン(戦略)の重要さに気がつかない。「人間は、歳をとり必ず死ぬ」のです。人生は一度しかありません。毎年のように採用と育成を行わないと、生産活動が維持できなくなるのです。

経営者は全社員の年齢構成の把握と、5~10年単位の長期的な人材採用と育成の視点が求められます。製造業においては、互いに教えあう風土づくりのためにも、60歳代→40歳代→20歳代と「生産技術継承」のためにも、計画的な採用と育成が必要となるのです。

社員は経営者を選べない

次に、事業承継の話です。多くの経営者は、社長が交代しても、社員はついてきてくれると考えているようですが、果たしてそうでしょうか。社員は社長が変わった途端に辞めていくかもしれません。

M&Aの場合は特にそうです。経営者は次の後継者を選べるかもしれませんが、社員は社長を選べないのです。社長交代に納得できないと辞める社員もいるかもしれませんし、一気に業績が落ち込むかもしれません。

変えてはいけないもの
~経営理念

経営者が代わっても、「変えてはいけないもの」。それは自社の歴史や創業の思いなどを踏まえた経営理念です。社員はこの理念を自らのものとして捉えているからこそ、ついてくるのです。

経営思想は変えてはいけないですよね。これを変えたらゼロから会社を創るようなものです。これが1つです。

変えるべきもの
~ビジョン(戦略)・方針・計画

それから「変えるべきもの」ですが、ビジョン(戦略)・方針・計画と成功体験です。私は社長交代をしてから、過去の成功体験はあえて伝えないようにしています。

ある案件で、あえて何も言わず、現社長(息子)に失敗させ、約1000万円の損失を出させました。息子は「わかっていたなら、なんで言ってくれないのか」と怒りました。「今の気持ちは」と聞くと「悔しい」と答え、「悔しいから2000万円稼ぐ」と言ったので、私はその心意気がいいと思いました。困難を身をもって体験していくのです。

今から経験を積んでいくので、私とは経験年数が違います。時代も変わっています。10年間ずっと見てきましたが、成功体験を言わなくて良かったと思います。

今、息子は親会社との関係上、子会社をつくってインドネシア進出の方針をとりました。私の時は、海外進出せずに、国内にいて海外からの仕事をとる方針をとりました。

しかし、時代と環境が変わったのです。インドネシアに工場を出すことで、国内の会社の仕事をとるといいます。ここで大事なのは、変えるべきはビジョン(戦略)ということです。

トップダウンとボトムアップ

トップダウンとボトムアップのバランスの問題について触れたいと思います。これは経営指針を展開する上で、また同友会の「共育」の考えを実践する上で、非常に重要な課題です。

経営理念(経営思想)はトップダウンですが、ビジョン(戦略)・方針・計画は、組織に与えられた役割に応じて各々が「自分の頭で考え、行動する」ようになることこそが理想です。ボトムアップ方式で下から具体的な意見をもらい、積み上げていく必要があります。そうしないと社員の自主性が育たないのです。

この行動があってこそ「全社一丸体制」ができて、企業体質の強化が図れる、また経営者と社員の信頼関係が生まれるのです。

得意技を生かした『市場創造』をするための経営戦略
~エイベックスの事業領域を考える

2008年リーマン・ショックを経て

当社は自動車部品製造業で、2マイクロメートル外径精度で日量50万本を生産しており、「高精度小物切削・研削加工を『極める』プロフェッショナル集団」です。

2008年のリーマン・ショックまでは売上げのほとんどがA/T(オートマチックトランスミッション)に関わる自動車部品でしたが、この危機を乗り越えた経験から、「切削」と「研削」という分野に特化し、事業領域を拡大してきました。

この技術を生かせる分野とは何か、を考え直すことで、新たな市場も見えてきたのです。

小さな市場で大きな占有率

まずリーマン・ショックまでは、切削・研削加工の「何でも屋」から脱却し、市場の絞り込みと差別化に取り組むこと、A/T・油圧制御スプールバルブに特化し、小さな市場で大きな占有率を得る営業戦略です。【図1参照】

【図1】市場の絞り込みと差別化に取り組む(経営戦略)
小さな市場で大きな占有率を得る営業戦略で、世界シェア8%

スプールバルブに絞ると、お客さんも見えるし、ライバルに勝つための方法も見えてきます。絞り込むことによって強みと弱みが見えてくる。小さな市場で大きな占有率という考え方で業績を伸ばしてきました。

事業領域の展開・拡大

リーマン・ショック後では、事業領域の展開・拡大を図るということに関して、アンゾフの4つの窓を応用し、自社に当てはめた図があります。

当社の経営戦略(10年ビジョン)で、自動車部品製造業と絞らない仕事の領域幅を広げることを掲げ、「経営指針」を点検し、方向性を確認することで全社員のベクトルを合わせてきたのです。【図2参照】

【図2】事業領域の展開・拡大を図る(市場創造)

同友会運動の今日的価値とは

「自主的な団体」であることが原点

最後に、「これだけはお伝えしたい」ことを述べて、報告のまとめといたします。

皆さんに誇りとしていただきたいのが、1つ目として同友会設立の歴史的背景です。自主的な団体であり、他の経営者団体との明確な違いは、自主運営を徹底し、ひもつきでないことです。

2つ目は、苦しいから補助金をよこせとか、おねだりをする団体とは違うという点です。行政が施策を打ちやすいように情報提供をしていく、これが私たちの役割です。

3つ目には、常に真面目に、愚直に勉強している会、経営者としてのあるべき姿を描き、思考・行動している団体だということです。

最後には、同友会理念の普遍性に思いを致し、改めて同友会で学びあう意味を問い直すことです。これまでの同友会運動の歴史、先人の実践、同友会理念の論理的検討、これらの到達点を自ら学びとる努力、そして実行するのは皆さんなのです。

人間が人間らしく

現在のコロナ危機の克服に向けては、科学性、社会性、人間性に貫かれた経営理念の実践と、人類の根本的な価値観としての自主・民主・連帯の精神、まさに生きる、暮らしを守る、人間らしく生きることが原点にあります。

これがコロナ禍を乗り切るためのベースだと私は思います。改めて人を生かす経営の具体的な実践を積み重ねることが大切です。経営者として毎日。これは企業努力です。実践を積み重ねることが、ポスト・コロナで飛躍する中小企業の確かな道筋です。

そして中小企業から社会へ展望を示すこと。これは私たちが発信するのです。そうして共に困難な時期を乗り越えていきましょう。

【文責:専務理事・内輪】